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閑話~ゴブリン~

「何度もいっているが、我々はお前達に共存の道を提案しているんだ」


 とある一室に、疲れの混じった声が響いた。


「幸い、此方の被害は無い。エルフ側も誘拐事件以外に被害は無いし、本人達も無事だった。だから関係改善もそう難しくは無い。・・・おい、もう一度説明しろ」

「国民やエルフの感情を好転させる為、初期は労働力として働いていただきます。強制労働ではなく、衣食住は勿論、給与を用意します」

「ゆっくりと感情を好転させて、いずれは住民として受け入れる。帰る場所を無くしたんだ。・・・ここに来ないか?」


 その声の主に答える、もう一つの声。人間とは違う声帯から響き出される声。


「オ前達ノ言ッテイルコトハ理解シテイル。理解シタ上デノ拒絶ダ。・・・ト、何回モ言ッテイル」

「はぁ・・・」


 もうお分かりだろう。声の主はゴブリンキングだ。



 この部屋にはゴブリンキングと、人間側の各司令官とその補佐官が居た。やっている事は、ゴブリンキングの説得。内容はゴブリンの受け入れだった。

 もう帰る場所の無い、ゴブリン達の受け入れ。労働力として受け入れ、国民やエルフの感情を好転させる。そしていずれ、国民として受け入れる。それが街の守備隊の考えだった。

 一見、慈善的な考えに見えるだろう。家をなくした子等に手を差し伸べる聖職者の如き行い。が、良い話には裏があるよう、勿論、彼らにも考えはある。

 初期の労働。これは文字通りの労働であり、街の拡張整備は勿論、守備隊の労働力としても利用される。幾ら給与があるとはいえ、相場からしたら安い。格安で労働力を、それも大量に得られるチャンスだった。完全な慈悲の心からの考えではない。だが、ゴブリンにとっても悪い提案ではないと思われた。衣食住は保障されるし、安いとはいえ給与があるのだから。


 が、守備隊の予想とは違い、キングはこれを拒絶した。


 曰く、『我々ハゴブリンデアリ、人間デハ無イ』と。


 話は平行線のまま続く。キングの要求はゴブリン軍の解放であり、その対価として自らの身柄を差し出すと提案している。この提案も、守備隊にとっては悩ましい事だった。

 ただ開放すれば、またゴブリンが何かやらかさないとも限らない。彼らは他のゴブリンとは違い、少なくない知恵を持っているからだ。その知恵の根源はキングであり、そのキング自身が、自らの身柄を差し出すと言っているのだ。

 キングを抑えつつ、ゴブリンを開放すれば、指導者を失ったゴブリンは、時間は幾らかかかるだろうが、いずれ通常のゴブリンに成り下がると予想された。それもそれで問題があると思われたが、知恵があるままよりかは遥かにマシと考えられた。普通のゴブリンなら、殲滅が容易いからだった。


 キングの身柄の確保の有無はどちらにしろ、ゴブリン軍を解放すれば、面倒ごとがついて来る。守備隊としては、そんな面倒ごとは御免だった。その為、キングを説得し、労働力として受け入れようと考えたのだ。が、キングの答えは『NO』だったという訳だ。

