6.ぽんぽん
部屋に2人きり。
私は抱きしめられていた。
数分前。
「終わったら、ってリリア言うたもんな?」
にっこりと笑ってニールさんは言った。
「そ、そうだね。」
そう答えた私はちょっと不安そうな顔をしていたのか、
ちょっと困った目をしてニールさんは私を抱きしめた後、背中をぽんぽんとする。
なんだか、子供でもあやすかのように。そして今に至る。
「いつまでこうしてるの?」
「うーん、俺が落ち着くまで?」
「私じゃなくて?」
「俺が、や。」
「私、なんかした?」
「……リリア、帰り道なんかあったか?」
「…なんで?」
「…隠し事はなしやで。」
「ニールさん、イグニスさんみたいだよ?」
「あの腹黒メガネと一緒にすな!」
そう言って笑いあった。目が合ったついでと言わんばかりにおでこにキスする。
「隠し事してる時の顔しとった。」
アイリさんと話してた時の顔か。
「もうニールさんには隠す必要ない内容なんだけど、説明が難しいんだよね。」
全部説明するとなると難しい。何から話していいかわからないし。
まだ話しづらい内容もあるし。
「時間はあるんやで?」
「じゃあ、これからゆっくり話していくね。いっぺんには話きれないから。」
「おう。頼むな。」
そういうと今度は唇にキスした。
唇が離れると優しく笑って私の髪を撫で、そのまま私の腰に手を回す。
「そういや、このドレスも俺のこの服もどうしたん?」
「あぁ、そっか。話半分以上聞いてなかったんだっけ。」
私は呆れて笑った。
「シリルさんがケイさんに頼んで作ってくれたんだよ?」
「あぁ、オカンか。後で聞いとこ。こっちから言わな、絶対請求せえへんからなぁ。」
「全部シリルさんが用意してくれたしね。お願いしますね、旦那様?」
「旦…那…」
ニールさんが顔を赤らめる。
なんだか夫婦っぽい会話だったからノリで呼んでみたんだけど。
「(ガッついたらアカン、ガッついたらアカン。)」
…何か唱えてるし。まぁ、いいや。ついでにこの話もしておこう。
「そういえば、ライザさんが落ち着いたらケイさんの下で働かないかって。
帰るってことしか決めてないからって言ったら、
ニールさんと相談してから決めていいって言われたんだけど。」
「せやなぁ。実家帰っても周辺警護はコール兄ちゃん居るしな。
オーサならすぐやし、街とそない距離は変わらん。街よかリリアにはええか?」
「偽証石は変わらず使いっぱなしになるけど、正直もう慣れちゃったし。」
「リリアは…その仕事したいんか?それが一番大事やで?」
「うん。ケイさんの下なら安心だし、せっかく学校も出たから、魔法使う仕事したいし。」
「さよか。」
そう言いながらまた頭を撫でた後に、着ていたジャケットを脱ぎはじめた。
「いい加減これ、脱がな。肩凝ってきたわ。」
「そ、そうだね。あ、仕事といえば、ニールさんは?」
懸命に話を戻す。
「決めてへんから俺もオーサで探すわ。
しばらくはオーサで暮してくんでええかな。家も探さなアカンか。
後々変化があったら、そん時考えればええか。」
答えながらニールさんは薄明かりの中、着替えている。
私はニールさんが目に入らない方のベッドの縁に腰掛けた。
いくら泳ぐ時と同じといえども、着替えは直視するのはどうかと思ったから。
「じゃあ、ライザさんには船で帰る時にでもお願いしておいていい?」
「ええんちゃう?」
着替え終わったらしく、私の隣に座った。
「リリアも着替えたらどうや?…恥ずかしいんやったら、後ろ向いておくし。」
ちょっとニールさんが気を使ってくれたけど、
着替えられない理由は実はそこじゃないんだよね…。
「うん…。でもね、これ、1人で脱げないんだよね。後ろの留まってるとことか。
手は届くけど壊したら嫌だし。
試着の時点では緩かったからなんとかなったんだけど、
直したらぴったりだから着る時はライザさんに手伝ってもらったんだ…。」
「つまり、俺が外してやらんと脱げへんって事?」
「そういう事なんだけど…。」
ごくりって唾を飲む音が。聞こえた気が。
「シリルさんにお願いしに行くのは…きっとお邪魔だよね」
「やなぁ…。もうちっと早くならいけたかもやけど。」
「迷ってないでいけばよかったなぁ…。」
「…………(据え膳…。)」
「…据え膳って何?」
「聞かんといて。」
「後、花街って何?」
「今、聞かんといて…。」
「ニールさん、私達結婚したんだよね?」
「せやな。」
「……ドレス、壊れたら嫌だからこことここ外して、これ解いてほしいんだけど。」
「おぅ…。」
そういうとニールさんは言われた場所の金具とリボンを解いてくれた。
「後ろ向いててね?」
「…………。」
返事はしないけど、ニールさんはベッドの縁に座って固まっていた。
着替えをしながら話続ける。
「もう一回聞くけど、花街って何?」
「…………女の子と遊ぶ場所や。」
キャバクラとかそういうとこかな?
プリシラの視線を考えると、それよりもっとなのかな。
イグニスさん、意外と肉食系?そして神職じゃないの?
「行きたかった?」
「俺はリリアがええって言うたやろ?でも…」
「でも?」
「ガッついて嫌われるくらいなら、行けばよかったとは…ちと思っとる。」
「これももう一回聞くけど、私達、結婚したんだよね?」
「せやで。」
私は極力普通のトーンで声を出そうと努めたけど出来なくて。
少し上ずった声で言う。
「じゃあ、普通じゃない?そういう事するの。嫌いには…ならないよ?」
「……………。」
もうすぐ着替え終わろうというところで、シュルシュルとタコ足が伸びて来た。
ニールさんはいつの間にか偽証石を解いていた。
座ったまま、タコ足で器用に私を抱き上げて強制的に運び、
ふわっとベッドに寝かせた。
「え?ちょっと?」
「もーー無理や!!リリア、据え膳って言うんは今みたいなことを言うんやで?」
「え?え?」
ニールさんは私に覆い被さるような体勢になり、にっこりと笑うと深くキスをした。
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