短編ーカールの実験
リンダ先生のいい人とは。
こないだからカールがおかしい。いつも飄々としているアイツの顔にずーっと眉間にシワがよってる。
一体どうしたのか。アイツがあの調子なのはこっちも気持ち悪いので、
声をかけてみることにした。
「なぁ、カール。どうしたんだ?もし、身体が鈍っているようなら付き合うぞ?」
カールがびくりとする。本当、一体どうしたと言うんだ。
「リンダ…先生、でしたか。」
「2人の時はリンダでいいって言ってるだろ?同期じゃないか。」
「そうでしたね、リンダ。今のは手合わせに付き合うって意味ですよね?」
「もちろんそうだが?他に何がある?」
「男女間のも付き合うとも言いますよ。」
「……………急にどうしたんだ?病気か?薬はどこだ?」
カールがそんな事を言い出すとは、今から嵐にでもなるんじゃなかろうか…?
「病気ではないよ。オト…父さんにそろそろいい人をと言われたが、
そう言われても、付き合うとか結婚というものへのメリットがわからないんだ。
女性は割とすぐそういう事を言い出すなぁと思ってね。
リンダも一応生物学上は女性だろう?
どういったメリットがあるのか教えてもらいたいものだ。」
カールはため息をついた。ため息をつきたいのはこちらの方だ。
「カール、メリットで付き合うもんじゃないんだぞ?」
「じゃあ、どうしてだ?」
どうして…と言われても…。カールの眉間のシワがより深くなる。
「お前の両親やニールとリリアを見ていてメリットで付き合ってると思うか?
なんというか…その…お互いを大切な気持ちというか…。一緒にいたいというか…。」
なんだかモジモジしてしまう。私も結構いい歳なはずなんだが、
同期で同僚のカールに恋愛論を説くなど、面映ゆいにも程がある。
それに私も恋愛経験が豊富な方ではない。大陸を巡り、数々の魔物討伐に身を投じてきた。
その場でいい殿方を見つけてもそれは仲間だ。恋ではない。
エリーの事に関しては偉そうな事を言ったが…実は言えた立場ではなかった。
「大切か…。家族が大切と同じ思いを他人に…でも、リリアちゃんは妹ですね…。」
カールがブツブツ言い始めた。それにリリアはニールとくっついただろうよ?
と心内で思っていると、何か思いついたようにカールがこちらに向き直る。
そして、急にその両腕で私を拘束する。
「なっ!何するんだよ!」
急な事で避けられなかった。私としたことが、不覚だ。
拘束を解くと、殴りつけてやろうと腕を振りかぶるが腕を掴まれ、阻まれる。
そして、カールは悪びれず、言った。
「いや、ニールがよくリリアちゃんにしてるんで。
実際にやってみたらメリットもわかるかなと。
リンダも大切な他人ですから。」
ニールがよくリリアにすること?
それは…一般的には抱きしめるという行為ではないのか…?
私は思わず腕を引っ込めた。それに大切な他人って…。
私の頭は混乱したが、次の一言で一気に冷める。
「生徒達も大切ですがね。」
…おいっ!
それは恋愛とかとは違う。とツッコミたいが、言うとまた説明を求められるに違いない。
私は頭を抱えながら、次の一言を振り絞る。
「…今の行為を生徒にはやるなよ。お前の嫌いな面倒なことになるからな?」
「わかりました。当面はリンダでのみ試すことにするよ。」
「は?」
「生徒で試すと面倒になるのだったら、リンダで試すのは問題ないのでしょう?
今の発言からはそう取れましたよ?
それにいつも手合わせ付き合ってますからそれくらいいいじゃないですか。」
「そ、それくらいって…。そういうもんじゃないだろ!
それに、私にいい人や想い人がいたらどう思われるか…。」
「リンダ、そういう方がいるんですか?そうですか…。」
カールは驚いた顔をした後、少し残念そうな顔をした。
なんとなくバカにされた様な気もするが、残念そうな顔には少し罪悪感を覚えた。
「いや……今はいない。
仮にいたら、そういうことをしてると誤解されるということをだなぁ…。」
「いないならいいじゃないですか。
さっきのでなんとなくメリットと言うものがわかりかけた気がするんですよ。」
そう言って、いつもの飄々とした顔のカール。眉間のシワはすっかり消えていた。
それにメリットがわかりかけた?どういうことか?
「私が手合わせに付き合って、ついでに私の実験に付き合っていただく。
それでいいじゃないですか。」
にっこりと笑うカール。その笑顔に思わず私の心はぐらりと揺れる。
「…わかった。その実験とやらに付き合ってやる。その代わり、責任取れよ?」
「?責任?」
…コイツにはわからないか。わかったらあんな眉間のシワ寄せてまで考えないよな。
「とりあえず、今から手合わせに付き合え!!」
「…わかりましたよ…。条件ですしね。もう一つ試したいことがあるので。
手合わせ中に機会があったら試してみます。」
カールは手合わせのために上着を脱ぎながら、不穏なセリフを吐いのだった。
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