ゴブリンキングの大攻勢その6 最終局面
突撃したPC達は全滅し、主戦場は城壁へと移った。ゴブリンの被害は拡大し、その数は半数の4000辺りまで低下した。
勿論、これだけの戦果を城壁の戦力と突撃したPC達が出した訳ではない。というか、戦果のうち半分、つまり大体3000は鉄の化け物、つまりはパンツァーの戦果だった。
一応、PCにも大量撃破を成している者はいる。だが、それらは大体100単位である。パンツァーのように1000単位では断じてない。
パンツァーがこれだけの戦果を挙げることが出来たのは、やはり戦車だからだろう。戦車は元々、対人戦を目的にされているだけあって、ゴブリンのようなソフトターゲットにはとても強いのだ。しかも、戦車は戦車でも四号戦車である。歩兵支援を目的とした7.5cm砲から撃ちだされる榴弾は、ゴブリンにとっては悪魔のような組み合わせであった。
互いの前線はどんどん近づいていき、今やゴブリンは城壁に張り付き、城壁側はそれに油を振り掛けている。熱々の油を振り掛けられたゴブリンは焼け死ぬが、その死体を盾にゴブリンは無理やりに進んでいく。堀は既にゴブリンの死体で橋ができており、あとは城壁を登るだけである。
登るのを阻止せんと、次は火矢が投入された。油を浴びたゴブリン達は、忽ち火炎に包まれ、その数を減らしていく。が、それでも進撃は止まらない。死ねば死ぬだけ、橋は強固になり城壁へ続く坂が大きくなっていく。
ゴブリン達には遠距離攻撃方法が少ない為、幸い城壁側には死者や被害はまだ出ていないが、それも時間の問題であった。このままでは、城壁に乗り込まれ、なし崩し的に白兵戦になってしまう。どうにかしたいがどうにもならない。仕方なく、矢が尽きた部隊から白兵戦の準備をさせているのであった。
PCもそれは同じで、どうにかしようと魔法職が精一杯の魔法を叩き込み、橋と坂を崩そうとするが、威力不足でありビクともしない。仕方なく此方も白兵戦の準備をするのであった。
どの顔にも、不安が浮かび始めた。NPCは勿論のこと、PCにもその色が浮かぶ。NPCからしたら死の恐怖故の表情で。PCからしたら、NPCという”人”の死に対する恐怖である。PC達は、共に戦うNPCを、いつの間にか人として意識していたからである。
どうにかしなければならない。だがどうにもならない。そんな恐怖に耐えながら、彼ら彼女らは戦い続ける。
が、それは杞憂であった。確かに、魔法や油、火矢では、壊すには威力不足かもしれない。それだけぎっしりと死体が敷き詰まっているのだ。だが、それを破壊しうるだけの威力を持った存在が、この戦場にはいるのだから。
気が付けば、ちょっとした丘の頂上にいた。丘といってもそんなに高くない。平地を望む事が出来るだけの、なだらかな丘だ。その上を確保する事に成功した。
昔から、上を取った側が有利と言われている。それに習い、この高地より撃ち下ろす形で、ゴブリンを攻撃し続ける。いやはや、見やすい当てやすいで良い所だな。・・・相手に戦車か対戦車兵器があれば集中砲火待ったなし、なんだけどね。
さーて、どこかに良い具合で固まっている敵は・・・ん?ゴブリン、既に城壁に取り付いてるのか。んー堀も埋まってるし、城壁になんか坂みたいのができてるな。・・・あれ、全部死体か。このままだと乗り込まれるのも時間の問題か。
・・・よし、吹き飛ばそう。爆発したら城壁にもそれなりの被害がでるだろうから、徹甲弾、AP弾を使うか。遠距離なら榴弾より低伸するから、当てやすいし。
照準開始。距離は大体・・・800m位か?照準器を動かし、800mに合わせる。今まではテキトーに榴弾をばら撒いていただけだが、今回は精密性が問われるからな。しっかり狙わねばならない。
一応、同軸機銃をうち、大体の距離感を掴む。その後、主砲を発射した。
・・・手前か。少し上げて、射撃。
・・・もう少し手前。やや上げて、射撃。
命中、上手い具合に橋の中央に放り込めた。因みに、徹甲弾は、装甲を貫通させる為の砲弾の為、炸薬は榴弾に比べてとても少ない。だが、無い訳ではない。だから、死体でぎっちり固めた橋の中に飛び込んだ徹甲弾が奥深くで爆発すれば、それなりの威力になるのは当然だ。
