戦勝パーティ
観光(お手伝い)にて時間は十分潰れた。さぁ、本来の目的である、戦勝パーティの時間だ。これを忘れてはいけない。
時刻は12時。始まりの街中央広場はお祭り騒ぎとなり、人々が溢れる。館も今日だけは特別のようで、会場となる庭園には、多くの人々で溢れかえっている。
その中に、正に場違いな存在がある。
『私だ』
広い庭園の一角を占領する戦車。そんなものが存在すれば、当然の如く注目の的になる。NPC・PC問わずに、だ。
だがまぁ、近づきがたいのだろう。今の所誰一人一定距離から近づいてこない。チラチラと、もしくは凝視しながら、他の出席者との会話を楽しむのだ。
この、局所的に発生した異空間の中から、自分はパーティを傍観する。この体では、会話も食事も満足に出来ないからな。壁の花ならぬ、庭の置物に徹している状態だ。・・・まぁ、目立ちすぎは否めないのだけれども。
この異質な空間からは、パーティの様子が良く見える。辺りには誰一人近づいてこないし、車高が人間を優に上回ることから、視界を物理的に遮る物はないし、精神的にも別の位置から見れる。
パーティに出席している人種は、大きく分けて2つに分けられるだろう。
1つ、ドレスやスーツなどの美しい衣装を纏った、恐らくNPCの上流階級と思われる者たち。
2つ、頑張ったが上手くいかなかった感、もしくは頑張りすらしなかった感が溢れる、恐らくPCだと思われる者たち。
大体はこの2つだろう。PCは、この短期間に礼装の調達ができなかったのだろうな。それでも、一部のプレイヤーは失礼にならないように、といった努力が伺える。が、その努力が微塵も感じられない、まんま戦闘服なプレイヤーも存在した。・・・そのプレイヤーの代表は自分だがな!全く努力してないし、それどころか追加装甲すら纏ってるからな!
そんな両者が、パーティでは入り混じり、楽しげにしている。笑顔の下では何を考えているかはわからないがな。単純に「仲良くなりたい」とか、「祝いたい」というのはいるだろうが少数だろう。大体は「関係を作りたい」という感情が多いだろう。
事実、NPCとPCが、入り混じって会話をするのを良く見かけた。内容まではわからないが、皆良い笑顔だったので、良好な関係を築けたのだろう。
”貴族と冒険者の癒着”、と書けば悪印象を抱くが、実際の所は雇い雇われの関係が精々だろう。
貴族「このアイテム持ってきて」
冒険者「うはwwwおkwww」
的な関係。おーはばに略したが、大体こんな感じだと思う。
暇すぎて、人間観察をしている自分だが、今の所本当にする事が無い。インテレッセ嬢は、パーティの主役級だから、ここにはいない。彼女はエルフの代表だから、当然といえば当然だ。今は街長、フリードリヒ街長の所で、挨拶に来るNPC達とパーティを楽しんでいるだろう。
自分?自分は警戒されてるから楽しむも糞もねーよ。トホホ。
「やぁパンツァー殿」
おや?・・・これはこれは!砂狐隊長ではないか!後方には、他の隊員達も見える。何故彼がここに・・・?取り合えず、ヘッドホンを用意しなくてはな。キューポラを開放する。これだけで分かって貰えるだろう。
「そういえば、ヘッドホンが無いと会話できなかったな。失礼するぞ・・・」
素早い動きで登り、キューポラから車内へ入る砂狐。直ぐにヘッドホンを見つけ、それを装着しつつキューポラから上半身を乗り出す。車内は暑いからな。戦闘中でなければ、サウナの如く蒸し暑い車内にはいたくないだろう。
「テストテスト。パンツァー、こちら砂狐。聞こえるか?送れ」
『砂狐殿、こちらパンツァー。聞こえるぞ』
「よかった。問題なく会話できるな」
うむ。では会話といこう。
『砂狐殿、貴殿等もこのパーティに出席するなら言ってくれれば良いものを』
「ハハハッ。ちょっとしたドッキリだよ。パンツァー殿。どうだ?驚いたかい?」
