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天使と悪魔と俺と、  作者: よもた24
後輩とライバル
18/21

18話 対悪魔達

 ただの学校の屋上。そこは彼女にとってお気に入りの場所だった。

 なぜなら、そこからなら街全体を見渡せるからだ。

 もともと山があったのを切り崩して建てた校舎のためそこいらのマンションよりも標高は高いのだ。

 彼女はここから見る景色が好きだった。

 なぜなら、人々が観察できるから。

 会社に急ぐサラリーマン、散歩をする老人、子供と買い物をする主婦。多種多様な人々は彼女を楽しませた。

 しかし、ある時彼女は思ってしまった。

 退屈だ、と。

 変わらぬ風景はいつまでも彼女を楽しませる事はできなかった。

 そんな退屈が続いた後、彼女に転機が訪れた。

 彼女の退屈を打ち崩す存在が現れたのだ。

 すかさず彼女は持ち前の好奇心で行動に移した。

 手応えはあった。これなら退屈だった景色を変化させる事ができるだろうと。

 今の彼女にはこの場所から見える風景がどのように変化するのかが楽しみだった。

 そんな屋上に一人の来客が現れる。

 彼女は来客の彼に微笑む。


「あなたも楽しみでしょ?」


 悪魔はそう言った。




 7月31日夜の8時。俺はあれから東條を探すため朝、昼、夜と起きている間は街をさ迷っていた。

 しかし、東條の姿はなく変わりに現れたのは下級悪魔の群れだった。


(これ、東條のために呼び集めてんのか?)


 俺はとりあえず目につく悪魔たちを駆除していく。


(そうとしか思えない。でもこれで探しやすくなった)


(本当かよ?)


 この数日の間、東奔西走したものだが東條の手がかりすら見つけられなかったのになぜ今になって?


(今下級悪魔達が異常な速度で消えている場所が二ヶ所あるわ)


(? それって俺とアンジュのいる場所じゃないのか)


 アンジュは現在街の南側での探索をしている。

 俺はというと間反対の北側担当だ。

 それなら、異常な場所って言うのは北側と南側じゃあ。


(私、今悪魔達を倒してないの。それどころか、南側に悪魔は出ていないわ)


 となれば、一ヶ所が今駆除活動している俺だとして、もう一ヶ所は………


(東がいる場所から少し西側よ、多分そこに)


(東條がいるんだな)


 アンジュの誘導に従いついた先はここら辺じゃ有名な公園だった。かなり大きな公園で単純に球場をたてられる広さを持ち、真中には池がありそれなりに趣があるデートスポットだ。

 いつか、アンジュと一緒に公園を歩きたい等と思っていたがまさかこんな形で叶うとは。


「ここまで近づけばハッキリとわかる。この先にあの悪魔がいる」


 公園内で合流したアンジュと供に俺は目的の場所へとむかった。


「よお、西東。早かったじゃないか………」


「久しぶり、お兄ちゃん」


 公園の奥にいたのはあの悪魔と数日の内に見違えるように変わってしまった東條だった。

 目の下には大きな隈ができており、頬はやつれ血色が悪く顔が青白い、変わってない点を挙げるとしたらそれは俺の事を睨む目ぐらいだろう。

 衰弱している様でありながら、その目から溢れる憎悪の念はいっこうに弱まることを知らないと見る。


「………っ」


 つい後ずさってしまう。今まで生きてきて殺気というのを受けた事はないし、あれは最早狂気と呼ばれるものじゃないのか。


「なにびびってんだよ! これから殺し合いをしようって言うのによ」


「俺はお前を殺しに来た訳じゃない」


「それじゃあ、何しに来たって言うんだよ?」


「お前を助けに来た」


 悪魔と契約を交わした人間は異常な能力を手にする代わりにその魂を悪魔に蝕まれていく、数日前にアンジュから聞いた説明を思い出す。

 確かに数日であの変貌ぶりは異常だ。すぐに悪魔を切り離さないと東條が死んでしまう。


「助けてくれるって? そんならよお、今すぐ死んでくれよ!!!」


 途端、東條の手に闇が収束し形を現す。

 それは前に見た刀ではなく、巨大な剣だ。

 手にしている東條よりも一回り大きく、刃は鋸のような凹凸を作り対象を痛めつけるような構造だった。


「見ろよこれ!! 悪魔供を餌にしたらこんなに大きくなっちまった!!!」


 重さがないのか、東條は片手で軽々と振り回す。

 これも悪魔の契約の力なのか。


(東、やれる?)