目に見えて、抉れる橋と坂。それに追加の攻撃を行う。1発では十分ではない。10発は撃ち込む。徹甲弾は40発搭載しており、残りの40発は榴弾で、今回の戦いは榴弾ばかり使っているから、徹甲弾は残弾を気にせず撃ちまくれる。だから、兎に角撃つ。撃つべし撃つべし。
12発目で、射撃を止める。十分な打撃だろう。満足した。さて、殲滅を続けるとしようか。
突然、橋と坂が吹き飛んだ。何かが高速で飛来したかと思うと、橋に突き刺さり、爆発したのだ。その爆発で橋は抉れ、坂は崩れた。それが、あと11回繰り返された。それが飛来する度に橋は抉れ、坂は崩れる。もはや橋とも坂とも言えない状態になるまで破壊され、12発目の爆発で、完全に橋は破壊された。
その光景を、NPCとPC達は呆然とした表情で眺めていた。当然だ、いきなり何かが飛んできて、爆発するだけでも十分驚愕なのに、それが何度も続いて橋を壊したのだから。
その混乱からいち早く直ぐ立ち直ったそれぞれの指揮階級が、未だに呆然とし続ける部下達を戦闘に復帰させていく。彼らの顔には、もう、恐怖の色は無かった。
この砲撃の際に、ゴブリンが更に死亡している。橋を渡り坂を越える為に、無数のゴブリンがその一転に集中していた為だ。その結果、1000近いゴブリンが、たった12発の”徹甲弾”によって殺傷された。
死に方は幾つもある。爆発で直接死んだ者や、不幸にも飛んでくる徹甲弾が直撃してミンチになった者。爆発で吹き飛ばされ。深い堀に落ちた者。壁や地面に強打された者、など等。
この戦果は、間違いなく、戦局を大きく動かしただろう。というか、パンツァーの戦果は、間違いなくPC内トップだろう。このような、無数の雑魚相手の戦闘は、戦車にとって絶好の狩場なのだから、当然といえば当然であるが。
ゴブリンキングは機嫌が良かった。想定通りに計画が進んでいるからだ。鉄の化け物なんていうイレギュラーもあったが、許容範囲内に収まっている。
我が軍の被害は順調であり、ナイトの奴も頑張っている。後は、タイミングを見計らうだけだった。
それよりも――
「ふんっ!」
振り払われる剣を、右手だけで保持した大剣の側面で受け止める。
「せい!」
動きが止まった隙を狙って、顔へ突き出される槍。それの柄を左手で掴み取り、攻撃を無力化する。ここから折りにいきたいが、何度も試して失敗している為、振り回して吹き飛ばす。大剣を払い剣を弾く。空いた左手を剣の腹へ置き、正面へ防御体制で構える。
「どっこいしょぉお!」
盾を正面に構え、突進してくるその男。それを大剣で受け止め、左手の力を抜いて剣を傾ける。男は傾いた剣に沿って流された。
「ドウシタ!マダ一撃モ貰ッテイナイゾ!」
「そういうお前もまだ当てていないだろう」
「お互い様です」
「でも俺らのほうが数多いからなぁ」
「黙ってろケンロウ」
未だに、この3人と1体の戦いは続いていた。互いにまだ一撃も与えていない。キングの攻撃は体格差からくる小柄と俊敏差で回避され、3人組の攻撃はキングの実力によって全て無力化されていた。
「中々楽シカッタゾ、オ前ラトノ戦イハ」
「奇遇だな、俺もだ」
「私はハラハラですけどね」
「んー、どうなんだろう」
敵同士だけれども、彼らは互いに相手の実力を認め合う程度には、通じ合っていた。よくある、好敵手という奴であろうか、それともライバル、強敵であろうか。何時までも、何時までもこの戦いが続くように思える程、彼らは戦いの中で通じ合った。だけれども、この戦いにも転機を迎える。
「ソロソロ終ワリニシヨウ」
キングの様子が変わり始める。元々、ゴブリンとしては大柄で、170cmはあったキング。その体が、膨張したように見えた。
そして、赤いオーラのようなものが、漂い始めた。
「・・・不味いな」
「明らかに私たちより強くないですか?」
「おい、あれ防げる自信ないぞ」
変化を続けるゴブリンキング。といっても、体がやや膨張し、オーラがより濃くなるだけである。それでも、キングの戦闘力が格段に向上したと分かる。分かってしまう。それ程露骨だった。
「待ってやるほど俺は優しくないぞ」
勿論そんな隙だらけな状態を見逃す筈が無い。変身中の攻撃はNGなどという下らないお約束なんて守る訳が無い。
だが――
「動ケナイトデモ思ッタカ?」
「何ッ」
変身中は動けない、というお約束も守らなくていいのだ。剣戟の刺突を、左の手の平で”受け止める”。その刃は、刺さらなかった。