『大いに!何故貴殿等がいるかと驚いたよ。いやしかし、丁度良かった』
「なにかあったのかね?」
『あぁあったとも。誰一人として、近づいてこないのでな、暇だったのだ』
「それは・・・ご愁傷様だな」
『そうだとも!とても暇だったのだ。良い所にきてくれた』
「私のほうも、大体の挨拶周りを終えてきた所だ。とことん付き合おう」
気がつくと、他の隊員が直ぐそばまで来ていた。門であった時のように、規律された空気はなく、キラキラとした目で自分を見ていた。
「なんだこの四号は!」
「いいなぁこれは」
「ここここ、こいつは!」
「知っているのかゲルマン!」
「これはVorpanzer!突撃戦車として装甲を強化した、物凄く希少な四号戦車なんだ!」
「な、なんだってー!」
様々な角度から、自分を眺める隊員達であった。うん、似たような趣味を持つ身としては、納得がいくし逆の立場なら同じことしてる。こちらとしても、満更でもないので放置する。
『やはり、この四号を見るとこうなるか』
「・・・だろうなぁ。私も、この型は初めて見るから少し興奮しているよ。なんという型なんだ?」
『実は、これはオリジナルに近くてな。Vorpanzerの追加装甲を装備したF2型、という妄想を形にしたものだ』
「Vorpanzerと、F2型のミックス・・・Vorpanzerというのは知らないが、中々にロマンだ」
『そうだろうそうだろ』
無理の無い改造、無理の無い専用機。実に良い。極端に改造された物やワンオフ機も嫌いではないが、やはり改造と専用機ってのは良いものだ。自分だけってのがいいな。専用機だが、元は他と変わらないっていう点もナイスな点だ。扱う人に合わせて操縦系の位置や感度が調整されていたり、作戦に合わせた小改造を施したり。考えるだけで楽しいものだ。
「皆喜んでいるようだ・・・」
『良い事だ。自分も悪い気はしない』
いつの間にか、自分の周りは多くの人(類は友を呼ぶ)に囲まれていた。この賑やかなパーティの、局所的無音地帯は、他とは違う賑やかで染まった。
実際、自分を横から眺める3人組の会話が聞こえてくる。
「MP40が欲しくなるな」
「ペーペーシャ以外ありえない」
「は?量産性に優れるステンガンだろ」
「「「貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ」」」
「実に賑やかだ」
『放っておいていいのかよ』
でも、賑やかなのは本当だ。こんな空気は久しく感じていないなぁ。
「それはそうと、心は決まったかね?」
『勿論だとも。喜んで仲間に入ろう。色々と条件はあるがな』
「条件?」
『自分が望む未来は、この街に産業革命を起こし、国家レベルでの武装化。そして機甲部隊の編成だ』
「実に大きく出たな。だが、考えていることは同じなようだ」
『それはいい!実に良い!喜んで協力しよう』
「ハハハッ。我々は上手く行きそうだ」
将来どちらかが裏切りそうな口調だな。そんな事はないと良いのだが。まぁ無いだろう。最終的な敵は他サーバーな訳だし。
『お集まりの皆さん。本日は戦勝記念パーティにようこそいらっしゃった』
「なにやら始まるようだ」
『貢献者の表彰とかだろうな』
庭に設けられた舞台には、この街の長、フリードリヒ・ヴィクトリア街長が見える。手にはマイクのような物が握られている。それが気になって音の出所を調べてみたが、スピーカーのようなものは無く、音はフリードリヒから直接聞こえる。うーむ、魔法具?的な何かだろうか。ここはファンタジーの世界だからな。
『これより、先の戦闘にて戦果を挙げた冒険者たちを表彰しよう!』
やはり、表彰が始まるようだ。
『討伐数、戦闘貢献値、支援貢献値、指揮貢献値、情報貢献値の5分野にて活躍した冒険者トップ3、合計15の冒険者を表彰する』
15名・・・いや、15、か。パーティに出席している冒険者の数と比べると少ない・・・?
