プロローグ
始めまして。三三屋 アキラと申します。
人生初となるVRMMO作品となりますので、所々甘い描写が目立つかもしれません。お読みの際はお気を付け下さい。
そして、本日18時と0時に一話ずつ投稿させて頂きます。
目が、開かれた。
目の前に広がる光景は、当たり一面に広がる見たこともないようなだだっ広い荒野。
風を感じた。
次に匂いを感じた。
おもむろにしゃがみ込み、地面を触れればそこには確かに地面があり、手のひらを押し返すような土の感触があった。
「……ははっ」
本来であればそんなこと当たり前のことだというのに、それがとても素晴らしいことのように感じる。
それもその筈。
こんな行為、現実世界でこそ何も嬉しくないが、ここはそうではなく仮想現実――つまり、VRの世界なのだから。
「……来たぞ。来たぞぉおおおおおお!」
フリーダム・ライフ・オンライン。
通称FLO。
【第二の現実で自由を体感しろ】というキャッチコピーで売り出された世界で初めてとなる完全没入型の仮想世界のチュートリアルである荒野で、彼――黒井輝――もとい【ライト】は大きな大きな産声をあげていた。
◆
このゲームを手に入れるのにいったいどれだけの労力がかかったことか……。
輝はFLOが楽しみのあまりチュートリアルをスキップし、そのまま強制的に移動させられる事になった第一の街、【アグル】の町中をブラブラと歩きながら思い耽っていた。
それはもう、凄かったのだ。
これまで革新的と呼べるゲームはいくつも出てきたが、ことFLOと、FLOと同時に発売されたFLOをプレイするための本体となる【グラスギア】の競争率はそれはそれは苛烈を極めていた。
どれだけ採算度外視だったのか、それとも原価はそれほどだったのかグラスギアの元値は5万円だった。
……そう、元値はそうだった。
それが今では転売やら買い占めをする客が増え当たり前のようにプレミアがつき、現在市場の最低価格でも15万は下らないというあまりにあまりな事になっていた。
もちろんそんなあほな金をかけることができない苦学生の輝は、ゲーム店で入荷しだい購入権を得ることのできる抽選に参加し――持ち前の運で見事に予約から7回連続で外れ、8回目となる発売から三ヶ月たった頃、予約の座を勝ち取ることが出来たのだ。
「ふ、ふふ、ふふ……」
と、これで何回目になるかわからない同じ自慢話を自分の中だけで繰り広げ、輝は自分に酔いしれていた。
既にテンションはマックス。
キモオタ特有の留まることを知らない(後で後悔することが多い)上昇するテンションの赴くままに行動する。
るんるん気分のまま、ライトは地図に従い街のある一角へと足を運んでいく。
小走りだったのもあってか、その場所は程なくして見つかった。
ピコーン! 目の端でクエストクリアの文字が流れ、そして次のクエストを映し出す。
それは。
【就職神殿で就職しよう!】
と、実に簡潔にかかれていた。
そしてこれこそが後にFLOの掲示板を度々騒がせることとなる、とあるプレイヤーの始まりの瞬間であった。
FLOはそのキャッチコピーに偽りなく、自由であることこそが主軸になったゲームである。
自由といえど流石に倫理規制や法規制まで超えることはできないという人道的不自由さこそあれど、それ以外で言えば概ね自由と言っていい程この世界は完成されていた。
なにせやりようによっては何でもなれるらしいのだ。
この世界の女優にも、歌手にも、兵士にも、騎士にも、農民にも、鍛冶屋にも、勇者にも、魔王にも、貴族にも――国王にも。
「さぁ、いかがなさいますか。天上人様」
期待に胸をふくらませる輝の目の前で、朗らかな笑みを灯した優しそうな声音の老神父がそう言った。
天上人というのは、NPCからするプレイヤーの事らしい。
ぶっちゃけコミュ症のライトからすれば、自分よりも3周も4周も齢を重ねてそうなおじいちゃんに様付されるのはかなり精神的にキツイ。
画面越しとなると何も感じないのに、目の前でリアルなおじいちゃんにそう呼ばれるだけでこうも居心地が悪いとは流石第二の現実……!
と、よく分からない戦慄を覚えながらも輝は職を選択するために、おずおずと目の前にあるスクロールを開いた。
「お」
そこで、声が漏れる。
開かれたスクロールには、たった4つの文字列が並んでいるだけだった。
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※下記の選択肢よりお選び下さい
市民:街の市民権を得ることが出来る。毎月市民税として1000fcを支払う必要がある。
街でのクエスト発生率にボーナス(小)
商人:商いをする事ができる証明書が発行される。毎月商会税として3000fcを支払う必要がある。
素材やアイテムの査定、アイテムの品質にボーナス(小)
農民:畑を買うことができる証明書が発行される。畑を持たない場合、税は発生しないが畑の数×1毎に2000fcの農民税の徴収がある。
素材の品質や量、種系アイテムのドロップにボーナス(小)
冒険者:ギルドへの登録が可能となる。税はなく、自由に世界中を旅することができる。
ボーナス無し。
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そして輝は、一にも二にもなく冒険者を押した。
当たり前だろ! 何が悲しくてVRの世界で普通に市民したり商人したり農民しなきゃならないんだよ! 馬鹿か! そのプレイしてる人たちに謝れよ! ごめんなさい!
一人ノリツッコミをこなしながらにやにやしているのを内頬を噛むことによってなんとか堪え、老神父の「天上人様に神の御加護があらんことを……」という言葉を最後に就職神殿から外に出た。
ようやく。
ようやくである。
輝はいても立ってもいられないような高揚をなんとか抑えながらインベントリを操作し初期装備で受け取っていた片手剣と盾を装備した。
期待に胸が膨らむ。
有りもしない妄想が鼻の穴をふくらませる。
もしかしたら俺に才能があってFLOの掲示板で崇められちゃったりして!
それで女の子が俺に教えを請いに来ちゃったりして!
そこからいろんなことが起きちゃったりして!
やってやるぞ!! 俺は、やるんだ!!
ザラに授業中にテロリストがいつ来てもおかしくない様に妄想という名の思考トレーニングを怠らないだけあってそっち方面の想像はとてもたくましい。
ぐふぐふとやばい笑みをこぼしながら、ライトは急いで冒険者ギルドへと赴き。直ぐに冒険者登録し、早速受けた依頼は――まさに王道中の王道。
【グルーカ公道のゴブリンを排除せよ!】
さぁ、行こう!
ここから、俺の戦いが始まるのだ!
始まらなかった。
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