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第5話 ジェノサイド・リリー

想像以上に沢山の方に読んでいただけて、作者は本当に嬉しいです。

この調子でもっと色々な方に読んで頂ければなーというのが今の目標。

 

では、どうぞ。


 あの後、何故か表情が一気に死んだまま動かなくなった生徒会長の見送りを受け(すごい怖かった)、そのまま学校に行く気分にもなれず結局輝は帰路へとついた。

 両親は共働きなので家にいる訳もなく、妹も中学校に行っている為家に居るのは自分ただ一人。

 ちょっとした開放的気分を味わいながら輝がすぐさま始めたことは当然――。

 

 「《ダイブ・イン》」

 

 音声認証型のその文言は、FLOの世界へと旅立つための魔法の言葉だった。

 

 

        ◆

 

 

 《ようこそ! FLOの世界へ!》

 

 自分の視界にだけ映る空に大きく描かれた壮大なテロップを一瞥して、早速輝は―――否、ライトは行動を始める。

 

 流石というべきか、平日の昼間だというのにも関わらずFLOの世界はプレイヤーでごった返している。人混みの中をお得意のステルス歩行を使い人の間縫うように進み街の外へ。

 

 いざ辻ヒールの旅を始めようと街の外へ出たライトは――早速凄いものを見た。

 

 それは丁度昨日あの女性軍団に捕まった公道の一角。

 そこに居たのは――そう、確かリリーと呼ばれていたあの女性プレイヤーだった。

 

 様子を見るに、リリー一人に対してそれを囲むモンスターはグレイウルフ三体。とてもじゃないがオオスメできる状況ではない。

 

 声をかけるべきかかけないべきかライトがうだうだと考えているうちにグレイウルフの一匹が待ち切れんとばかり飛び出した!

 

 「あ、あぶな――」

 「死ねぇええええええええ!」

 「」

 

 そしてそのグレイウルフの頭蓋を、リリーが持つ片手剣が見事に破壊した。

 

 その様子を見てなのか、ただのプログラムの塊であるはずのグレイウルフ二体がじりじり後退った。何故だか、その気持ちが痛いくらいにライトには理解できた。

 

 よく観察してみると、今のリリーは見た感じが既にヤバい。目が何処かギラギラと殺人鬼めいた光を宿し、表情には影が落ちている。ふーっ、ふーっ。と口から瘴気みたいなものが漏れてる気がするのはバグだと思いたい。

 

 そして先程の掛け声。文句なしのヤバイ人認定である。

 

 結局残った二体のグレイウルフはそのまま森へと消えていき、そこに残ったのは俯いて表情の伺えないリリー。

 

 「……触らぬ神に祟りなし」

 

 有名なことわざを思い出しながら、輝はバレないように別の冒険者を探す為にも別方向に足を向けた。

 

 「やばい。今あれに捕まったら確実に殺される。皮剥がれて剥製にされる」

 「そんなことしませんよ?」

 「いや犯人はいつだってそう……ん?」

 

 なんで会話が成り立つんだ? と、まるで錆びついた機械のように動かない首をなんとか声が聞こえた方へやると、そこには満面の笑みを浮かべたリリー。

 数秒フリーズしてから顔を真っ青にし、ライトは絞り出すような声で言った。

 

 「……ども……です。そ、それじゃあ」

 「はい、どうも?」


ガシッ。

 

 挨拶をして逃げようとしたライトの肩に、満面の笑みを浮かべたリリーが挨拶を返しながら素早くライトの肩に手が置かれる。

  

 「で? どうして逃げるんですか、辻ヒーラーさん」

 「ひぃいいい!? こ、殺さないでー!?」

 

 そして、殺人鬼(リリー)に捕まってしまった犠牲者がここに生まれた。

 

 

        ◆

 

 

 「失礼すぎません? 殺さないで、って」

 「す、すみません……」

 

 ――というのはもちろん冗談であり、ライトの目の前ではどこか子供のように頬をふくらませながらむくれ、フルーツジュースを飲むリリーの姿があった。

 

 でもあの時のあなた確実に数人は殺っちゃってる顔してましたよ。とは流石に言えないライト。

 

 場所は変わってアグルの街の前回と同じ喫茶店だった。流石に殺人鬼フェイスのプレイヤーを引き連れて辻ヒールをする気分にもなれず、付いてきてくださいと言われるがままにライトはリリーとともに喫茶店に来ることとなった。