(なんとかやる)


 この数日、ただがむしゃらに東條を探していた訳じゃない。

 アンジュから、加護についてのレクチャーを受けたのだ。

 なんでも、俺の心の持ちようで強くなったり、弱くなったりするらしい。

 腕を切り落とされたときも、殴るのを躊躇して弱気になっていた影響だとか。


(東の加護はあなたの気持ちによって、効果が発揮されるから。絶対気持ちで負けちゃだめだからね)


「じゃあ、天使さん。私達は空で遊びましょう」


 悪魔の言葉に応じて、二人は空高く飛翔していった。

 これも、事前に打ち合わせたとうりだ。

 アンジュはまだ本調子には戻っていない。

 それは悪魔も同じ条件だというのが俺達の見解だが、聞けば前回の襲撃の時は足止めをされただけで攻撃はなにもされなかったとのことだった。

 なら、二対二で戦闘を初めて無駄に悪魔を刺激するよりも一対一の形をとり東條を倒す事だけに集中するという段取りになった。


 俺から言い出したため、もう後には引けない。


「じゃあ、始めようか東條」


「ああいいぜ、西東」





(天崎さん、戦闘が始まった。東に念を送ってあげて)


(ラジャです。ところでどちらのほうに?)


(方角は気にしなくて大丈夫よ)


(はーい)


 天崎がこちらに来るつもりだったのがアンジュにはすぐに分かった。困った子、というのがアンジュの評価だ。


(東といい、天崎さんといい、なぜこうも加護が効きすぎるのだろうか)


 彼女に加護をかけた直後にアンジュは異変を察知した。

 まるで、天崎にかけた『結びの加護』の影響を自分も受けているかのように力が溢れてきたのだ。

 結びの対象は東にしたはずだったが、どうやら彼女の特異体質が加護を改変したらしい。


(おかげで、今晩は戦う予定じゃない私まで元気になっちゃったわ)


 予定ではないだけで、アンジュはいつでも東を助けに入れるように遥かしたの地上へと意識を集中した。


(それにしてもこんなに無防備でも攻撃してこないなんてどういうつもりかしら)


 東の作戦は半信半疑な、アンジュだったが悪魔の対応を見るに東の読みは的中したようだ。


(これなら、今すぐにでも東の方に向かっても………)


「駄目だよ。天使さん」


 アンジュの目の前にいる悪魔が言い放つ。


「お兄ちゃんの邪魔はさせないよ」


 笑っている悪魔の無害だった雰囲気は一変し、アンジュが下に向かおうとするならばすぐにでも攻撃を開始すると言わんばかりだった。


 こうなってしまえば、下手に刺激して攻撃されてしまう訳にはいかず、東が勝つのを待つしかなかった。


(でも、いざとなれば………東の元へ)




 東條の攻撃は苛烈だった。反撃する隙がなく、防戦一方だった。

 何度目かの東條の一撃を両腕で防ぐ。

 刃は俺の体を傷つける事はなかったが、痛みと衝撃はしっかりと俺に襲いかかる。


「今日は頑丈だなあ!!!」


 鋸刃が想像以上に痛いし、受ける度に金属バットで殴られたように体に響く。

 天崎が受けた、加護のお陰でそれくらいですんでるのかもしれないが。


「少しは加減しろよ!」


「誰がしてやるか!!」


 俺の言葉は東條の神経を逆撫でしたようで、二撃、三撃と連続攻撃を受ける羽目になってしまった。

 致命傷を負う事はなくても、このままでは動けなくなるのも時間の問題だ。

 なんとか、反撃の糸口を見つけなくては………

 そう考えた直後に大剣の刃が俺の腕に食い込み、赤い血が溢れだす。


「こんなもんかよ。西東」


 均衡した状況が続くと楽観していた。東條が使っている力は悪魔のものだ。

 アンジュから悪魔の特性は事前に聞いている。

 悪魔は人の魂を喰らい成長すると、つまり徐々に俺の加護を上回っていくということだ。

 東條の姿はこの数分間の間にやつれ始めていた。

 こちらから攻撃は一切してないにも関わらず、ダメージを受けたかのように消耗し、目から血涙を流していた。

 残された時間は殆どない、ここは無理にでも攻撃をしなければ。


(今の東の攻撃なら、ある程度悪魔を浄化できるはずよ)


 もう防御はしない、体で受ける覚悟を決め、攻撃の合間を縫うように俺は東條の鳩尾めがけて拳を放つ。

 これ以上、東條の魂を悪魔に喰わせる訳にはいかない。


「甘えよ!!!」


「うっえ!?」


 拳は東條の体に届く事はなかった。躊躇など一切ない俺の一撃より、東條の一撃が俺の腹部に入るのが早かったのだ。

 刃は俺の腹部を切り裂き、身構えてなかったため、薙ぎ払われると同時に体は後方に吹き飛ばされる。


 地面を二転三転したが、転がった分の痛みはない。

 切り裂かれた腹部も少し身を傷つけただけで致命傷という程ではない。どちらかというと殴られた痛みの方が激しいが………まだ、やれる。


「もう、無理だろ」


 目の前には大剣を今にも振り下ろそうとする東條が立っていた。

 絶対的有利という状況にも係わらず、彼の姿は今にも事切れてしまいそうな雰囲気を漂わせていた。


「これで終いだな」


 大剣の刃が俺の首へと迫った。






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