「力不足ダ!出直シテコイ!」
「グァッ!?」
右手に持った大剣を、右から左へ振り払う。直撃を受けた剣戟はそのまま吹き飛ばされてしまう。
「剣戟!?」
「やばい!」
左へ流れた大剣。それを両手で握りなおし、踏み込みながら右へ切り返す。狙いは蜻蛉である。が、その攻撃はケンロウのタワーシールドによって防がれる。が、
「おもっ!」
剣の威力を抑えることが出来ず、盾ごと吹き飛ばされ、倒れこそしなかったが、後ろにいた蜻蛉にぶつかる。
「不味い!」
「しくったぁ!」
右へ切り返した大剣を担いで更に踏み込む。前進の勢いそのままに、剣を縦に振り下ろした。単純な動き故に、キングの身体能力を遺憾なく発揮される攻撃だった。二人は避ける事ができない。ケンロウは何とか盾を構え直すが、直撃すれば叩き伏せられるだろう。
「まだだ!」
しかし、そうはならない。吹き飛ばされた剣戟が間に割り込み、大剣の側面にシュテッヒを叩きつける。その一撃によって、大剣の軌道が僅かながらズレた。その一撃を、ケンロウはズレた方向に盾を傾けることで受け流す。その間に蜻蛉はキングの右側面へ移動しつつ槍を足元へ振り払うが、強靭な筋肉に阻まれ、十分な傷が付かない。
受け流されたキングは、剣が地面に減り込む寸前で止めつつ、踏み込みの勢いを維持したまま、ショルダータックルを繰り出した。その進路上には割り込んだ剣戟と、盾を構えるケンロウがいる。
剣戟は後ろへ軽くステップする事で避けたが、ケンロウは攻撃を正面から受け止めた。だが、ただ受け止めたのではなく、ショルダータックルの威力を逃がす為、後ろに滑りながら受け止めた。
タックルで動けないキングを狙い、剣戟と蜻蛉が攻撃に移る。右後方からは蜻蛉が右足首を、左後方からは剣戟が左足首を切り払う。蜻蛉はまたしても弾かれる。が、剣戟はそのアキレス腱を切り裂くことに成功した。赤く発光するシュテッヒ。その鋭い刃が、アキレス腱を焼きながら切り裂いたのだ。
「ヌゥウ!」
ただではやられないキングである。ショルダータックルを終える前に、その力のベクトルを突進から回転に転用し、大剣を振り払う。足元という低所を狙う為、低い姿勢を取りながら攻撃した剣戟は、この攻撃を更に屈む事で難なく避けた。だが、槍という攻撃範囲の長い武器での攻撃だった為、そのままの姿勢で攻撃していた蜻蛉は、この攻撃を避けることができなかった。
「くう!?」
そのまま吹き飛ばされるが、空中で体勢を立て直し、危なげなく着地する。
「フン!俺ニ傷ヲツケルトハ、中々ヤルデハナイカ!」
「此方の体力を大幅に削っといて言う事はそれか!」
「うぅ、強者の余裕って奴ですか・・・」
「ガードしててこのダメージかよ!」
剣戟達の動きは、とても即席のパーティとは思えない程のものであった。実際、誰も傷を付ける事ができなかったゴブリンキングを相手に、一太刀報いた事からもその実力が伺える。
けれども、ゴブリンキングは強かった。アキレス腱を切られたとは思えない程の動きを見せるのだから。
どちらが優位かは、誰が見ても明白だろう。
「デハ、終ワラストシ――」
ゴブリンキングが動く、その一瞬先に、その声が戦場に響いた。
『ゴブリンキングに告げる。降伏せよ。我々にはそれを受け入れる準備が整っている』
「なに?」
「・・・降伏ですか」
「えーと?」
『繰り返す。降伏せよ。我々にはそれを受け入れる準備がある。残存兵も捕虜として扱おう』
それは、降伏勧告であった。
パンツァー 四号戦車D型 lv 19 up!
状態 車外装備品紛失
攻撃力 7.5cm kwk 38 L24 戦車砲
7.92mm MG34機関銃×2(同軸機銃・車載機銃
砲塔装甲 正面30mm
側面20mm
背面20mm
上面10mm
車体装甲 正面30mm
側面20mm
背面20mm
上面12mm
速度 40km/h 300ps
重量 20.00t
称号
・陸戦の王者
・エルフの楯
・ワールドクエスト発見者
・貢献した者
・新型受領
スキル
・目星 6lv
・拡大眼 7lv up!
・熱源探知 7lv
・音源探知 5lv
・火魔法 2lv
・風魔法 3lv
・放送 2lv
・迷彩 3lv
・隠密 5lv
・不整地走破 6lv up!
控え
・マッピング 8lv
18日目昼




