戦車の弱点
森に入って初めにやるのは、木々の間隔の確認である。今の自分は人の身を成してはいない。悲しきかな、自ら望んだ事とはいえ、人ならず者と成ってしまったのだ。その為、人が通れる場所が通れなくなっているのは当然である。木などの、通行の妨げとなる障害を全て薙ぎ倒しながら進むなど、実際は不可能で、確り避けないといけない。へし折れる程の細い木ならできない事もないが、地面に根を張り巡らせた木を横倒しにする程、二号戦車に馬力は無い。その為、二号戦車が通れる程度のスペースがあるか確認する事はかなり大事なのだ。
しかし、森で戦車、それも二号戦車か・・・。うむ、フランス戦を思い出すな。他はベルギー戦だろうか。あれらの戦闘に二号戦車は投入されていた。当時、フランスとドイツとの国境に”マジノ線”と呼ばれるとても強固な要塞線が築かれていた。ドイツはこれに馬鹿正直に真正面から突っ込むのではなく、隣国であるベルギーを通ってマジノ線を迂回する事で対処した。簡単に説明すると・・・目の前にあるバリケードを、倒してゴールするのではなく横に避けてゴールする、という感じだ。ちなみにゴールはパリだったりする。当たり前だね。更に余談だが、ベルギーは通り道になった。悲しいね。
と、言う訳で、二号戦車と森は深い縁がある。その後の戦闘でも森と関わったかもしれない。・・・因みに二号戦車って戦闘用の戦車じゃなかったりする。本当は訓練及び生産技術取得の為に開発された戦車なのだ。だが、将来の主力になる三号、四号までの繋ぎとして戦線に投入されたのだ。妹?弟?もしくは姉か兄の一号戦車と一緒に投入され、非力な二号戦車はスペイン内戦ではソ連から共和派へプレゼントされたT26の45mm戦車砲にやられ、ポーランド侵攻では7TPの37mm戦車砲にやられ、また爆撃機や砲兵の攻撃に引っくり返され、歩兵や狙撃兵の弱点射撃で中の人が殺され・・・と、苦戦しながらも戦い抜いた。その後の戦闘にも参加していて、強敵相手に本当に苦戦しながらも戦い抜いて、最後は祖国の降伏で長い戦いに終止符が打たれたのである。
長い余談になってしまったが、兎に角スペースが重要である。幸い、この森には十分な余裕がある。成長で一回り二回り大型化しても大丈夫だろう。
気を取り直して、前進を開始する。と同時に各種スキルも発動だ。マップと音響探知は常時稼動させ、望遠と熱源探知はそれぞれ使い分ける。だが何も発見できない。音響はある程度大きくないと反応しないらしく、うんともすんとも言わない。勿論だが熱源も探知は出来ない。望遠も捉えるのは木々の模様と草や枯葉だけである。
以上の情報からも判るだろうが、今の所モンスターは見えない。まぁ当然だろう。森に入ったばかりだからな、慌てないで探すとしよう。
暫く前進していると、音響に反応が出た。その方向へ向かってみると、何やら咀嚼するような音が聞こえる。食事中だろうか。好奇心と今後の為に接触を図る。今まで忘れていた迷彩と隠密を発動させ、周囲に馴染むとしよう。迷彩によって、装甲の表面にダークイエローとレッドブラウン、ダークグリンーンの三色迷彩が施された。うーむ、これ、どう表現すれば良いのだろう。んー取り合えず、三色の作られた迷彩である。迷彩と一緒に発動させた隠密だが・・・静かになったか?余り変らないように思えるが・・・。まぁ、大丈夫だろう。
木々の間を通り抜け、音の根源へと接近する。視界の波紋も次第に大きくなる。この音は葉っぱか?いや落ち葉のかもしれない。どうやら植物を食べているようで、肉食では無いらしい。
最後と思われる木を通り抜けると、其処には緑色の大きな芋虫がいた。大きさは大体50cm。デカイ。気持ち悪い。こんな大きな芋虫が成虫になったら何になるんだ?少なくとも大きさは50cmを超えるだろう。
取り合えず目星を。
・パラライズキャタピラー
とても大きな緑色の芋虫である。女性から驚異的な程に嫌われている。口から放たれる粘液は微量ながら電気を帯びており、浴び過ぎると感電し麻痺する。麻痺した獲物を、生きたまま食べる為、冒険者からはとても嫌われている。雑食。視力、聴力は悪く、嗅覚が優れている。
oh・・・これはこれは。とてもエグイ戦い方をする芋虫だな。麻痺か・・・名前と説明からも判るが、文字通り麻痺するんだろうね。でも電気による麻痺なのか。粘液に何か含まれてるとかではなく。
此方には気付いていない様だ。視覚と聴覚が悪いとあるし、見えていないのだろう。あとは戦車には臭いがない・・・いやあるな、油の臭いがある。・・・でも此方に気づいていないのは確かのようだ。
さて、気持ち悪いし、女性の敵ならばここで滅ぼすとしよう。HE弾を装填し照準する。もうなれた作業だ。砲塔の旋回と、砲身の昇降を同時に行うのも容易いものだ。いずれは、移動しながら射撃する行進間射撃と、一瞬止まってその間に狙い射撃する躍進射撃を習得したいと考えている。照準が終わった。そして射撃する。
いつも通り宙を飛ぶHE弾は、大きな的である芋虫の体へ突き刺さり内側で起爆する。辺りには芋虫の断片と緑の血液が散らばった。それも直ぐに白い粒子へと変わり、消えていく。
まぁこんなものだろおっ!?
