7.久々の残念
翌朝、船が出るのでカールさんやリンダ先生も見送りに来ていた。
シャロンちゃんやケイさんライザさんも同じ船なので、結局顔を合わせることになった。
私は暑い季節だと言うのに長袖を羽織っていた。
その様子をオトン、オカン、カールさんは生温かい目で見ている。
「リリアちゃん、どうしたの?暑くない?」
「うん、ちょっとね…日差しで痛くなるから…。」
「?そんな肌弱かったっけ?」
シャロンちゃんが首を傾げた。
なんで羽織っているのかというと。昨晩、ニールさんが色々したもんだから、
吸盤の跡やら何やらがあっちこっちに付いているため羽織らざるを得なかった。
犯人…ニールさんは明後日の方を向いて口笛を吹いている。ベタだよ?
「ニール、ちょっとおいで?」
黒い笑みを浮かべるシリルさん。
「オカン、怖い!!」
「全く、おまえは!!」
「最後までは…してへんよ?」
すっごいロクでもないセリフを小声で言った!ヤメて!
「そういう問題やない!節度ってもんがあるやろ!!」
「オカン!ヤメて!痛い!リリア助けて!」
関節キメられてるし…私には聞こえない。断じて聞こえない。
昨夜は途中で、偽証石がコントロール出来なくなり、足を維持出来なくなった。
そのため、ニールさんが言った通りなのだけど。
ニールさん曰く、人魚状態だとどうしたらいいかわからないため、少し冷静になったんだとか。
今までなんとか我慢できたのもデートが海中だったためだとも。
そんなこと、バラさなくてもいいのにね。
「結局同じ部屋だったのね?」
ライザさんが意味深な色っぽい目を向ける。
「えぇ。まぁ…。」
思わず目を伏せて口ごもる。
ケイさんがニールさん見て、生暖かい目でうんうん頷いていた。なんで?
「ところで、昨日のことは話合ってくれた?」
「はい、是非お願いします!」
「じゃあ、落ち着いたら店に来てね?待ってるわ。後でね?」
「じゃあ、また後で。」
そう言って、ライザさんは先に船へ向かった。
一方、シリルさんはグニルさんとの別れ惜しんでいた。
「オトン、またね?」
「もう少しで帰れるから待ってて。」
そう言ってグニルさんはシリルさんを抱きしめる。
「あー、オトン?」
「わかってるよ。親がいちゃつくとこなんて見たくない、だろう?
ニールは、年相応に少し落ち着こうね?リリアちゃんを困らせないように。
カールは…いい人そろそろ見つけなさい?」
「「うっ…。」」
「行こうかね?」
「じゃあ、またね。」
いつの間にか何処からかルーロウ校長がやって来て、グニルさんと共に歩いて行ってしまった。
気がつくともう見えない。どうやってるんだろう…。神レベルじゃなかろうか。
なんか私の周り大体チートじゃない?気にしたらいけないのかな。
オトンが行ってしまったので、私達も船に向かった。
ーーーーーー
「おばーちゃん、おねーちゃん、おかえり!!」
「チロルちゃん、ただいま!!いい子にしてた?」
「チロル、俺は?!」
「あ、おじちゃんもおかえり。」
「(姪が冷たい!!)おじちゃんか…?」
「うん、おじちゃん。」
もうすぐ3歳になるチロルちゃんにおじさんと言われ、ニールさんがへこんでいる。
なんでこうなっているのかと言うと、一旦、実家に帰って来たからだ。
コールさんとルルさんにも報告するのと、チロルちゃんに会いに来ていた。
「みんな、おかえり。リリアちゃん、お仕事、お疲れ様でした。」
ルルさんが言う。
「だたいま、変わりない?」
「ええ。」
「ルルさん、ありがとうございます。あれ、コールさんは?」
「今ちょっと買い物に行ってもらってるんよ?」
「あと、ルルさん、もしかして…。」
私はルルさんのお腹を見た。
「そやの。2人目やの。」
「おめでとうございます!!」
「おめでとう。オカン言わんかったから。」
