第2話
光の頭の中であの瞬間が鮮明によみがえった。一時の喜びと今の苦しみを作り出したあの過去を。
光はうつむいたまま答えなかった。
そのままどれくらいの時がたったのか分からなかったがふいに顔を上げると、さっきまでのが嘘のように、悲しそうな顔をした青年がぼんやりと窓から外を見ていた。
光はその表情を見ているとなぜだか悲しくなってきて、たまらず、
「これ、一緒に食べますか?」
と納豆巻きを差し出した。青年は「はっ」とした表情を見せた後、
「ありがとう」
とポツリと言い、どこか寂しそうな笑顔を作った。
別に話をした訳でもなく、二人は黙って外の景色を見ていた。その後青年は途中の駅で降りて電車には光だけになった。
「次は、終点の境岬です」
と車内放送が入ると電車は長いトンネルを抜けると辺りは一面雪景色だった。
光は終点で電車を降りるとそのまま岬へ向かった。小さなカフェーが一軒あるだけで辺りには何もなかった。光はカフェーには目もくれず、その岬の先端にたった。荒れた海の打ち寄せる波の迫力に一歩後ずさりした。見渡す限り続く海を見て、光は大きく深呼吸した。冷たい冬の空気が体中に染み渡った。その雄大な景色を見ていると急に涙が出てきた。その堂々たる海の様子は光の心を強烈に締めつけた。
その夜その岬から数キロの所にある小さな宿に泊まった。つぎの日に船で海峡を渡るため、その日は早く床についた。
明くる朝、
「どんどん」
とドアを叩く音で目が覚めた。