3.宴 前編
準備がもうすぐ終わるのだが…
「ケイさん、こういう小物あると可愛くありません?」
私は手近にあった紙にサラサラと絵を描いた。小さなベールだ。
ケイさんはしばらく眺めた後、
「ライザ、レースある?」
「んー、ないわね。」
「じゃあ、細い糸。」
「糸くらいならあるわ。」
「…頑張る。」
そう呟くと猛烈な勢いで魔法でレースを作っていた。
なんとなく言っただけだけど、職人魂に火がついてしまったらしい。
「ねぇ…リリアちゃん。もう仕事決まった?」
「いえ。ただ、ニールさんと一緒に帰るってことしか。
落ち着いたら、魔法使いの仕事を探そうかなとは思ってましたけど。」
本当、辞めたばかりで何も決まってないのだ。
「ねぇ、すぐにとは言わないから…落ち着いてからでいいの、
私の所で仕事、しない?」
「え?」
「ケイだけでは色々追いつかなくなってるのもあるし。
それに、リリアちゃんの考え付いたものを作るの、ケイは好きみたいよ?
センスが近いみたいね。」
「いいんですか!!」
「そのアイデアを他所に取られるのも嫌だもの。
とりあえず、旦那様、ニールに相談してから決めたらいいわ。ね?ケイ。」
ケイさんは作業しながら頷く。
「ライザ、糸足らない。」
「あら、そう?じゃあ、買ってくるわね?
ケイ、花嫁さんに手を出したらダメよ?あなたも男だしね?」
「心配ない。…ライザが一番。」
「あら、ありがとう。じゃあ、行ってくるわ。」
空気が甘い…。イグニスさん、こんな気持ちだったのか…ゴメンナサイ。
「手伝って。」
ケイさんがそう言って、作ったパーツの組み立てを指示する。
今作るのは自分では使うものだから、多少ミスしてもいい。
仕事になったらそうは言ってられないから、頑張らないとだなぁ。
まずはニールさんに相談して…旦那様…そっか結婚するから。
そういえばこれから一緒に暮らすんだもんね。
さっき、ライザさんも今日から同じ部屋?って言ってたなぁ…。
………。
思い浮かんだことに私は思わず顔を赤らめた。
キスだけじゃない、その先のこと。
生前は付き合ったことはないが、知識くらいはある。
私は動揺して思わず作りかけのベールを落とす。
「なんでもないです!」
「?」
ケイさんが首傾げていた。
そろそろベールができるかどうかという所で、シリルさんとカールさんがやってきた。
「わー、ちゃんとするとより綺麗やわぁ。ケイのドレスも素敵やけど、
着てる人もええからねぇ!
ニールもそろそろ支度できる頃やろ。あぁ、来た来た。」
「これでええの?」
そう言いながら、ニールさんがシリルさんの方へ歩いて来た。
ケイさん特製ので、普段の正装とは違うのだが、私のドレスと同じ白色。
でも、雰囲気はやはりどこかの皇子のような風格が。
私補正なのかもしれないけど。
「どや!格好ええやろ!惚れ直したか!」
そう言って、ニカっと笑う。
「…うん…。」
素直に答えるとなぜかニールさんは赤くなった。もー。自分で振ったんじゃん。
そんな事をしていると、ベールが出来た。ケイさんは私にベールを着けさせると頷いていた。
満足いくものが出来たみたい。
「ケイさん、ライザさん。準備とドレスありがとう。素敵にしてくれて嬉しい。」
「いいのよ。」
ライザさんが笑いながらいう。ケイさんは頷くだけだったけど、笑ってくれた。
急なのに準備してくれて、本当感謝しきれない。
「 あぁ、せや。リリアちゃんは顔がさすから、隠れて行った方がええな。
一応、 ニールもか。」
「俺も?」
「ニールも目立つからな。」
カールさんが言う。
私は先日巫女を辞めたばかりだし、ニールさんもキアバではそれなりに顔を知られているし。
カールさんが私達2人に手を繋がせ、魔法をかけて私達の姿を消した。
他の人には見えないが、術者と触れてる人には見えるらしく。
「ニール、エスコートを。
リリアちゃんにイタズラしたら見えてるからな。」
とカールさんから釘を刺されて、図星顔をしていた。
「(バレたー。)リリア、行こか?」
「うん。」
会場は小さなレストランだった。そんなに人数もいるわけでもないので十分だった。
着くと頃合いを見てカールさんが術を解く。
「あ、リリアちゃん!」
シャロンちゃんとマリーダが真っ先にやって来た。
「やっぱりじゃない!巫女やめるって言うから何かと思ったら!
もー。散々否定してたけど、やっぱりだったじゃないの。」
シャロンちゃんがふくれっ面で言う。
「ごめん。学校の時はこんな風になるなんて本当に思ってなかったし、
巫女になったら色々事情があってあかせなくて…。」
「まぁ、リリアは秘密主義者だしね。」
マリーダにはそう見えてるのか。確かに明かせない秘密が多かったけれども。
「最後にはちゃんと言ってくれるから許してあげる!
とにかくおめでとう!!」
「ありがとう。エリーちゃんにも直接言いたかったけど、急だったから。」
「まぁしょうがないよね。おめでたい理由で来られないんだし。
エリーちゃんもきっと私と同じこと言ったと思うよ?」
「そうだね。」
思わず苦笑する。
ニールさんはジョナサンさんと喋っていた。
この場にいるのは、
シャロンちゃん、マリーダ、リンダ先生とルーロウ校長、カールさん、
ジョナサンさん、ケイさん、ライザさん…とラウルさん。いたのね?
シリルさんと…あれ?ウソ。
そこにはイグニスさん、リン、レン、プリシラがいた。
「え、なんで?」
「えへ!」
「私達もちゃんと報告してもらわないとですわ!!」
えー!気まずいんだけど!!
シリルさんはプリシラがニールさんのこと、好きだったの知らないから。
「お母様が呼んでくださいました。ちょうど私達も船を待っていたので。
教会長からはお祝いのお手紙預かりましたよ。」
イグニスさんが続ける。
「私も別に来なくても良かったのですが、レンが寂しそうでしたので。」
「イグニスさん、否定はしませんけど、僕をダシに使わないでください。
来たかったんでしょ?」
「まぁ、ニールがガッついてないか心配はしましたね。」
昨日、ガッついてましたよ。とは言えない。
「さあ!リリア?私達に何か言うことはありませんこと?」
「黙っててごめんなさい…。」
「いつからですの?」
「そうそう!それね!」
「ちゃんとそういう仲になったのは最初にラフィティに行った辺りからでしたかねぇ。」
「へぇ、そんな前からなんですか。」
「ちょ!なんでイグニスさんが答えるんですか?」
私は思わずツッコミを入れる。
「あれ?違いました?」
「むぅ。違わないですが…。」
リンレンはイグニスさんなんで気がついたのなどと質問を始めた。
プリシラが私に
「リリアが言えなかったのは、倒れた事と何か関係があるのでしょう?
誤魔化したって分かりますわ? あの時から魔力量がぐっと落ちましたもの。
安心なさい?エルフは魔力が強いため、嫉妬とは程遠い種族ですの。」
的はずれともなんとも言えない推理を披露したプリシラは勝手に納得してくれた様子。
「あれ?なんでおるの?!」
みんなに気がついたニールさんにプリシラは
「リリアに飽きたら私に乗り換えてもいいですのよ? 私は老けませんし!
もしくは第二夫人でも!!」
と詰め寄っていた。納得したんじゃなかった…。
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