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天使と悪魔と俺と、  作者: よもた24
後輩とライバル
17/21

17話 戦いの前に

「この人が天使で、東條先輩は悪魔にとりつかれて、東先輩を襲った、てことですね」


 腕や肩の傷は天使の治療で元通りになったが、状況は少しややこしくなった。

 東條との戦いに加えて、天使のアンジュが空から降りて来た所を見た天崎には事情を説明しなければならなくなったからだ。


(記憶消したりできないわけ?)


(残念だけどそういう能力は私にはないの)


 との事なので、残念ながら完全に巻き込んでしまう形になってしまったわけだ。


「天崎 南です。よろしくお願いします」


「天使のアンジュよ。 よろしく南」


 人気のない小さな公園。ベンチに座る天使と後輩の挨拶は特に問題はなかった。

 俺もそうだが、天崎もよくこんなファンタジーな状況を自然に飲み込めるものだ。

 やはり、そういった被害にあってから説明を受ければ飲み込むのは簡単という事か。


「東先輩どんなひどい目にあってるんですか!?」


 第一声がそれか。まあ、そうだよな。自分の事だが客観的に見ればそのとうりだと思う。


 悪魔なんて空想上の存在に殺されそうになったり…殺されそうになったり………なんで殺されそうになってるんだ? ただの高校生だぞ俺は。もっと、普通の生活をおくらせてくれ。


「ところで、なんで先輩がその滅茶苦茶強い悪魔に狙われてるんですか?」


 今までいつ死ぬかわからない恐怖から、考えもしなかったが俺が狙われるのに何か明確な理由があるのだろうか? アンジュとの話で悪魔の気まぐれなんだと思っていたんだが。


「なぜ狙われてる理由は私にはわからない。特に考えなんてないと思うわ」


 アンジュの口からは明確な答えは出てこなかった。

 それにしても理由なく狙われるなんて、ついて無さすぎだろう。


「ふ~ん。まあなんにせよ先輩は戦わなくちゃいけない訳ですか…」


 天崎の言うとうり俺は身を守るために、あの悪魔を倒さなくてはならない。たが………。


「正直、あんまり勝てる気がしないけどな」


 数日前の悪魔との戦いは、惨敗だったというのがアンジュとの見解だ。

 事前に準備を含めたアンジュの最大火力だったらしいが、悪魔に目立った損傷を与える事もできず、あまつさえ一撃で戦闘不能まで追い詰められたのだから、実力差を感じずにはいられないのが現状だ。

 悪魔が去ったのだって、消耗したからと言っていたがただの気まぐれだったのかもしれない。

 とか、うじうじ悪い方に考えても仕方がない。

 勝機がないわけではないんだから。


「それじゃあ、私も一緒に戦います」


「な!?」


 突然何を言い出してるんだ、この後輩。

 ちゃんと話聞いてなかったのか?


