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天使と悪魔と俺と、  作者: よもた24
後輩とライバル
13/21

13話 揺らぐ、踏み込む

 天崎 南は中学の後輩で部活のマネージャーだ。

 当時はマネージャーの募集をしていないにもかかわらず、突然押し掛けてきたのをよく覚えている。

 最初は女子が入って来た事に皆、沸き上がったが、マネージャーとしての仕事振りを見て、次第に物珍しい女子としてでなく必要な仲間として迎え入れられた。

 洗濯に、差し入れ、敵チームの偵察、彼女はなんでもこなしたが、なにより凄かったのは練習に対しての理解である。

 チームメイトの苦手分野を見つけ、的確なアドバイスをしたり気がつけば顧問を差し置いて練習メニューを作り始めたときには誰も彼女に頭が上がらなくなった。


「先輩達が引退したときに、キャプテンに指名された時は驚きましたけどね」


 等といっているが、俺は知っている。少し前は監督としてベンチに入っていたことを。


「残念ながら私達の代も決勝で負けちゃいましたよ」


 なんでも、三年生のほとんどが怪我や病気で試合に出れなかったなか、二年生達主体でその成績なら上等なものだった。


「はい、先輩朝ごはんですよ」


 天崎が用意した朝食は、秋刀魚の塩焼きに味噌汁、だし巻き玉子と母ですら用意した所を見たことない、まさに日本の朝食といった有りようだった。


「家、魚も卵も味噌もなかったはずだけど」


「買ってきました」


 ニッコリと笑う彼女に俺はお金を渡そうとしたが、


「いいですよ、お金なんて。私の事彼女にしてくれたら解決です」


 と、頑なに拒んだ。

 流石にそこはなんとか、無理矢理受け取らせて朝食に箸をつける。

 思ったとうり、どれも否のつけようもないできだった。

 現在の時刻は朝の8時丁度。いつから家の台所を使っていたのだろう。


「合鍵なら、國見先輩に借りましたよ」


 國見の奴………大方面白がって天崎に渡したのだろう。そこは断れよ。


「先輩、美味しいですか?」


「凄くうまい」


 嘘をついても仕方ないのでここは正直に感想を伝える。

 これまでの人生、朝食はトーストだけだったのでとても新鮮である。


「よかった」


 天崎は嬉しそうにニコニコとわらっている。

 昔にくらべ、ショートだった髪型は背中まで伸びきっており、顔も子供っぽさが抜けどこか大人びた様に見える。

 アンジュ程では、ないが彼女も美少女といって差し支えないだろう。天使と人間を比べるものではないが。


「で、なにしに来たんだ? 天崎」


「なにって、國見先輩に変わって東先輩のお世話に来たんですよ」


「お世話って言うなら、もういいだろ? 朝ごはんは用意してくれたんだから帰ってくれ」


 正直、天崎が家にいると妙に落ち着かなくてしょうがない。

 早くご帰宅頂いて、國見に話をつけに行きたい。


「先輩まさか、私が作ったご飯を食べておいて、なにもお返しもするつもりがないってことですか?」


 彼女の一言に思わず箸が止まる。

 わざわざ作ってくれた彼女に言う台詞ではなかったのもあるが、重要なのは彼女がいう『お返し』という言葉だ。


「………話を聞こう」


「付き合ってください」



「却下」


「キスしてください」


「却下」


「じゃあ、これからデートしてください」


 最初に難易度の高い要求をして、すぐにそれよりも低い要求をしてくる、彼女の交渉術に舌を巻く。

 先に無理難題を聞いておくと、それくらいならと不思議と納得してしまう。


「わかった」


「流石先輩!!」


 気は進まないが天崎とデートをすることが決まってしまった。




「今日は暑いですね」


 隣を歩く天崎の言うとうり、今日は一段と陽射しがきつかったが、空中を飛び交う奇妙な存在達の事で頭が一杯だった。

 それは人の頭程のサイズの虫のようなものから、魚の様に尾やヒレがあるものまで、多種多様に存在しどれも生理的な嫌悪感を呼び起こす見た目をしている。


(なんか変なのが浮いてるんだけど…)