「どうせ帰るから本人から聞いた方がええと思って。」
そっかー2人目。おめでたいなぁ、きっとまたかわいい子が生まれるんだろうなぁ。
そんなことを考えていると、
「子供かー。リリアの子…かわええやろうなぁ…。」
とニタニタしてるうちの旦那様…。顔に締まりがない。久しぶりの残念な顔だ。
それに生まれるとしたらあなたの子でもあるんですけど?と心の中でツッコミを入れる。
「コール兄ちゃん帰ってきたら、報告するか。」
ニールさんが小声でいうので、笑って頷くと、
また抱きしめられそうになったので、回避する。
「まだ報告してないし、今したら変でしょ!?」
「…ゴメンナサイ…。」
小声でやりとりする。
巫女辞めてからと言うもの、散々我慢した反動?で、すぐ抱きしめようとする。
船の中では私の顔を知っている人もいるので気をつけたみたいだけど。
時間がたてば、もう少し大人しくなるかしら?いや、なってください。
しばらくしてコールさんが帰ってきた。
ニールさんから報告を受けると、コールさんは
「妹やなくて、嫁さんになったんか。まぁ、俺から見れば妹に変わりないわ。」
とカールさんと同じ感想を述べた。
みんな…もう少し疑問持たない?どうしてとか。まぁ、聞かれたら困るんだけど。
ルルさんは、
「確かにリリアちゃんは素敵な子やし…。
本当に血が繋がってるわけじゃあなし、アリっちゃアリよね…。」
と少し、疑問を持ちながら言っていた。これが普通の反応な気がする。
「リリアちゃん、ちょっと2人で話せえへん?」
ルルさんにそう言われて2人で話す事になった。
浜辺で遊ぶチロルちゃんとコールさんとニールさんを遠目で眺めながら。
「なぁ、結婚のこと、ホンマの親御さんは知ってるん?」
「いいえ…。」
ルルさんは私の細かい事情を知らない。
人魚の両親がちゃんといるもんだと思っているのかもしれない。
マーマンが親で、しかも村を追い出されたなど…知らないはずだ。
シリルさんはそんな事、軽く喋ったりはしていないはず。
私の複雑な顔を見て、ルルさんは言う。
「義母さんたちはなんか知っとるんね。だからなんも言わんのかな?
でも…親って言うんは子供を大切に思うもんよ?私も親になって知ったわ。
顔合わせづらいなら手紙でもええから知らせたら?」
「…考えてみます。」
「固い話はコレだけ。」
そう言って、ルルさんはため息をついた。確かに…手紙くらいなら。
いきなり母には辛いから、おっちゃんくらいなら。
元気に幸せに暮らしている事くらい。知らせても。
ちょっと深刻な顔をしていたら、ルルさんが微笑みながら続けた。
「あとは…ニール君、モテるから心配やない?」
「心配…はあまりしてないかもです。あの人、私のこと好きすぎるんで。」
笑いながら言ったら、
「そやねぇ。ご馳走さま。子供できるんも時間の問題やね?」
そうカラカラと笑われた。やはりそういう話題になった。
「あの、ルルさん…実は私も相談が…」
ごにょごにょと結婚パーティーの夜の話をする。
「あら。そやの?いややわー、困るわね?」
「あと…」
「ふむふむ。あーなるほど。それは義母さんの方が詳しいんちゃう?」
「なんか呼んだ?」
どこからか出てきたシリルさんが声をかけて来る。
「あぁ義母さん。なんかリリアちゃんがな…。」
「あぁ、こないだんは、そういうことやったん。」
女だけでキャッキャと話していると、
「どーしたん、楽しそうな顔して?」
そうコールさんが聞いてきたので、ルルさんが、
「お互い、旦那の悪口言うてたんよ?」
とイタズラっぽく笑ったら、
「仲が良ければそれええよ?」
と豪快に笑い飛ばしていた。コールさん、器がデカイわー。
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