9.誓い
陽はとっくに暮れた。ニールさん…とラウルさんが戻ってこない。
フラグの件があるので流石に不安になってきた。
「ライザさん…遅くないですかね、ニールさん…とラウルさん。」
「少し遅いわね…。心配?」
「えぇ。ちょっと昨晩、心配なこと言ってたから。」
「ニールなら大丈夫よ。浮気の心配ならないわ。
…だた前付き合ってた子とかに捕まってないといいけど。」
ライザさんはそっちで心配してるんだ…って前付き合ってた子??
「オーサで数々の浮名を流したって話はしたでしょ?
若い頃のニールは押しに弱かったし、女の子に手なんかあげるわけないでしょ?
色んな女の子から言い寄られても嫌って言えなくてね。
それで無理に…」
「ストーップ!!ライザ、それ以上は勘弁したって!!」
ちょうどニールさんが帰ってきて、ライザさんの言葉を遮った。
「よかった!心配してたんだよ?」
私はフラグの件で不安になりすぎてたらしく、つい抱きついてしまった。
ニールさんは優しく抱きしめ返す。
その様子をライザさんとケイさんが生温かい目で、
ラウルさんがげっそりした顔で見ていた。
「あ、ごめんなさい…。」
パッと離れようとしたら、ニールさんが離してくれない。
「(リリアから抱きついてくれるのって新鮮やな…)
遅なってすまんな。コレ作りに行っててん。」
すっと髪に何かをさした。
「何…?」
手に取ると、コキュラの髪飾りだった。
「キレイ…。え、これどうしたの?」
「プレゼントやで。結婚した証。」
証?結婚指輪みたいなもの…?ニールさんは続ける。
「コキュラはこないだ実家行った時取らせてもらったもんや。
ラウルに加工してくれるとこ紹介してもらってん。
色々お願いしたらやっぱ時間かかってもうて。」
「ありがとう。嬉しい。大切にするね。」
そういうとニールさんは照れくさそうに笑い、私もつられて笑う。
「ニール、続きは帰ってからやれよ…。俺、胸焼けしそうだぞ。」
ラウルさんが依然としてげっそりした顔で言う。
どうやら甘ったるい空気を振りまいてしまったようだ。
「そうね、もう遅いから帰りなさいね。ちゃんと2人で。ニールも襲われかねな…」
「わー!!ライザ!ヤメェ!!」
どうやら一緒に出勤しているのはニールさんのためでもあることが判明したところで、
私達は手を繋いで一緒に家に帰った。もらった髪飾りをつけて。
「〜♪」
「リリア、ご機嫌やな。」
私はついついハミングしていた。
「嬉しくて!それに心配してたけど、ちゃんと帰ってきたから。」
「ふらぐってやつか?大丈夫やったやろ?まぁ、今日は危険なとこには行ってへんけど。」
「そうだ♪私も結婚の証に何かプレゼント用意しようかな!?」
「ええって。あ、でも、リリアならいつでもほしいかもなぁ…。」
「…助平。」
「大体の男は助平やで?」
そんなくだらないけど、幸せな会話をしながら歩く。
月がキレイな夜だった。最初に1人で過ごした夜も月がキレイだったっけ。
そんな夜に手紙は届いた。差し出し人は母からだった。
マーマンのおっちゃん、確かアントニアさんっていう名前だったような気がしたけど、
その人には手紙を書いたけど…。なぜ母から?心の準備が…
手紙を持って、スーハーと深呼吸しているとニールさんが不思議そうに見ている。
「手紙…母から。マーマンの方の。」
ニールさんの整った顔が歪む。
「読まなくてもええんちゃう?」
「だだの手紙だから大丈夫だよ。心配しないで?」
手紙自体に魔法がかかっているわけでもないし。多分平気なはず。
ニールさんは心配そうな目で見ながら言う。
「俺も一緒に読んでええか?」
「うん…。側にいてくれるだけで安心できるし。」
アントニアさんには、
村を出た後、優しいクラーケンの一家の元にお世話になり、
学校に通って、巫女になって…今は巫女を辞めて、素敵な旦那様と暮らしている。
今はとても幸せだと。もう集落に戻ることはないけど、元気で。
あと母にも結婚したことくらい一応報告しておいてほしい。
そんな感じの手紙を書いたのだ。
まさか母から返事が帰ってくるなんて思いもしなかった。
ニールさんも私も緊張しながら、手紙を見つめる。
【集落に戻る必要などない。私はあなたの母などではありません。
私はあなたと縁を切ったのです。リリア、幸せになりなさい。】
手紙は短かったし、内容は冷たかった。ニールさんはその内容に顔を顰めていた。
「読まなくてもよかったんちゃう?」
「ううん。読んでよかったよ。これで集落に帰る必要もないこともわかったし。」
ようやく吹っ切れた。ルルさんに言われたこともあって気にはしてた。
縁を切ったと言われたから気にする必要はないのだ。
そして、最後の一文。母が私の名前をちゃんと呼び、そして幸せになりなさいと。
…親になればわかるのかな。ルルさんも言ってたっけ。
私は手紙をキチンと折ってポケットにしまった。
冷たい内容だけど、不思議と捨てる気にはなれなかった。
「私は私で幸せになればいいってことじゃない?」
「リリアがええならそれでええ。俺はリリアが側にいてくれればええよ。」
そういうと優しく私の頭を撫でた手を撫で下ろし頬に手を添え、私を見つめる。
頬に添えられた手の上に私の手を重ねて私もニールさんを見つめて笑う。
「我らは誓う、我らの幸。やったっけ?」
ニールさんはパーティでやった「夫婦の誓い」の文言を唱えた。
「そうそう。」
私はそっと目を閉じて、手の方に首を傾げた。
「「我らは誓う、我らの幸。」」
2人でそう唱えると、優しいキスをした。
誰に誓った訳でもないけど、私達の幸せを月に誓ったのかもしれない。
読んでくださってありがとうございます。
補完はこれで終了です。後は短編予定です…と言いながら長編になるパターンもあります。
これ以降不定期更新になります。