5.宴の後
「久しぶりね?向こうのあんたも元気よ。」
声は出せないから思うだけで答えればいいのかな。
「そうね。」
元気そうでよかった。
「まだ恋愛とかそう言うところじゃないけど、友達や家族とは仲良くしてるわね。
メイクの勉強をし始めて忙しいみたいだけど、
友達に練習台になってもらったりして、楽しそうよ?
おかげで私が入ってる時より女子には人気者ね。」
なんかわかる気がする。アイリさんより性格もマイルドだし。
でも楽しそうで何よりだなぁ。
「うるさいわね!それはそうと、あんた、さっくり結婚したわね、王子様と!」
アイリさん、やめて!
「やめないわー。しばらくイジるわよ?」
ぐっ…心が読めるから失礼なことも思えないし…。
「既にもう失礼よ?結婚するから大事な話しに来たのよ!」
え?何?何?
「人魚って一代限りなのよ。 子供は相手の種族の子が生まれるはずよ。
私ってばモテモテだったからひとりの男のものになれなかったんだけどねー?
だから、今回は普通の人生が送りたかったっていうかー?」
はいはい、自慢ですか。
ん、でも、そうか。子どもね。結婚すると出る話題だもんね。
あれ、でも一代限り?伝承では人魚の住む集落があるんじゃないの?
「あれね、気のせいじゃない?まずリングの外に人が行くことはないし。
私が海で泳いでるのを見た人間がそう勘違いしたのかもね。
あとは、私以外の人魚でも見たか、ね。」
え、アイリさん以外にもいるの?人魚。
「今は偽証石もあるから100パー生まれないとも言えないし。
特殊な条件が何十にも重なれば居るはずね。人魚って所謂ハーフよ?
まぁ、あんたはハーフとかじゃなくて、お姉のうっかりで生まれたんだけど。」
うっかりって。しかも私として生まれないし!アイリさんのせいなんだけど?
そう言えば、ニールさんもハーフかもって言ってたっけ。
その場合どうなるんだろう?まぁ、なんとかなるかな?
「そうね…。あんたたちならどうにかして乗り切りそうよね。」
なんか嬉しそうな声。
「別に?面白そうな予感がしただけよ。あ、最後に大事なアドバイス。
偽証石があれば、人となんら変わらないからね?私が作ったんだから間違いないわ!」
大事なアドバイスって何が?人と一緒って今更。
って…偽証石ってアイリさんが作ったの?!マジで!?
すごい!
「そこじゃないんだけど…まぁいいわ!そのうちわかるし。
褒められて悪い気しないしね?またなんかあったら話かけるわ。
王子様と仲良くね?」
そういうと、ブツっという音がして声が聞こえなくなる。
いちいち電話みたいにしなくていいんだけど。
アイリさんと喋っている間、顔が変だったのか、ニールさんが心配そうに私をみていた。
だだ、姿を消してもらっていたので、喋るとおかしい。だから、手を強く握りしめられた。
安心させようと思って、笑ってみせると抱き寄せられてキスされそうになったが、
見えているカールさんから蹴っ飛ばされた。
カールさんが、言ったよね?と言う顔をしてニールさんを見ると、
ニールさんもいたずらが見つかったという顔をしてカールさんを見ていた。
一緒に宿に戻っているシリルさんはグニルさんと手を繋いで歩いていて、
このやりとりには気づいていなかった。
宿に着いて、魔法を解いたら真っ先にカールさんに小言を喰らうニールさん。
「姿が見えないのをいいことに。私が見えてるって言ってるのに。
何をしようとしてるんだか。」
「いやな、ちょっと出来心で。」
「出来心で毎回口づけされるリリアちゃんの身にもなってみろ!」
確かに。いやではないですが…
「リリアは…されるのいやか…?」
捨て犬みたいな目で見ない!
「お兄ちゃんとかお母さんの前はいやだよ。流石に。人前とかじゃなければ…」
「ほらみろ!」
「でも見られてなければいくらでもしてええってこと?」
「「………」」
もういいや。恥ずかしいから。
「そう言えばオトン、いつまで居れるん?」
ニールさんが話を変えた。うん、それでいいです。
「船は明日出るんだろう?だったらそっちが船で帰る時でいいんじゃないかなぁ。
ルーロウが来た時と同じ方法で送ってくれるはずだし。
コールやルル、チロルに会えないのは残念だけど。もう少ししたら戻れそうだから」
「せやのね。でも今晩くらいはこっちに居れるってこと?」
「そうだね。」
「オト…父さんはどこに泊まるつもり?」
「うーん、カールと学校まで帰って職員宿舎にでも泊めてもらおうかな。」
シリルさんが残念そうな顔をした。久しぶりに会ったんだもんね。
話したいし、一緒にいたいんだろうなぁ。
「そしたら、私が別の部…」
「俺が泊まってる部屋を2人部屋に変更すればええんちゃう?
リリアが俺の部屋くれば、オトンとオカンで泊まれるやん。」
私が別の部屋に泊まればいいと私も思ったから言おうとしたら、
ニールさんがかぶせ気味に提案する。
「結婚したし、挨拶も済ましたからなぁ。それが一番ええか。」
シリルさんも少し考えたようだが、同意した。
「じゃあ、俺、聞いて来るわ!」
「私は学校に帰って、明日見送りに来るよ。
リンダ先生や学校に帰る組が待ってそうだから。
父さん、母さん、ニール、リリアちゃん、また明日。」
ニールさんは着替えもせず、宿の主人に確認に行き、カールさんは帰って行った。
シリルさんはグニルさんと一緒に居られることで少し嬉しそうだった。
グニルさんも少し照れくさそうにシリルさんを見ている。
なんだか、ラブラブだなぁ。
「大丈夫やった!俺、部屋の荷物取って来るわ。
リリアも自分の荷物、オカンの部屋から荷物持ってすぐ来てな?
今、部屋案内するって言うてたから。」
「うん、わかった。」
…………。
さっきまで、シリルさんとグニルさんが一緒に居られてよかったなぁって
思ってたからなんも考えてなかった。
私、ドレスのままだし…色々詰んだ気が…。
読んでくださってありがとうございます!