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第13話 邂逅

若干遅れての投稿。

どうぞ。


 その声が聞こえた方向にライト以外の5人が一斉にそちらを向き、思わず息を呑んだ。

 

 突然だが、FLOでは基本的に見目の悪いプレイヤーデザインというのは存在しない。少なくともデフォルトでは、という注釈がつくが。

 そこからアバターをエディットすることで、異常な低身長にする事や、体の一部だけ変に肥大化させること等はできるが実際にゲームをするに当たってこれらのキャラクターエディットは推奨はされていない。

 

 なぜならこれはただのMMOではなく完全没入型のVRMMO。アバターと呼ばれる通り、その身体はまさしく【第二の自分】だからである。

 

 その為に、身体の大きさやバランスはプレイするにあたって大きな影響を及ぼす。検証によると目の位置なども下手にいじると異様な違和感を感じてまともなプレイも出来ないそうだ。

 

 そしてその延長線上の話として、あまりアバター作成時のキャラクターエディット自体もおすすめされない。実に皮肉である。現実とは違った自分の楽しむための仮想現実だというのに、現実から遠のけば遠のくほどプレイ難易度が上がるというのだから。

 

 そして彼女達は――ギルド【アイリス】の5人の美少女達は、目の前のあまりに完成されたイケメンを見てすぐに気がついた。

 

 『(これは絶対超イジってる!!!)』

 

 と。

 

 周りからさんざんもてはやされてきた彼女たちだからこそ分かるのだ。如何にソレを続けることが大変か――一度上がってしまった評価を落とすことなく寧ろ徐々にでも上げていかなければならないその辛さを。努力を。

 

 だからこそ、気がついた。

 彼のあれは、不自然な程完璧なあの造形は自然なものではないと。

 

 ……と、そんなことは置いておくとして。


 問題はあのイケメンが一体なぜライトたちの方を向いて話しかけているかである。彼女たちには誰を呼んだのかよく聞こえなかったが、そのイケメンは少なからずこちらを向いている。

 美少女達は揃って第一候補にライトを取り上げたが――即座にそれをやめた。ありえないとさえ断じた。

 

 だってこんないかにもリア充そうなイケメンとこの彼が仲良く出来る訳が――。

 

 「エミリオ!! どうしたんだよ、予定よりかなり早めだぞ?」

 「あはは、予定が少し狂っちゃって、どうせだから少しインしてここに来ようと思ったらライトがいたんだよ」

 「まったく。……でも少し、嬉しい、かな」

 「う、嬉しいって。もう、ライトはストレートに伝えてくるから照れちゃうんだよなぁ」

 『!?』

 

 何だこのやり取り! 何だこのやり取り!? どこの付き合いたてのカップル!? しかもお前か!

 

 全員の心が一致した瞬間である。

 

 て言うかお前早く紹介と説明しろよ。という視線を5人掛かりで浴びせるといくらコミュ障でも察したのか、慌てた素振りでリリーたちの方向へと向き直った。

 

 「あ、ええと! すいません! こちらはエミリオっていうプレイヤーで、双剣使いで、本当にイケメンだし性格いいし俺みたいな奴とも付き合ってくれるような本当に良い奴なんですよ!」

 

 その言葉に、ブラウンの髪をした美男子が様になる仕草で困ったなぁ、と頬を緩めてから、挨拶をした。

 

 「どうも、エミリオです。彼の言葉はだいぶ美化されているので聞き流してください。……それで、ライト。こちらの方々は?」

 「あ……うん。えっと……美少女さん達」

 『美少女さん達!?』

 

 エミリオの紹介の時との力の入れようの違いに思わず声を荒げて反応する5人。

 

 「こら、駄目だろライト。ちゃんとしないと」

 「ぁ、いや。そういう訳じゃなくて――」

 「訳じゃなくてもダメ。ちゃんと謝りなさい」

 「う、うう。……皆さんすみません。失礼なこと言いました」

 『しかも完全に手綱握ってる……!』

 

 恐ろしい。今まで振り回されきた苦労は何だったのかと思えるほどの完全掌握ぶりに、リリーたちは愕然とした。

 

 実際完全にリリー達の目には、ライトが飼い主にしっぽを千切れんばかりに振る犬にしか見えなかった。テンション的には何も違いがない。

 

 何故だか分からないが、リリー達はその姿を見て妙に胸の中がザワザワするのを感じていた。不思議な気持ちだった。人付き合いが苦手だと言っていた彼に、親しい人がいる事自体喜ばしい事の筈なのに、まるで喉に骨が引っかかっているような違和感が拭えない。

  

 「そ、それで、辻ヒーラーさん?

 そちらの――エミリオさん? とは勿論リアルの方でも付き合いのある長い関係なんですよね?」

 

 そんなまさかお互い名前で呼びあって、普段から人と関わりたくないですオーラをこれでもかと発してる彼がここまで陶酔しているのだからそれはそれ程信頼のある関係なのだとリリーは――。

 

 「いえ? 一昨日からの付き合いですけど」

 

 パァンッ! 

