8.フラグ
実家での挨拶終え、私達はオーサで家を借り新生活を始めることになった。
私はケイさんの下で、ニールさんはオーサの商人連での仕事を始めた。
ニールさんのほうは、ジョナサンさんが紹介してくれたらしい。
オーサの商人連の長も何度かニールさんをキアバで見かけて知っていて、
話はスムーズだったらしい。
また、時には賞金稼ぎのようなことをして稼ぎを増やしていた。
護衛を3年、周辺警護歴も長いニールさんからすれば朝飯前らしいけど。
ベッドの中で腕枕をされながら、明日の予定を話す。
私はもちろんケイさんのところなのだが、ニールさんは商人連の仕事が明日はないらしく、
ちょっと出かけるらしい。賞金稼ぎかしら?
「あんまり危ないとこには行かないでほしいかなぁ?」
と言ったら、
「オカン並みに強い奴がそう居ると思うか?」
と、ごもっともな言葉を返されてしまった。
うん、いない。少なくとも常人じゃいない。
伝説の魔物とか。ルーロウ校長クラスじゃないと無理な気がする。
魔法剣士であるリンダ先生ですら、ニールさんには勝ててないんだから。
「それに俺がリリア残して死ぬと思うか?」
とニコニコしながらいうので、
「そういうセリフはフラグって言って、
言うと死んだり、死にかけるから言っちゃダメなんだよ?」
と真顔で説教しておいた。
「ふらぐ??何がダメなん?」
とブツブツ言っていたけど、死亡フラグは折っておかねば。
まぁ、私がチートじゃない時点でフラグもなにもないんだろうけど。
ニールさんにはちょっとずつだけど、私がどうして人魚なのかを説明し始めていた。
なので、フラグついでに私の前世、つまり帰ると行っていた世界の話も寝物語にした。
ニールさんは
「生まれ変わる前の記憶か…。」
呟いたあと、こう付け足した。
「そのおかげで今のリリアに会えたんやなぁ。」
おでこや頬に短くたくさんキスをする。
どんどんエスカレートして耳や首筋にも。
「ひゃん!くすぐったい!」
「かわええなぁ…。」
ニールさんはとろりとした視線をむけながらキスを続ける。
「あのさ、話、途中…?」
「ん?聞こえへん。」
深いキスで唇を塞がれ、話は中断してしまった。
ーーーーーーー
昨晩の死亡フラグは折れなかった。むしろフラグがより強固になった気も…。
ちょっと心配だ。
突然強い魔物に襲われて…とか、そういう展開は困る。
そこだけお約束とか本当やめていただきたいから、お祈りしておく。
愛すべき残念女神様にだ。
もう巫女はやめてしまったので、直接お話することはないけど。
きっと聞こえてるはずだ。
「ほな、いこか。」
「あ、待って。」
私は首にスカーフを巻いてニールさんと家を出た。
いつも一緒に出勤する。
オーサでも何度か演目をしているので、顔を知るものは多い。
そのため護衛も兼ね、ライザさんのお店まではニールさんが送ってくれる。
もう巫女は辞めたのだが、
辞めてからの月日は浅いから念のためだとニールさんは言っていたし、
ライザさんもその方が面倒事もないだろうからと賛成していた。
それにニールも商人連に出勤するからついででしょ?とも。
「おはようございます。」
「リリアちゃん、おはよう。ニール、送迎、ご苦労さま。」
「ライザ、おはようさん。今日ラウル借りてええ?」
「別に暇してるからどうぞ。」
「えぇ!俺の意見無視?!」
「どうせここにくるならニールが迎えにくるまで
リリアちゃんはいたほうがいいのかしら?」
「あぁ頼むで。」
「行ってらっしゃい。ラウル、ニールを花街に連れてっても、
あなたが悲しくなるだけだから絶対辞めなさいね?」
「うっ…。」
「花街には行かんけど、ちょい遅なるかも。ほな、行ってくるわー。」
「気をつけてね?行ってらっしゃい。ラウルさんも気をつけてー。」
ドナドナされる牛のような目のラウルさんを
ニールさんは引きずるようにして行ってしまった。
でも、どこ行くんだろう?
にしても、ニールさんもライザさんも私を過保護にしすぎではないかな。
子どもじゃないから1人で帰れると思うんだけど。
「さ、じゃあ、今日の仕事を始めましょ?」
「はーい。」
「それ、可愛い。」
後ろからケイさんが話掛けてきた。
出かけてる直前につけたスカーフを指していた。
「あぁ。ありがとうございます♪」
つけてる理由は昨夜のアレだけど、褒められたらいいや。
「リリアちゃん、アクセサリーとかも作れたりする?」
「えーと、革紐を編んだり、ビーズ、あ、紐に石を通したような簡単なものなら作れますけど…
細かいのはちょっと。」
ライザさんが閃めいたように言ったが、期待に添えるような技術はない。
「革紐ってなると男性ものかしらね。試し作ってみる?」
「ちょっと作ってみますね!」
そう言いながら、革紐でミサンガのようなものを編む。
男性ものだったら、ニールさんにあげてもいいのか。
材料費払って作ろうかな…そんなことを考えながら編み進めると、
ぶちっ
っと音を立てて革紐が切れた。
これも…フラグよね…?嫌な予感しかしないんだけど!!
読んでくださってありがとうございます!次で補完は終了予定ですよ。