亜人のいる世界其ノ弍
前から文章分かりずらいと言われていたので多少改善したと思います。
1
ここは、世界を見渡せるほど高い塔の上。
そこから見える景色は、美しいと呼ぶにふさわしい情景だ。
「......どうして、世界はこんなにも綺麗なのに世界は美しくないのかな?」
窓からただ、夜明けの街を眺めていた少女はそう、言葉をこぼした。
どうやら、彼はもうすぐここへ来ることとなる。
そして、それもまた自分の運命であり、彼もまた自分の運命を受け入れなくてはならない。
審判の日は近い。
ここ最近、どうしても忙しくこうしてただ外を眺めるのはいつぶりだろうかと考えた。
そして、今日が過ぎたらまた、こうして外を眺めることは出来るのだろうか。
このままずっとこうしていたいと思う。
しかし、時間というものは、誰しも平等に与えられ、それは時に残酷に過ぎ去っていく。
この先の事を考えれば不安でないと言えばそれは嘘になってしまう。
嘘つきは泥棒の始まりだという言葉を考えた人はきっと嘘が嫌いでたまらなかったのだろう。
そんな想像をついしてしまう。
だけど、嘘をつくことで、少なくとも今は安心していられる。
いつもみたいに今日もそんな嘘を考えて、自分を守る術を探していた。
壁に掛けてある時計は正確に時を刻み、現在時刻は午前5時、少し早く起きてしまったなと昨日の早寝を少し後悔した。
「うーん、ちょっと早いけど、朝ごはんでも食べようかな。」
まだ、時間は少ないとはいえ、タイムリミットまでは少し時間がある。
気持ちの整理はそれまでにすればいい。
とりあいず今は、朝食を取って1日の活力を付けよう。
そして、歯を磨こう。
きっと、今日もいつもと変わらない朝が始まる。
けれど、きっと昼はいつもとは少し違う昼になるだろう。
もう一度、名残惜しそうに景色を見て、少女は朝食の準備を始めた。
2
「なんだ?アレ?」
玄関から外へ出てすぐに異変に気づいた。
遠い場所にあることが予想されるが、それでも迫力を感じる程に高い塔がそびえていた。
時計塔、と言った方が正しいのかもしれない。
塔の壁面には丸い文字盤らしきものがある。
しかし、本来の時計なら存在するべきである短針が無いこと以外はその形状は元の世界の時計に類似していた。
この世界の時計か、あるいは別の装置なのかは定かではないが、時計塔と呼称させてもらうことにしよう。
もちろん、昨日はそんな建物はなかった。
しかしたったの一晩であれほどの建造物を建てるのは不可能だろうと思い、やはりここは別世界なのかと実感する。
とにかく、やはりあの時計塔が異質だ。
あれほどの建物なのだから少なくともこの世界のシンボルの様な大事なものであることは確かだ。
つまり、なにか重要な情報が手に入るかもしれない。
そこを目指すことにしよう。
今はとにかく情報が足りない。
なので時計塔を目指しつつ、情報収集をしよう。
俺は歩き始めた。
そして、先程から歩いて目的地を目指している今現在、同じ場所をぐるぐる回っていることに気づいてしまった。
「あれ?ここさっきも来たよな。」
1時間程歩いたが、景色が一行に変わらず、堂々巡りをするばかりだ。
そもそも来たこともないような場所で修学旅行で班からはぐれて迷ったこともあった。
そんな俺がたった一人で目的地へ向かうことすら難しいのだと今更気づいた。
「......くっ異世界召喚後約1時間半で早くも異世界生活挫折しそう。」
よく良く考えれば金もなく、地理感ゼロで、知人も居ない現在だいぶ危機的状況へ落ちっている。
こんなことに巻き込まれた俺を召喚しといて放ったらかしとはこの世界の召喚士も随分と自分勝手なものだ。
「ていうか、さっきから全く道行く人にすら見かけないというのは少しおかしいだろ。」
家の窓から見た限りでは、まだ、人は歩いていた。
しかし、今は人っ子一人見当たらない。
まるでこの世界にたった一人になってしまったかのような錯覚に陥る。
情報を集めようにも人がいなければ道を尋ねることも出来ない。
標識や看板もない世界なのだろうか。
さっきから家が並ぶばかりで路地裏の様な印象を受けた。
正直八方塞がりだ。
まだ、未成年で現実ですら1人で生きれるが危うい俺が異世界で生きることはかなり難易度が高い話ではないだろうか。
「どうすればいい、敵でもなくモンスターでも無く、その辺で野垂れ死にするんじゃ笑えないぞ。」
こうなれば、最終手段に出る他方法がないかもしれない。
まあ、こうなってしまえば仕方が無い。
強硬手段だ。
俺は空気を大量に吸い込み、一気に放出する。
「誰かー!いませんかー?!」
声を放出される二酸化炭素とともにに乗せて思い切り叫んだ。
「助けてくれ!誰か!」
シンプルで格好のつかない方法だが、それでこそ効果的だというものだ。
「おい、そこの兄ちゃん。一体そんな大声出してどうしたんだ?」
後ろからそんな声が聞こえ、この作戦は成功を収めた。
第1村人発見である。
「あのすいません少しお伺いしたいことがありまして......」
と、話を切り出したのはよっかった。
しかし、もうその次の言葉は自分の口から声が出ることは無かった。
目の前にいたのは恐らく人間ではないなにかだったのだから。
そして、話は冒頭へと戻るのであった。
3
「それで、たしかお前は何が聞きたいんだっけ?」
永遠に思えた沈黙を破るようにトカゲ男は話題を振る。
しかし、俺は黙ったままだ。