(ああ、それ下級悪魔よ)


 アンジュの説明によると俺にかかっている加護の影響で悪魔の存在を知覚できるようになってしまったらしい。

 現に隣を歩く天崎の視界に、気持ち悪い虫型の悪魔が横切ってもまるで反応がない。


(昨日から駆除してるんだけど、今日になってまた一段と増えたようなの)


 加護を受けて何日か過ごしたが今まで、下級悪魔というのが視界に入ることがなかったことを考えるとまさに異常事態というわけだ。


(とりつかれても、すぐに命の危機が訪れるわけじゃないけど、今日は外出しない方がいいよ。君の家に結界を張ってるからね)


 先程から俺達の回りをうろちょろしているのはとりつこうとしているというわけだ。

 これは家に帰った方がよさそうだ。


「今日は暑いから出掛けるのなしにしようぜ。また、日を改めよう」


「またまた、スポーツ馬鹿だった先輩がこの程度の暑さで音をあげるわけないじゃないですか」


 想定していた事だが、天崎は素直に同意してくれなかった。

 悪魔供がうろちょろしているって言うのに…


「もう、ずっと運動してなかったからな。体が弱って弱って、もう倒れそうだなー」


「じゃあ、これから何をするって言うんですか」


「そりゃあ、家に帰るんだよ」


「先輩の家ですか?」


「それ以外なにがあるんだよ」


 家に帰ってテレビ見たり、ゲームしたり、昼ご飯はまだだから朝食のお返しに俺が用意しても良いだろう。なんだったら國見も呼んでもいいかも知れない、何気に天崎と仲が良かった気がするし。

 ………というか悪魔達の量が増えた気がする。

 最初は2、3匹だったのが気付けば10匹程にもなって俺達の回りを、というより天崎の回りをうろちょろしている。


(なんか、妙に知り合いの回りに悪魔が集まってるような気がするんだが)


(悪魔を引き寄せやすい体質みたいだね。今何匹ぐらいいる?)


(今10匹ぐらいおります)


 現在進行形でどんどん数が増えていく。


(それは駄目ね、早く駆除しないと最悪命を落とすわ)


(マジで!? ど、どうすればいいんだよ)


(東には加護がついたままだから、悪魔を振り払う事ができるはずよ)


 あまり触りたくない、気色の悪い見た目をしているが天崎の命に関わる事だ躊躇っている場合ではない。


 俺は虫を振り払うように手を振り回す。あの巨人の影達のようになんの体温も感じない悪魔の身に触れた瞬間、霧のようになり消え去った。


(一匹ぐらいなら、なにもないところで躓いたり、物をなくしたりアンラッキーな事が起きるだけなんだけど、流石にそんな数がいると………)


(トラックに轢かれたり、頭に鉄柱が落下したりするって言うんだろ?)


(いや、突然死ぬ。もしくは存在がなくなって行方不明あつかいを受けるかな)


 最早、不幸になるというスケールを通り越した、ゾッとするような返答だった。

 格闘の末、なんとか天崎の回りを浮いていた悪魔を全て消滅させたが………天崎の様子が少しおかしい。

 目の前で忙しなく不審な動きをしていた俺に目もくれず、ずっと俯いたまま動かない。


(ま、まさか悪魔にとりつかれて…)


 アンジュに相談しようとしたその時、天崎は突然背中を向け両手で顔を覆い何やらぶつぶつと独り言をいいはじめた。


「先輩と………二人……屋根の下………ふ、うふふふ………」


 どうやら節だらな妄想に浸っているようだ。

 そういうつもりで言ったつもりはなかったのだが、

 ………これは悪魔の影響だと信じたい所だ。


「いや、帰るのなし。 どこに行こうか天崎」


「えっ………ま、まぁいいですけど」


 天崎は少し、残念そうな顔をしていたが、お互いの貞操を守るためだ。

 というかこの子、昔からこんな感じだっただろうか?


「じゃあ、若者らしい遊び場所に行きましょうか」


 悪魔を寄せつけやすい天崎を放っておくわけにもいかず、ましてや家で襲われるのは御免なのでデートを続行するしかなかった。



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