「戦うって、お前に何ができるんだよ?」


「先輩がアンジュさんに加護を貰ってるように、私にも加護をつけてくれれば私も戦えるでしょう」


 天崎の言うことに間違いはない。勝機のひとつは俺の受けた加護。

 アンジュにも理由はわからないそうだが、なぜか異常に身体能力が上がり悪魔を消滅させれるようになった。

 だが、天崎が加護を受け戦えるようになったとしても、ふたつ返事でよろしくなんて言えない。


「戦うって簡単に言うな! 死ぬかもしれないんだぞ!!」


 悪魔に襲われ俺は死にかけた。

 あの時の痛みは今でも覚えている、刻み付けられたと言っても過言ではない。

 なによりも、寒くなり意識を失っていくあの感覚は思い出せば体が震えて立ち竦む。

 天崎をそんな目にあわせるわけにはいかない。


「だからこそじゃないですか!! 先輩が死ぬかもしれないのに何もしないわけないじゃないですか!!」


「………っ」


 返す言葉がなかった。知られた時点で手遅れだった。

 俺も天崎の立場だったら、彼女と同じ事を言っただろう………が彼女の気持ちを理解できるからって認めるわけにはいかない。


「アンジュ、天使側から援軍ってのは頼めないのか?」


 天崎に協力してもらうより、他の天使達が来てくれればいい話だ。

 俺とアンジュに他の天使が来てくれれば話は簡単になる。

 最早俺も戦力として不要になるだろう。

 しかし、アンジュの口から出たのは否定の言葉だった。


「援軍は呼べないの」


 アンジュの表情が悔しそうに歪む。

 そこから読みとれるのは本当に不可能ということだけ。


「なんで呼べないんだ?」


「この街には特別な結界が張ってあるの。天使だけを受け付けない特殊なものが」


 結界? その話は初めて聞いた。だけど現に天使であるアンジュは目の前にいるではないか。


「私はその結界に対応できるように創られているからなの」


 アンジュはまるで意を決したように話始めた。


「私は任務を受けてこの街に来たの。………神を探しに」




 神は世界を造ったがすぐに姿を消した。

 天使達は神の姿を長らく見たことがなかった。

 あるとき、天使達は神が現世にいることを知った。

 きっかけは魔力とは違う膨大な力の反応を感知したからだ。

 すぐさま現地に向かった結果、神は人の姿をとり、人として生活していた。

 天使達は神を天界に連れて帰ろうとしたが、上手くいかず神は何度も転生し人として生きた。

 それゆえ天界に神の姿は未だ戻らず。




「この街で神の力を感知したのは今から十年前。その時私は創られた。結界に対応できるって言ってもこの街に入るのに十年かかったんだけど」


 なんというか、突然スケールの大きな話を聞いてしまったのだが、ほとんどが理解できなかったが、援軍を呼んだとしても来るのが十年後なんて笑えない話だ。

 天崎もあまりにも突拍子もない話過ぎて、首を傾げたまま虚空を見ている。


「だから、あの悪魔は私達で対処しなければならない」


「それなら私を…」

 アンジュの言葉に反応してか、考えるのを止めていた天崎が口を開くが、


「それは駄目」


 ピシャリとアンジュが言い放つ。


「天崎さんを戦わせるのは私も反対。あの悪魔の強さは異常なの。戦いになれば天崎さんが生きてられる保証はできない」


「それでも、私は先輩を放ってはいられません」


 天崎の言葉は大変ありがたいが、彼女の安全のためだ。ここはなんとか納得してもらわないと。


「ただ、天崎さんに加護は与えるわ」


「え?」


「え?」


 天崎と揃って間抜けな声をあげてしまった。今なんと?

 戦わせないんじゃ?


「勘違いしないで、彼女に与えるのは東とは違うものよ」


「違うって?」


 それじゃあ、いったい天崎になんの加護を与えるっていうんだ。


「一つは悪魔除けの加護。天崎さんは悪魔を寄せ付けやすい体質だからね」


 そう言えば、昨日はそれで苦労したのだった。

 彼女の身の安全を気にするなら、まずその加護を与えなければ話にならない。


「私ってそんな特異体質だったんですか?」


「どうもそうらしい。だから昨日はあっち、こっちから下級悪魔が寄って来て、駆除するの大変だったんだからな」


「あ~、それで昨日様子がおかしかったんですね」


 昨日の俺の姿を思い出してか、天崎はクスクスと笑い始めた。

 笑ってんじゃねーよ。感謝しろ、感謝を。


「もう一つは『結びの加護』を与えるわ」


 なんだ、そのいかにも色恋沙汰に発展しそうな名前の加護は。

 天崎なんてなんか興奮してるし。


「この加護は天崎の東への想いを強さに変換する加護よ。これで戦力強化になるわね」


「アンジュさん!! それ最高です!!! 私の想いさえあれば悪魔も東條先輩もイチコロです!!」


 案の定というか、アンジュの言葉に天崎の興奮は有頂天になってしまった。

 背中をバシバシと叩くのは止めて欲しい。こっちも少し恥ずかしい。


「後の問題は東條か」


 先程悪魔を連れ、現れた東條。

 まだ、あれが現実だったとは思えない自分がいる。

 あれは悪魔が見せた幻覚だったんじゃないかと疑っている。

 そうでなければ、俺はあいつと戦わないといけないって事になるじゃないか。


「人と契約した悪魔は厄介よ」


「と、言いますと?」


「単体としての悪魔は大した強さを持たない。一部例外はいるけどね。人との契約つまり繋りを持つとその強さは何倍にも増幅するわ」


「って、事は東條先輩もかなり強いって事ですか?」


「私ならすぐに悪魔を浄化する事もできるけど、多分悪魔が妨害して来るでしょうね」


「やっぱり、俺が戦うしかないってことか………」


 ぶっ殺すと言って襲いかかってきた東條。

 それほどに恨んでたのか………。

 まぁ、恨まれてても不思議じゃないが。いざ、ぶつけられると気分が沈んでしまう。


「アンジュさん、こっちから東條先輩を見つける事はできないんですか? そうすればアンジュさんがちょちょいのちょいっと浄化できるんじゃないですか」


 天崎の言うとうり、アンジュが悪魔の反応を察知して東條を無力化できればこの問題は万事解決なのだが、今こうして作戦会議を開いていることを鑑みると難しいのだろう。


「残念ながらそれもできないみたい。東達の前に現れるまで全く気配を感じなかったの、あまり役に立たないでごめんなさい」


 気落ちしてしまっているアンジュだが、それだけあの悪魔が一枚上手という事だろう。

 こうなってしまえば、アンジュにばかり頼ってはいられない。


「なら、東條は俺が探そう。同じ人間だ、俺でも見つけられるだろう」


「私も行きます!!」


 天崎は腕をまっすぐ挙げ挙手の姿勢をとるが俺はすかさずこう言った。


「脚下」


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