目の前の出来事が上手く自分の中で消化出来ておらず、ただ呆然と鏡を眺めた。
少し道を聞きたい。
そう答えるのつもりだったのにあまりに現実離れした現象に思考停止してしまう。
それに見かねたのか、トカゲ男は尋ねるのをやめた。
「はあ、お前もやっぱり俺たちを見たらそうやって差別だの、偏見だの、決めつけで判断するってことか。」
落胆したように、呆れたようにトカゲ男は淡々と言葉を並べて言った。
「お前は普通じゃなかったから少しは期待してたんだがな。」
すると、トカゲ男は手を2回ほど叩いて、こうい言った。
「おーいみんな、ペケだ。対処を急げ。」
すると、さっきまで誰もいなかったはずの路地に、たくさんの人が、否、亜人がぞろぞろと出てきた。
猫やら熊やら、毛の生え、尻尾があり、耳が動物の人もいた。
そして、手に包丁や、フライパン、鍋などの日用品を武器のように持っていた。
もちろん、そんなものを外で使う機会などはそれらの道具の用途では無いはずだ。
ただ、それらを使えば物理攻撃を加えられることが可能という事実を除かない限り友好的とは言い難い雰囲気だ。
「さあて、お前はここからすぐにでも立ち去るか、それともここで日々溜まっている俺たちの人間達への不満解消の道具になるかすぐにでも決めてくれ。」
そう、トカゲ男は敵意全開で言った。
「お前がまだ、俺達を受け入れてくれる奴なら少しは違ったかもしれないが、結局皆同じことを言う。まあ、血が流れるのは極力避けたい事態だ。」
俺は何か言おうと思ったがトカゲ男は続けた。
「だからお前がここに迷い込んだか知らないが、そんな報告があったから確かめさせてもらったよ。」
いきなりひどい扱いだと思う。
しかし、まだ逃がして貰えるという選択肢を提示してくれるだけまだマシということなのだろうか。
トカゲ男の合図を聞いた途端にこれ程の人数が出てきたというのはつまり、最初から見張られていたということなのだ。
家にいた時、キッチンの窓が開いていた小さな変化に気づくべきだった。
その時から既に、ということだった。
そして、俺は走り出した。
それを答えにして、ただ世界は自分にとって冷たいとそう考えながら恐怖を糧に走る。
もう、奴らの気味の悪い顔も見たくもない。
ただ、ここは自分の居場所ではなかった。
理不尽だなあ。
その言葉で頭が埋め尽くされた。
自分はただの被害者に過ぎない。
でも、脳裏に元の生活の日々がよぎった。
ああ、帰りたいな。
あの日々は退屈だったが、それでも居場所があった。
それだけで十分に幸せだったのだと今更のように気づいてしまった。
本当にいつもいつも、頭の回転が遅い。
もっと早く気づいていれば、むしろこんなことにならなかったのではないか。
そんな根拠の無い後悔でいっぱいになった。
ああ、なんか涙出てきそう。
自分が情けなくて、愚かでしょうがないな。
そんな今にも泣き出しそうだった俺は、急な視界の変化と感じたことのない感覚に違和感を覚え、思考が切り替わった。
地面が迫り、前のめりに倒れる。
転んだのか?でもなんかつまづいたって感じでもなかったような。
足に付いていた重荷が外れたという感じだ。
自分の足元を視線で辿り、転んだ原因となるであろう小石はあるかと目で追うが、
「な!!」
ショックで心臓が止まると思った。
しかし、それほどに今見た光景が今日一番の衝撃映像ランキングを更新するレベルで驚いた。
そこにあるはずの自分の足が消滅していたのだ。
「うわあああああああああああああああ?!あ、足があ?!」
続いて腕も消えてきた。
「え?どうなってんだこれ?!腕がァ!!」
もうほとんど形がなくなった腕で空を掴む動作をつもりでやった。
鏡に映らなかったのはこれの前兆だったのか。
しかし、今になってそんな憶測を巡らせても結局は意味の無いこととなってしまうのだろうか。
このまま誰にも知られず消えていくのか。
消えたらどうなる?
死ぬのか?
それとも死以外のなにかになるのか。
ああ今日は散々だな。
最初こそ驚いたが特に痛みなどは感じていない。
世界が変わってもこの退屈で満たされることのない渇きは何も変わらなかった。
それなら案外このまま消えてどこかにでも行ってしまえばいいと自暴自棄にもなってきた。
「はあ、わかんないなあ。」
もう、目をつぶる。
手があれば耳も塞ぎたいところだった。
もう、考えるのもやめてしまおう。
「......ふぅ、やっと見つかった。あれ?もしかして寝てるのかな?こんなことになって随分呑気なものね。」
何か聞こえてきた。
「.....うわ、思ってたより侵食してる。早くしないと。とりあえず確か、存在の定着と世界との結合......だっけ?まあ、やってみるか。」
幻聴だろうか。
しかし、そうだとしてもうっとうしい。
静かにしてくれ、今辞世の句でも考え始めたところなんだから。
「でも、叩くのはちょっと可哀想ね。まあ、男の子はこれくらい我慢できるでしょ。」
叩く?やめてくれなんだいきなり。
ひどいことを言う。
一人にしてくれ、うるさいな。
「怒らないでねっ!!」
「ごふぅ!!」
その瞬間、お腹に衝撃を受けた。
盛大に、むせ返った。
「ごほっがはっ......な、何?」
「あ、起きた。」
目の前には少女が佇む。
そして、いつも言われているがごとく初めて聞いたはずのセリフを何故か懐かしく感じながら意識が自分の世界から外の世界へとシフトした。
「おはよう、初めまして。」