「ミャーッ!」
なんだ?何が起こった?何かが自分に乗った?天板を見ると、これまた大きな猫のようなモンスターが自分に爪を突き立てていた。フシャーっと如何にも警戒していますって声を出している。ダメージにはなっていない様だが・・・おかしいな、さっきまで見当たらなかったんだが。
そんな時は目星だ。
「フシャーッ!」
・アサシンキャット
単独で行動をする猫型のモンスター。木の上に身を潜め、目標が油断した瞬間に奇襲を行う。鋭く鋭利な爪を器用に突き立て、獲物の首や動脈などの致命的な部位を抉る。
成程、自分はアンブッシュされたのか。だが、残念だったな。その程度の攻撃では致命傷にはならないのだよ。それどころか装甲に傷が出来るだけで全くの被害がない。
さて、爪を突き立てた愚かな猫を葬るとしよう。そうだな、取り合えず引き剥がしたいな。それから葬ろう。今まで三速で移動してきたが、六速まで入れる。不正地の為、時速30km程度だが十分な速度だ。いきなり動き出した自分に、警戒の鳴き声を出していたアサシンキャットが、甲高い鳴き声で騒ぎ始める。八津に爪を入れてしがみ付き、振り落されまいと強張る。
「ウミャーッ!?」
ふむ、流石に突然前進した程度では落ちないか。では止まってみるとしよう。足回りへ送られていた回転エネルギーを逆回転にし、急停止する。突如停車した自分に、しがみ付いていたアサシンキャットを慣性の力で振り解きにかかる。アサシンキャットの猫にしては大きな体を容易く持ち上げ、後ろ足が宙を舞う。だが、爪がキューポラ・・・ハッチの隙間に入っているらしく、前足が離れない。ならばと再度前進し、急停止、後退、前進、急停止、後退・・・を幾度も繰り返す。だが離れない。奴も馬鹿じゃないらしく、今度は後ろ足の爪も突っ込んできた。こうなってはもう剥がせない。
・・・とても頭に来るが、どうしようもない。放置するとしよう。いつか取れるだろう。ダメージも入らないようだし、特に問題はない。
「シャーッ!」
・・・今回のように、戦車は上を取られると弱い。主砲や機銃は真上に照準出来ないからだ。また、側面や背面、上面は正面に比べて装甲が薄い。今回のアサシンキャットはダメージが入らなかったから良かったものの、もし火力が高いモンスターだったら・・・不味いな、始まって早々に致命傷を負いかねない事態だ。それにここは森。木の上から奇襲してくるのはこの猫だけとは限らない。今以上に周囲の警戒をしなければいけないな。
取り合えず、猫は放置してまた行く当ても無く前進する。如何にかしてこの猫を処理したい。猫は嫌いなのだ。理由はアメリカの戦闘機や駆逐戦車やらの名前にキャットが付き、その戦闘機や戦車が搭乗するゲームで心底悩まされてきたからだ。このアサシンキャットからしたら風評被害だが、自分の考えは変らない。猫は可愛いとは思うが、一緒に居たいとはとても思えない。味方なら別だが。
それにしても・・・うーむ、どうしたものか。主砲は真上には向けられない。だが、この猫のように真上から攻撃してくる敵が、この猫だけとは絶対に有り得ない。猿型が絶対存在する筈だ。早急に対策を考えなければならない。まぁ、流石に針葉樹林に猿はいないだろう。後は、高速で移動する敵も難しいな。戦車の砲塔旋回速度では、速いモンスターに対し常に砲を向けられない。簡単に言うと・・・銃を向ける速度が、敵の移動速度よりも遅いのだ。また、砲塔旋回にはエンジンなどの動力で動かすタイプが存在するが、二号戦車はそのタイプではなく手動で動かす必要がある。その為動きの速い敵には滅法弱いのだ。・・・本当に、早急に対策を考える必要があるな。
「キキーッ!」
「ウミャッ!?」
・・・天板に張り付いていた猫が吹き飛ばされた。それと同時に天板に石が落ちてくる。石には赤い液体が付着していた。・・・この石が原因か。天板から転げ落ち、地面に投げ出された猫に続けて石が複数飛んでいく。停車し、それが飛んで来た方向を注視する。見えない。熱源探知を作動させる。今度は見えた。木の上に、人がしゃがみ込んだような熱源が複数確認できる。先程聞こえた鳴き声から推測して、恐らく猿か。うーむ、フラグだったか?針葉樹林にはいないと思ったが、浅はかだったか。
「キキーッ!」
「ミャ、ミャァア!」
「キキキーッ!」
「キー!」
暫くアサシンキャットへ投石が続けられる。多方向からの遠距離攻撃がアサシンキャットに次々着弾し、白い粒子となって消えていった。
そしてアサシンキャットへ飛んでいった投石は、今度は自分へ飛んで来た。次の獲物、という事だろう。飛んでくる方角は正面斜め上辺りからか。