 

 リリーはフルーツジュースを気まずそうにストローで啜りながら、まるで言い訳するように言う。

 

 「ま、まぁ。流石にさっきのはまずかったのは分かります。でもいつもあんなふうになってる訳では無いんですからね! あぁせざるを得ない状況があったと言いますか……心情的にというか、なんと言うか……」

 「は、はぁ。そうなんですか」

 

 まぁ彼女がそういうのであれば、そうなんだろう。そういう事の機微に疎いコミュ症が、個人の悩みだとかに首を突っ込んで事態が好転するとは思えないし。

 ライトはそう思い曖昧な返事を返すだけに留めた。

 

 ライトがモニョモニョした表情ではぐらかしているのが気に食わなかったのか、くわっと目を見開いたリリーが机を叩いて立ち上がった。

 

 「だいたい何なんですか貴方も彼も!」

 「ひっ」

 

 なんか急に怒られた!

 

 「何をどうしてあの場面であんな満面の笑みで断れるのかな!?」

 「す、すみませんすみません。あとリリーさん口調が崩れて……」

 「うるさい!」

 「ご、ごめんなさいぃぃぃ!」

 「なんで!? こんなこと今まで無かったのにぃ……」

 

 次はショボーンと意気消沈。忙しい人だな。ライトはめまぐるしく表情を変える目の前の美少女がどこか面白く、クスリと笑ってしまった。

 

 「ぅ〜……、いいですよ。笑えばいいんですよ。私みたいな人の事なんてぇ……」

 「ぁ、ゃ、ちが、くて! そ、そうじゃなくて、なんていうか、リリーさん綺麗な人なのに、そうやって思ってること全部表に出して、すごくいいなって。その。うまくいえないけど、ええと、あれ?」

 「――う、あっ」

 

 言葉が思いつかん! 普段会話するのはゲームの中のキャラクターなだけはあって面白いくらいに言葉が繋げられない。

 ほら、相手も意味の分からない事言われたから真っ赤になって怒ってるし!

 

 ライトはなんとかやり直そうと宙に両手を彷徨わせながら考えるも、結局それすら浮かばずに頭を下げた。

 

 「へ、変なこと言ってすみません」

 「い、いえっ。こちらこそっ」

 

 二人して気まずい雰囲気になってしまった。あまりに居たたまれなくなったライトは、アイスティーをぐびっと飲み干し席を立つ。

 

 「えっと、の、飲み終わっちゃったので……俺はここで」

 「ぁ、その……また」

 「はい……その、また」

 

 また、なんなのだろうか。その先の言葉を見つけられないのか。それとも言葉には出来なかったのか。彼女はそれだけ言って少し儚い笑顔を浮かべた。

 

 その姿を見て、ライトは決意したように、声を絞り出した。

 

 「――そ、その! さっきの話、ですけど」

 

 まるで調子の外れたスピーカーのように大きく響いた自分の声に死にたくなりながらもライトは続ける。

 

 「さっき?」

 「断った、とかの……」

 「……あぁ」

 「えぇと、あの、うまく言えないんですけど、詳しい内容もよくわからないし、あんまり外野が言うような事でもないと思います、けど。その……」

 「その?」

 「け、結果はどうあれ。リリーさんみたいな人に何かを誘ってもらえるのは、きっとすごい嬉しかったと、思います。その人の気持ち、わかる気がするんで、はい、その……」

 「それは……」

 

 それはつまり、暗に自分も嬉しかったと言ってるのと同義である。それがわかっているライトは、心の中で自分を百回くらいメッタ刺しにしながらも続けた。

 

 「だから嬉しいからこそ、その、受け入れられないものも、あると、思うんです。だから、そんな悲観しなくていいと、お、思います。きっと、その彼もリリーさんの言葉だけでも十分救われてると思いますし……。えぇと、し、失礼します!」

 「え、えぇ!? 言い逃げですか!? オチ無しですか!?」

 

 戦略的撤退と言ってほしい。

 ライトは何言ってんだろう俺、という自己嫌悪で死にそうになりながらも照れ隠しをするためにも街中を爆走し、その勢いのまま辻ヒーラー活動を再開した。


ご覧いただき誠にありがとうございました!

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