戦車に相応しい報酬とは
光が鋼鉄の巨体に降り注ぐ。鈍色のその装甲は見る者を威圧し、その長く太い砲身は濃密な殺気を放つ。
その巨体が、動き出す。
「一旦離れるとしよう」
ヘッドホンを外し、キューポラから抜け出す砂狐。舞台に向かうのに邪魔になると判断したのだろう。
既にヘッドホンが外されているので、返事は出来ない。大人しく降車を待ち、降りたのを確認した後に前進する。
エンジンの唸り声と共に前進する。動き出した自分に、周りの人々が驚きと警戒の目を向けつつ、道を明ける。PC・NPC関係なく、その顔には興味津々の表情が浮かんでいた。
舞台へ続く道が開かれ、それに沿って進む。
『申し訳ないがパンツァー殿は舞台の前に移動していただきたい。その巨体と重量に舞台が耐えれるとは思えないのでな』
言葉と同時に、舞台の前が明るくなる。ついでに笑いも生まれた。とーぜんだ、耐えれるわきゃねー。六号になれば殆どの橋が渡れなくなり、軟弱な道を踏み砕く事になるからな。今現在の四号ならまだ問題ないが、あの舞台は間違いなく踏み抜くことだろう。
取り合えず、そこに行けば良い訳だな。舞台に登れないのは仕方ない。登ったら陥没するのは確実だからな。
目的の場所に到着した。その場で旋回し、前へ向き直る。そこから見る光景は、絶景に相応しいものだった。多くの人々が、自分を見ているのだから。
『討伐数上位4位、4名と1台の彼らに、大きな拍手を!』
多くの人々が自分に・・・いや、我々を称えてくれた。位置的に全体は微妙に見えないのだが、それでも多くの人々からの拍手を感じる事が出来た。
これは・・・良いものだ。とても良いものだ。己の成果を認めて貰える。褒めて貰える。称えてくれる。久しく味わっていない感触を思い出す。いかんなこれは。中毒性があり過ぎる。ゲーム廃人やのめり込む人が生まれるのも納得だ。褒めて貰いたくて、貢献したくて、認めて貰いたくて、という感情が生まれてしまうな。ヒロポンよりたちが悪いんじゃないか?と思うぐらいに快感だった。
でも、今暫くはこの快感に浸っていようと思う。こんな経験、この先あるかわからないからな。
『彼らには、賞金とそれぞれの順位に用意された報酬、そして称号と勲章を授与する』
おっと、進行しだした。よく聞いておかねば。
『まずは共通するもの、勲章”殲滅の担い手”だ』
『これは名前の通り、多くを殲滅し者に送られる称号である』
名前の通りだな。効果はなんだろうか?範囲攻撃にプラスとかだったら、自分は使えないかなぁ・・・。でもまぁ、こういうのは持っているだけで良い気分になれる。「自分は限定レアを持ってるんだぞ!」って感じで。
『次に賞金だ。下から順に50万、60万、70万、そして80万のリンを授与する』
は、80万だと!?中々の大金じゃないかそれは!いや、まともにお金使ってないから物価とかわからないんだけどさ。それでも80万は確実に大金だよな。・・・自分、特に欲しいものがないんだが、どうやって消費すれば良いんだろうか。回復アイテムも、武器も防具も装飾品も買う必要がないんだよな。お金は貯金するのも良いが、やはり使ってこそ、であるから、何かしらの使い道を考えねばな・・・。
『残る報酬と称号はそれぞれ別に用意されている』
なるほど、順位によって違うのか。果たして、自分の報酬は自分にとって使える物なのだろうか。
『一つ、ランダムボックス。これは”武器用”、”防具用”、”装飾品用”、”スキル用”、”アイテム用”の5つの種類が用意されている。この中から一つを選んでいただく。また、これは全ての表彰者に与えられる』
五種類のランダムボックスから一つ、か。武器と防具、装飾品は無いな。使い道がねぇ。スキルかアイテムの二択になるな。アイテムは今は必要に無いが、将来的には必要になる・・・か?となると、スキル用かな。
『二つ、スキルスロット1。名前の通りスキルスロットを1つ増設する。ランダムボックス同様、これも全ての表彰者に送られる。これらは後に決めて貰う』
スキルスロット!これは良いな。とても良いものだな、これは。今はスキルスロットが11個で、一つ足りない。マッピングが控えに入っているし、スロットは多いに越したことはないだろう。
『では、3位へ送られる報酬を発表する』
お、メインディッシュか。お楽しみだな。
『長剣”フェザーソード”、短剣”マン・ゴージュ”を授与する。剣を此方へ』
舞台に二人の使用人が登場する。その手には大小2の剣が握られており、ネット剣士の前にて止まった。
『フェザーソードは名前の通り軽い剣で、片手でも十分に振れるようにと考慮した。マン・ゴージュは防御用だな。今のより受け止め易いだろう』
ほー。ちゃんと考えられてるのか。あのネット剣士とやらのスタイルと一致している。これは、自分のも期待できる・・・かな?
