4.宴 後半
「特別ゲストがいるんだが。」
急にルーロウ校長が言う。ゲスト?エリーちゃんとエヴァルドルフ君以外
呼べるような人はいないはずなんだけど。
マリオくらい?
でもマリオと話してるとニールさんなぜか少ーし機嫌悪くなるんだよねー。
校長の後ろには男性が現れた。ん?なんか見たことある顔。
シリルさん、ニールさん、カールさんが目を丸くする。
「「「オトン!!」」」
「はい?」
「いやー!久しぶりやわー!!
チロルが生まれた時にちらっと帰って来た以来やね!3年くらいぶり?」
シリルさんがオトンに抱きついた。オトンはシリルさんを優しく撫でる。
「オカン…親がいちゃつくとこなんぞ見たないんやけど…?」
ニールさんが複雑そうな顔をしながら言うと
カールさんがうっすら頷いていた。
「あぁ、堪忍ね?久しぶりだったんやもん。」
シリルさんがほんのり赤くなりながら言う。
オカンが女子になってる。あ、それよりも。
「初めまして。リリアです。えっと…」
「あぁ、大丈夫だよ。結婚する前からうちの娘だったでしょう?
シリルから散々話は聞いてるし。グニルです。オトンでもいいよ?」
本当に外見はカールさんにそっくりだ。でも雰囲気とかはコールさんやニールさんに近いかも。
学者感が薄いって言ったらいいのかな。
「じっちゃん、どうやったん?オトン、ホーリーリングにおるんやなかった?」
「ちいとな、最近引退して時間も出来たから、色々やった結果とだけ言っておこう。」
ニールさんとルーロウ校長がひそひそ話している。
エルフこわい。なんでもありなんだもん。
「なんで校長いるのかと思ったら、家族ぐるみで付き合いがあるんだね。」
「私も引退以来お会いしてなかったけど、相変わらず謎の多い方ね。」
とのんびりした感想を漏らすシャロンちゃんとマリーダ。平和な感想でいいな。
「揃ったんなら、お祝いの歌、歌っていい?!」
リンが目を輝かせながら言う。
「リンが言い出すのはどうかと思いますわ?」
「いいじゃん、別に!」
「お祝いの席だから喧嘩はしないで、姉ちゃん、プリシラ。」
「「そう(ですわ)ね!!」」
変なところで息ぴったりな2人はお祝いの歌を歌ってくれた。
歌はエリーちゃんのパーティの時歌った歌だった。
ただ、蝶々ではなく、花びらのシャワーが舞うオマケ付きだ。
「わーキレー!!」
シャロンちゃんが思わず声をあげる。
プリシラの方を見ると、私の方を見て、得意げな顔をしていた。
確かにやるな、プリシラ。
「「「「「「「おめでとう!!!」」」」」」」
祝福の言葉が響く。
横にいたニールさんが私の肩を抱いたので、見つめあって笑っていると
「そのまま口づけはしないのか?」
と横からリンダ先生はニヤニヤしながら言う。
「「なっ!今?」」
「私の出身地ではするんだがな?『夫婦の誓い』といって、
祝福してくれた人達に誓うんだ。幸せになりますと。」
「へぇー素敵な誓いですね。」
リンダ先生の説明にマリーダが言う。
「そして幸せのおすそ分けをするという意味もあってな。
祝福してくれた人達の幸せも願う。
なんでも、いい人と巡り逢える、なんて話もあるんだぞ?」
「リリアちゃん!!」
シャロンちゃんがものすごく必死な目で見てくる。
何気にシリルさんとライザさん以外の女性陣の視線が痛い。
男性陣は興味なし…と思ったらラウルさんが見てた…。そっか…そうなのか。
「ど…どうする?」
「お…俺は…ええけど…?(許されるならいつでもしたいくらいやし…。)」
自重しようね、心の声!この人、そういえばキス魔だったわ。
私の返事待ちになってしまったので、視線が私に集中する。
シャロンさん、目が怖いです!!