『また、集団や組織にて戦果を挙げた方々の場合は、代表者を一人としてカウントする。ので、同じ集団・組織に所属する冒険者がトップを占める事はない』
なるほど、そういうシステムか。となると、指揮貢献値に関しては砂狐殿は確定かな?情報はあの誤爆娘だろうか。
討伐数は絶対に自分だがな?
『では、始めに討伐数の部門を発表したい・・・のだが、ここで一つ報告がある』
ん?
『従来通り、3位3人を表彰したいのだが、1つ文字通り桁が違う戦果がありました。その為、3位、2位、1位、そして特例の特位を用意した』
街長の言葉に、周囲がザワザワと騒がしくなる。が、冒険者や軍人と思われるNPCは平静と・・・というより、「やっぱりか」といった感じの表情が浮かんでいた。
あ、これは自分のせいですね、わかります。
『では、表彰を始める』
『3位!薙ぎ払い切り払う。そのに裂かれた敵は百を上回る!たった一人で虐殺した二刀流”ネット剣士”!』
名前が発表されると同時に、会場の一角に光の筋が降り注ぐ。恐らくそこに、3位のネ・・・ネット・・・
『ネット剣士・・・クククッ、が、我慢でん・・・フフフッ』
「ハッハッハッ。ネタ枠かこれは?」
突っ込み所満載の名前に、冒険者達に笑いが生まれる。勿論NPCは何が面白いのかが分かっていない様子。
『ネット剣士よ、舞台へ』
光の筋が動き出した。そこにいたのは、フルフェイスヘルムとプレートアーマーが特徴的な騎士然とした見た目だったのが更に笑いを生む。ただ、重い見た目ではない。要所こそプレートアーマーそのものだが、それ以外は軽装だった。動ける騎士的な感じだろうか。因みにマントも装備していた。ボロボロだったが、とても似合っていた。
彼が舞台に上ると、表彰が進行する。
『2位!その4つの手から放たれるは、銃弾と魔弾!圧倒的な制圧力にて多くを殲滅した二人の少女!”ショーシャ”と”マナ”!』
また、会場に光の筋が降り注ぐ。今回は二人のようだ。・・・銃弾?ショーシャ?・・・関連性は無いと考えようか。
『彼女等のように、複数での表彰の判断基準は、戦果を人数で割った結果を一人当たりの戦果として扱っている。彼女等もの撃破数も百を上回る』
メイド服風の女の子と、とんがり帽子にマントの如何にも魔女っ娘の二人組。
メイド服は若干改造されており、ドレスに近いデザインになっていた。因みにロングスカートだった。彼女は分かっている。
魔女っ娘は兎に角黒だった。とんがり帽子やマント、スカートは黒で、シャツなどの白がアクセントのように映えていた。
『1位!その技は巧妙であり、無駄が無い。派手でない故に美しい。”長老”』
先の魔女っ娘と同じく、如何にも魔法使いですといった風貌の人物だった。黒ではなく茶色で統一されたそのローブ、シルクハット、ローブの下に見えるスーツは、先の魔法っ娘とは違い、老練な雰囲気を醸し出していた。
舞台に4人の冒険者が上がった。あとは、特位のみである。
『特位!余りにも、余りにも多い討伐数。その数実に3000!圧倒的な殲滅力の鉄の化け物!”パンツァー”!』
自分の名が呼ばれた。
ショーシャ!ショーシャ!ショーシャ!ショーシャ!
はい、匿名です。先週はインフルを発症してましたハイ。活動報告にもありますね。
くっそ辛かった・・・。てかテスト目前なのになんでこんな時に・・・。
明日からは大会に向けての練習があるし、最近忙しすぎー。
19日目夕方