『称号として、”二降りの剣士”の称号を与える。この双剣と称号に恥じぬよう、更なる成長を期待している』
『では、ネット剣士よ。貴殿にこの二振りを授与する』
この言葉と同時に、剣が差し出される。
「・・・感謝する」
フルフェイスヘルムの下から聞こえた渋い声、剣を受け止め握り締める腕。しっかりと握り締められた二振りが、右腰と背中に固定された。今現在、右腰に2、背中に2の、元からあった剣と新たなるの剣を装備したネット剣士。合計四振りを担いだその姿は、厨二的であるにも関わらず、余りにも様になっていた。称号は二降りだけれども。
『では、2位の報酬の授与へ移る』
次の報酬だ。
『2位は二名、その為、報酬も二つ用意されている』
そうなるだろうな。一つだけにする訳にはいかないし。
『彼女等にも武器を・・・と思ったのだが、諸事情によりそれはできない。ので、彼女等には防具を用意した』
諸事情・・・?気にしても仕方ないか。果たして、防具の内容はどのようなものか。
『将来的に、銃は大量に量産され、剣に成り代わる事だろう。現に、我々は銃の開発をしている』
ほーう?銃の開発とな?
『そして、それに対抗する為の防具も、同時進行で開発を行っているのだ』
それはそうだろう。あらゆる防具は、攻撃から身を守るために生まれたのだから。矛が鋭く重くなれば、盾は厚く大きくなるものなのだから。
『今回は、その防具の試作品、後の量産型プロトタイプを用意した。品質及び安定性に関しては保障する』
なるほどなるほど!対弾防御仕様の防具かぁ!それは良いものだ!
舞台にチョッキが運び出される。それはとても分厚い。ポーチやポケットが無いだけで、それは完全に防弾チョッキだった。服の下、もしくは上に着込む事が出来るように、といった配慮だろうか。鎖帷子のように。
『名前は”対弾用装甲チョッキ”だ。装甲とついているが、そんなに重くないから安心して欲しい』
『魔法使いに魔術師。魔力を利用する者達には、如何に効率的に魔力を取り入れ、それを無駄なく利用するかが、継戦時間と火力を大きく左右させるであろう』
そりゃあそうだ。軍事でも、如何に銃弾と燃料を無駄にしないか。無駄なくそれを敵に投射することが出来るか。如何に無駄を省き、そのリソースで最大限の戦果を叩き出すかが肝心という訳だ。
『そして、様々な攻撃に耐える為の防御力も備える必要がある。その為、この防具には防御用の魔術を組み込んである』
舞台にローブと魔女帽子が運び出された。魔法使いといえばローブに帽子なのだろうな。それは派手ではない、黒を貴重としたものだ。ただ、学生服にも見える。どうやら、ローブの下にも服があって、それが制服みたいなデザインなようだ。・・・某ベストセラーなSF小説みたいな感じか。
『名前は”魔道補助ローブ”、”魔道補助キャップ”となる。試作故、直喩的で申し訳ない』
『称号は”魔弾の射手”と魔法の申し子”を与える』
『では、ショーシャ殿とマナ殿』
「ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
メイド服風ドレス+チョッキと、制服+ローブ&帽子の二人の少女。・・・まぁ、ありじゃないか?君たち。お嬢様と従者に見えなくも無い。これは需要があるな、確実に。
次は、1位の方だ。
『1位の報酬へと移行する』
1位も魔法使いだったか。名前は確か、”長老”。
『長老殿には、より魔力の精密な運用が可能になる杖を用意した。威力が上がったりなどはしないが、今まで以上に無駄なく、精密に、効率よく魔法を扱えるようになることだろう』
ほー。”長老”殿の魔法運用は、”巧妙であり、無駄が無い。派手でない故に美しい”、だったな。とことん無駄を省くことで戦いを有利に進めるのだろうな。
『名前は”精密特化型長杖”。シンプルな名前だろう?因みにこれも試作型だ。これも暴走なんてしないので、安心して欲しい』
暴走とかやめて頂きたい。まぁ、自分が貰う訳でもないし、ちゃんと保障されてるから気にしなくても良いか。
『称号は”魔に長ける者”とする、長老殿にはピッタリだろう』
確かにな。長ける者、とてもピッタリじゃないか。
『では、長老殿』
「ほっほっほ。これは良い物を貰ったわい」
1位の授与が終わった。
次は自分か。
『最後に、特位への授与へと移る・・・としたいのだが』
おや?
『見ての通り、彼はその肉体自体が武器であり防具だ。剣も盾も、彼には無用だろう』
そりゃあそうだ。正直何が貰えるのか、心配だったりする。
『熟考に熟考を重ねた末に、我々が出した結論は・・・』
なんだ?武器や防具は無いだろう。となると、アイテムか、スキルか。もしかしたら何かしらの権限とかかな?
『パンツァー殿には、”アトリエ”を用意することにした』
・・・アトリエ?
お久しぶりです皆さん、匿名さんです。
いやはや、2週間?位あけてしまいました申し訳ありません。
色々と用事が重なってしまいまして、更新できませんでした。
これからまた、週末更新ができると”思います”。ハイ、何も用事が入らなければです。・・・何も無い事を祈る。