「恥ずかしいけど、しよっか…みんなの幸せを願って。」
ちらっとリンダ先生の方を見ると、
「我らは誓う、我らの幸。我らは願う、汝らの幸。
はい、復唱。」
「「我らは誓う、我らの幸。我らは願う、汝らの幸。」」
復唱し終わると、どうぞと言わんばかりに手をさっとだした。
キスしろってことみたい。
人が見てるとこって恥ずかしい。そう思ってぎゅっと目を瞑ってしまった。
ニールさんが唇にキスする。女子たちがキャッキャいってる声がする。
………長くない??まだ??
そろそろ息が苦しいくらいで唇が離れる。
「長くない?!」
思わずツッコミ。
「え?だって…ぎゅって目ぇ瞑ってて、可愛かったんやもん。」
悪びれずにキス魔…もといニールさんが答えた。
「はいはい、ご馳走さま!!」
やや怒気のこもった声のシャロンちゃん。
シャロンさん、あなたのリクエストに答えたのにひどくないですか?
「もう一回とだけ言わなかっただけいいと思います。」
イグニスさんがしれっとツッコむ。
私も含め、一同が「あー」という顔をしていると、
「ちょ!ひどない?…イグニスは心でも読めるんか?!」
「ニールは顔に出過ぎですよ。活動中は見て見ぬふりが大変でしたよ。」
「そりゃ、イグニスの勘が良すぎるせいやろ?!他の人らは気づいてなかったんやろ?
なぁ、レン!!」
「気づいてないっていうか…イグニスさんが色々理由つけてましたから、
丸めこまれたっていうか…。」
「なっ…」
「だから苦労したんですよ?
暴走しないか不安で、花街に置いて来ようか迷ったこともありましたね…。
実際何度か誘ったでしょう?」
「だー!!今それ言うな!!リリア、俺は行ってへんからな!」
「イグニスさん、今の…自爆してませんか…。」
「はっ!…私はひとり身ですし問題は…ないはずです…。」
「イグニスは腹黒ムッツリやもんな、レン?」
「…確かに否定しがたいですね!」
「巫女を好色の目で見ないためにも発散する必要があるんです。
私も健全な男ですから。仕事なので、態度には出さないように注意は払ってますが、
ムッツリではないです。腹黒は心外です。」
イグニスさんが開き直っていた。
このやりとりみてると護衛2人とイグニスさんって、結構仲良しだったんだなぁ。
でも、花街って…なに?プリシラが冷ややかな目でイグニスさんみてるし。
そういう目で見られるようなとこなの?
ワイワイと騒いでいるうちにお開きの時間となった。
急に集まってもらったことと、祝福への感謝を伝え、解散となった。
最後に会場を用意してくれたジョナサンさんにお礼を言う。
「自分が推した巫女には幸せになってほしいから。
ニールなら…しょうがないし、まだ納得もできる…。」
ジョナサンさん、遠い目やめて!胸にズキズキとくるものがあるよ!?
でも、ちゃんと伝えることは伝えないと!
「ジョナサンさんがいなかったら、私の今はないです。巫女になる夢も、今の幸せも。
本当、ありがとうございます。」
改めてお礼を言う。
「僕も、自分の応援した巫女があんな大仕事をしたことを誇るよ。お幸せにね。
まだリンちゃん、プリシラちゃんが活動していくから応援していくよ。」
そう言って笑ってくれた。ジョナサンさん、ありがとう。
「これからも推し事、頑張ってくださいね。」
「あぁ。」
私達は、またカールさんに魔法をかけてもらって宿に帰る。
私は幸せだ。みんな祝福してくれて。
誰も隠して来たことを咎めたりしなかった。むしろ笑ってくれて。
この世界でいい出会いをしたと思う。人生の前半の方はあまり恵まれなかったけど。
そして、向こうに行った私のおかげで今があって…
向こうの私もこうして笑っていることを願うよ。
そんなことを考えていると急に声が響く。
アイリさんだった。
読んでくださってありがとうございます!