 こうなると受け入れを諦め、全てを”処分”する案も出たが、死兵となるのは確実で、それはもっと困ると却下された。


「・・・一体何を考えている?ここから脱出でいるとでも思っているのか?それとも、彼らだけでも生きていけるとでも?」

「彼ラハ、生マレナガラノ”ゴブリン”ダ。”ゴブリン”トシテ生キルヨウニダケダ」

「このままだと、お前は拘束され続け、そして殺さねばならないんだぞ」

「戦イニ身ヲ置ク者、ソレ位ノ覚悟ハ当然ダロウ?」

「・・・はぁ」


 どうしようもない、というのが各司令官の総意だった。


「どうだ、もう良いだろう」


 総司令官の言葉が響く。総司令官はキングの提案を受け入れていた。初めは労働力にする、という考えだったが、途中からキングの提案を受け入れるようになった。


「労働力が手に入らないのは残念だが、彼らを管理する手間が省けるからなー」

「何を暢気なことを言っておられるのですか!街に被害が無かったとはいえ、相手は敵だったんです!」

「そうです!ただ逃がす訳には・・・」

「目的を見失わないように。私達の目的は街の防衛。その後は如何に街にとって利があるか、だ。労働力に出来ないなら開放する。処理する手間すら無駄である」

「しかし、連中が報復にくる可能性だった・・・」

「キングを拘束しておけば、問題ない」


 一見、総司令官以外は反対に見える。が、実際の所は選択肢は大体決まったようなものだった。そう、キングの提案を受け入れる事だった。


「・・・そうだ、一つお願いがある。彼と二人きりにして貰えないか?」

「総司令!それは危険です!」

「殺される危険性が」

「君たちも気づいているだろう?彼は馬鹿じゃない。私を殺した所で印象が悪くなり状況が悪化するだけだ。それに気づかない訳が無い、と」

「「・・・」」

「フハハハハ!中々、大胆ナ事ヲスルナ。貴様」

「勝てぬ相手に挑む無謀ほどではない」

「違イナイ」


 キングと総司令官。二人の間には、先ほどまで戦場にいた者達の空気は無かった。が、凡人には到底入る隙の無い、張り詰めた空気が存在していた。


「という訳だ。君たち、申し訳ないね」


 総司令官の有無を言わせぬ圧力に、司令官や補佐官は、黙って頷く他無かった。






「・・・さて、邪魔はいなくなった。これからは腹を割って話そうか」

「言ッテミロ。内容ニヨッテハ考エテヤル」

「お前さん・・・既にキングではないな?」

「ッ!・・・ホウ」


 張り詰めていた空気が一瞬で凍る。キング”だった者”からの重圧と化したプレッシャーが、総司令官へ降りかかる。


「だからと言って何かする訳ではない」

「・・・何ガ言イタイ」

「お前の考えている事を、助けてやろうと言っているのだ」

「・・・」

「考えている事は大体分かっている。お前は既にキングではない。キングはあの、ナイトクラスのゴブリンだろう」


「指揮系統を部下に、王位継承という形で委譲し、己をキングと偽り続け身柄を差し出す事で、知恵あるゴブリンの生存を成そうとしたんだろう?」

「・・・」

「良く出来ている。お前が既にキングではないと気づくのは至難だろう。事実、私も気づくのに遅れたし、私以外に気づいた様子のある者はいないからな」

「・・・」

「己を囮にする事で仲間を生かす。その為のトリックも巧妙でありつつもシンプルだ。本当に良く出来た作戦だな」


 キング”だった者”の表情は、見るからに驚きの表情が浮かんでいた。考えが見抜かれていた事に衝撃を感じたのだろう。だが、その表情は直ぐに消え、王の威厳ある表情へ戻る。


「・・・ソコマデ知ッテイナガラ、オ前ハ助ケルノカ?」

「あぁ。・・・こちらの条件を飲むならだ」

「フンッ。・・・ソノ条件トヤラヲ聞コウ」

「条件は全部で四つだ」


 一つ、今後一切この街を侵攻しないこと。

 二つ、関係を改善し、将来の貿易先となること。

 三つ、相互防衛に同意する事。

 四つ、これを契約書として残し、それに調印する事。


 その条件はとても軽かった。どれもこれも、出来ぬ事ではない。貿易先になることや、相互防衛に関して、ゴブリン側としては疑問な内容もあるが、出来ない内容ではなかった。

 またしても、キング”だった者”の顔に、驚きが浮かんだ。


「此方からの条件はこの四つだ」

「・・・ワカッタ。調印シヨウ」

「それは良かった。これで我々はいずれ、共に歩む事が――」

「ダガ」

「・・・だが?」

「俺ハ群レニハ戻ラナイトダケ言ッテオク」

「何?」


 今度は総司令官に驚きの表情が浮かんだのだった。

 それを見て、キング”だった者”は愉快そうに笑いながら言った。


「俺ハモウ王デハナイ。条約ノ内容ハ伝エヨウ。調印モサセヨウ。ダガ、俺ハ戻ラナイ」

「・・・どういう事だ?」

「何度モ言ワセルナ。俺ハモウ王デハナイノダ。今ノ俺ハ、”ただのゴブリン”。昔ノ生キ方ニ戻ル」


 彼は既に決意していた。己の権力、名誉、地位を全て部下に託し、”ただのゴブリン”になるいや、戻るのだと。


「・・・戻る、か」

「元々俺ハ王デハナイ。成ッテシマッタカラニハヤリ遂ゲタガ、俺ノ生キ方デハナイ」

「・・・どうするつもりだ」

「昔ハ旅ヲシテ回ッテイタ。マタ、旅ニデル」

「そうか・・・」


 総司令官は正直、悩んでいた。いや、正直相手の突然のカミングアウトに戸惑っていた。てっきり、そのままキングとして戻ると思っていたのだから。これは仕方ないとも言える。「王が王を辞め旅に出る」なんていう未来を予測できる筈がないのだから。


 結果から言うと、総司令官が選んだ答えは――


「・・・応援しよう。必要な物があれば、私の懐から用意しよう」


 応援だった。私情も多いにあるが、ここで良い関係を気づいておきたい、という考えもあった。一応、あった。

 ”ただのゴブリン”となったゴブリンは、


「ア、アァ。感謝スル」


 戸惑いながらも言葉を返した。応援されるとは、全く思っていなかったのだ。



PC死にソ

活動報告にも書きましたが、PCが本格的に死にそうです。買い換えたいぃ!


もし、PCが死んだらお別れとなる。心配するな、暫しの別れだ。

だから、今のうちに言っておこう!暫しの別れだ!いずれ戦場で!

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