 

 「ひっ!?」

 

 リリーだけではなく、他四人の手の中にあるグラスが、破裂音を残して塵と化した。

 

 「……あ、あの、どうしました? 皆さん?」

 『……いえぇ? 別になにもぉ?』

 「ひぃいいいい」

 

 何かおかしいリアクションに、ライトが恐る恐るリリー達に切り出すと、口元に引き攣った笑みを浮かべながら、完全に瞳孔が開き切った五対の視線が殺到した。ホラーである。

 

 「一つ、お伺いいたしましょう」

 

 そこでそう声を上げたのは、珍しい事に美しく長い黒髪をポニーテールに結った和風美少女――ハルだった。

 ここで問題があるとすれば、文面だけだとわかりにくいが一見落ち着いているように見えるハルは、目からハイライトが完全に消失しておりどこか虚ろな視線のままライトに声をかけている為、何か一言でも言葉を間違えたらその腰に差した刀で即座にたたっ切られそうな雰囲気を醸し出していることだろう。

 

 震える声でライトが応じる。

 

 「な、なんでしょう」

 「こうして見ると、エミリオさんも相当に見目の整った方だと思います。そこについてはどう思いますか?」

 「は、はい! 格好いいですよね! エミリオ! でも見た目だけじゃなくて性格も良くて!」

 「そうですか。――それで話は変わりますが辻ヒーラーさん」

 「はい?」

 

 そこで、ハルはつぅ、と指先で刀の鞘を優しく撫でてから流し目をライトへと送る。

 

 「まさか、とは思いますが私達を差し置いてそちらの彼とPTを組んでいるなんて事はありませんよね?」

 「え? 組んでますよ?」

 

 なんて事無いように告げられたその言葉に、もはや反応は無かった。

 

 未だに現状をよく理解できていないライトとエミリオが取り残され、他の5人は不気味な程落ち着いた素振りで追加の飲み物を注文し、それに口をつけてからハルが一言呟いた。

 

 「判決を」

 『ギルティ』

 「えぇぇぇええ!?」

 

 何、何が起きたの!? とライトが声を荒げるがそれを助ける者は居なかった。席を立った五人組に、逃げられないよう拘束されるライトを助けられるはずのエミリオは、その光景を『うわぁ』とドン引きの眼差しで眺めているだけだった。

 

 「ちょ、ちょっとエミリオ助けて!? 俺こんな超絶美少女達が近くにいたら死ぬんだけど!? 死ぬんだけど!? やばいって! 心臓持たないって!?」

 『ちょうぜつび……っ!』

 「……(イラッ)そっか。じゃあ一回死んでみたらどうかな?」

 「エミリオぉ!?」

 

 エミリオに裏切られた! とショックを受けるライトを尻目に、準備は整う。

 

 なんとか美少女達による拘束はなくなったが、依然囲まれるような状態で逃げ場を与えられないライトと、その正面に椅子を置き、座るリリー。

 

 勿論目は笑っていない。

 

 「あ、あのり、リリーさん?」

 「――まず、聞きたいことがあります」

 「は、はい!」

 「私達は、あなたの名前すら聞いてません」

 「ぇ――」

 

 強い口調で問いただされたライトは思わず硬直する。

 なんで自分の名前なんか聞く必要が? はっ、そういえば名前さえ分かれば報酬を支払うことでPKをするグループが出てきたという話を聞いた気がする。もしかしてリリーさんもこれに……。


ブワッと毛穴が広がるような感覚を覚えながらライトがキョドっていると、リリーが笑顔のままフリーズでもしたのかと思うほど固定された笑みを湛えつつライトに詰め寄った。

 

 「いいから、早く、教えなさい」

 「ら、ライトです」

 「はい。ライトさんですね。よろしくお願いいたします」

 「は、はひ」

 

 なんだこれ、本当に何があった!?

 ライトは目まぐるしく変化する環境についていけず頭がショートしかける。

 

 「それで、なぜ私達とはPTを組んでいただけなかったんでしょうか?」

 

 唐突な話題だった。しかしふざけているようにも見えず、ライトは恐る恐る話す。

 

 「えっと……流石に女の子ばかりのPTは気が引けますし……周りからの目も気になりますし」

 「……でもそれをいったら! ……男の方ですけど、その、エミリオさんだって凄く見目の整った方ですし注目はされるんじゃ?」

 「それについては僕からお願いした事ですし、意表を突いたようなところがあるのでライトは悪くないですよ」

 

 そこで言葉を投げかけたのはエミリオだった。

 その言葉に、リリーは二の句を告げられない。ライトであれば、そうなってしまいそうなのも短い付き合いながらも理解できたからだ。

 

 「でも――それでも」

 

 納得できない。

 まるで子供のような感情だった。今までは制御できたはずのそれが規則性を失ってブレ始める。

 

 「ということなので、僕から一つ提案があるんです」

 

 とそこで、割りこむ様に声を上げたのはエミリオだった。

 

 「提案とは?」

 

 反応したハルの言葉ににっこりと見惚れるような笑みを浮かべて、

 

 「僕達でPTを組みませんか?」

 

 エミリオはそう言った。

次回 無双。


御覧頂き誠にありがとうございました。

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