装甲に石が直撃し粉々に砕け散る。くそ、装甲化された場所なら防ぎきれるが、背面上部、エンジン部分は不味い。そこは碌な装甲が施されていないのだ。文字通り鉄板でしか守られていないそこは、幾ら石といえど攻撃に晒されれば唯ではすまないのだ。アサシンキャットの攻撃は、どちらかと言うと引き裂く、といった攻撃だった。だがこの石は突き破る、といった攻撃だ。凹むならまだいい。もし突き破られたらエンジンに被害が出る。最悪タンクに穴が開いて爆発、なんてのも有り得ない話ではないのだ。
そこまで考えてから行動に移る。不味い、少々思考に時間を割り過ぎたか。敵が側面に回りこむように動き始めている。包囲し多方向から攻撃するつもりだな?だが簡単に包囲される訳にはいかないのだ。急速後退し、敵に後ろを取られないように動く。木にぶつかって立ち止まらないよう、後方を確認しながら後退する。速度にして時速約10kmだ。とても遅いが仕方ない。
敵からの攻撃は依然健在。後退している為、敵は側面に回り込めず正面から攻撃するしかない。そして正面からなら、装甲の薄い天板に被弾しても十分無力化できる。
後退すると同時に、飛んで来る石が外れ始めた。逃げる自分を追いかける為に、移動しながら攻撃しているのだろう。少し前や横に落ちるもの、見当違いの方向へ飛んでいくもの、後退する時に避けた木に当たるものと、投石の精度が落ちている。だが、外れる石に比べて命中する石の方が多い。後退速度が遅いからだろうか、まだまだゆっくり狙う余裕があるようだ。
うーむ、このままでは現状を打開できないな。逃げ続けていては、いずれ森を出るだけだ。しかし自分は森を出たくない。だからといってこの猿達を無視する訳にもいかない。如何にかして敵を撃破する必要がある。
・・・背面さえ守ればいいのだろう?正面からならば完全に受け止められるのだ。そして敵の移動しながらの攻撃は、時速約10kmでも精度に難が出てくる、と。ふむふむ・・・成程、理解した。現状の突破法を見つけたぞ。
作戦を実行に移す。今まで後退していたが、前進に切り替える。転輪が逆回転し、後退の為の回転エネルギーが前進の為に使用される。後退に使われていたエネルギーが慣性となり、前進のエネルギーと一瞬拮抗する。その為一瞬停止した自分に石が複数命中するが、これを全て無力化する。拮抗したパワーバランスだったが、その均衡は崩れ前進にパワーバランスが傾く。有り余ったパワーが二号戦車の軽い車体を押し出し、前進へ誘う。
「キキッ!?」
「キキキキッ!」
「キキーッ!」
そのまま前進し、敵が潜んでいる木の下を通り過ぎる。敵は自分の突然の行動に混乱したようだが、直ぐに立ち直り自分を追い始める。そして今まで通りに追いながらの投石が自分に注がれるが、大半が見当違いの方向へ飛んでいく。
当然だが戦車は後進より前進の方が早い。一部例外は存在するが、これは当たり前だな。前進より後退が速い車なんて、少なくとも自分は聞いた事がない。勿論だが、二号戦車は数少ない例外ではなく前進の方が速い為、今の自分の速度は後進の約2倍の時速20kmで移動している。敵にゆっくり狙う余裕など無い筈だ。
作戦は上手くいっている。後は背後を隠せる事が出来る大きな遮蔽物を見つけるだけだ。
自分が考えた作戦はこうだ。まず敵を前進にて突っ切り背後に回る。そのまま前進を続けて森の奥へと進む。その途中で大きな遮蔽物を探し、それで背面を隠して敵を正面から迎え撃つ。以上だ。簡単な作戦だな。弱点である背面を隠し、正面で敵からの攻撃を受け止めるだけの、単純で判りやすい作戦だろう。いや、どちらかというと作戦ではなくテクニックというべきか?
因みに何故森の奥へ向かうかというと、今まで大きな遮蔽物として利用できる程のものを見かけなかったからだ。自分が想定している遮蔽物は岩や崖、大木であるが、道中それらを見かける事はなかった。今まで通ってきた場所にないのならば、奥にあるかもしれない、という考えだ。
うーむ、見つかれば良いのだが・・・。
パンツァー 二号戦車F型 lv 6
攻撃力 2cm kwk 30機関砲
7.92mm MG34機関銃
砲塔装甲 正面30mm
側面15mm
背面15mm
上面10mm
車体装甲 正面30mm・下部35mm
側面15mm
背面15mm
上面15mm
称号
・なし
スキル
・目星 2lv up!
・拡大眼 3lv up!
・熱源探知 2lv up!
・音源探知 1lv
・マッピング 2lv up!
・風魔法 1lv
・火魔法 1lv
・迷彩 1lv
・隠密 1lv
・走破 4lv up!