ゴブリンキングの大攻勢その2 陸戦の王者”戦車”
時は来た
森の中を進む。あと少しだが、その少しが長く感じる。
「・・・ん?」
このまま進めば裏を取れる。慌てず急ぐ。エンジンに負担が掛かりすぎないように気を配り、どちらかのサスペンションに負担が集中しないように進む。こんな時に履帯が外れるなんて絶対に避けたい。
「止まって」
前進を中断する。ここでも負担がかからないように、起動輪を空転させてゆっくり止まる。暫くして停車する。
さて、止まったは良いが、一体何があったんだ?理由があるからだろうけども・・・。
「・・・戦闘が始まってる!」
何だと!?つまり、ゴブリンの攻勢が始まったという事か!?
「・・・ゴブリンの声の大きさは変わってないから、移動してない。・・・という事はっ」
街側が攻めたのか!?ゴブリンの位置が変ってないのに戦闘が起こるという事は、街側が攻めた以外に考えられない。
攻めたという事は・・・街側にはそれなりの余裕があるのか?打って出て、敵を倒せるだけの余裕、つまり戦力があるという事か?
「・・・急ごう!」
そうだな、あとで考えるとしよう!
起動輪と変速機の歯車を噛み合わせる。20tの重量を、300馬力の馬鹿力が前へ押し出す。
余裕があるにしろ、無いにしろ、それを支援しない理由は無い。急いで現場に急行しなくては。
「ぐぁっ!」
「ぎゃあ!?」
戦闘は、プレイヤー側の優勢・・・では進まなかった。むしろ逆、ゴブリン側の優勢で進んだ。
当然だが、攻勢に出たプレイヤーは、軍事訓練なんて受けていない。勿論作戦なんてものも無い。ただただ、よーいドンの合図で全員突撃し、それぞれで敵を倒していくという、単純過ぎる内容だった。
対し、ゴブリンは違った。戦闘力こそゴブリンは低い。だが、現実の軍よりかはお粗末とはいえ、軍事訓練が施されている。その施された軍事訓練の内の、”指令官の命令に従う”、”作戦の計画し遂行する”、というものが、この戦いにて発揮された。
ゴブリンキングが計画した作戦。これも単純な内容だった。簡単に言うならば、ゴブリンリッチによる”強力な範囲魔法による攻撃”の後、これまたゴブリンリッチによる”強化魔法”を受けた50の精鋭が、ゴブリンキングに率いられて突撃、プレイヤー軍へ切り込んだのだ。
プレイヤーは威力な広範囲攻撃によって消耗した所に、精鋭50+1(ゴブリンキング)が突っ込んだ事で混乱に陥る。それぞれがバラバラに動き始めた所で、ゴブリンキングの部隊が、プレイヤー軍を摘み取るように、少しずつ大群から切り取るように機動しだした。大軍から切り離された少数は、ゴブリンキングの後から攻めてきたゴブリンの大軍によって各個に包囲、殲滅されていったのだ。
撤退路を潰され、完全に包囲されたプレイヤーはどうしようもなかった。包囲されたのが大軍ならまだやりようがあっただろう。だが、包囲されたのは少数であり、ゴブリンの雪崩れのような連撃に、凄まじい消耗の末、キルされていった。
その様は、上空を飛行するプレイヤーには良く見えていた。
「ま、まずいよこれ・・・」
上空からは、大体4000名程のプレイヤーが、ゴブリンによって分断され、それが後続のゴブリンによって飲み込まれていく様がとっても良く見えた。ゴブリンキングが手際よく相手を分断し、それをナイトが指揮するゴブリン軍によって磨り潰していくのだ。ゴブリンキングは相当に戦上手らしく、分断された部隊は多過ぎず、だけれども少な過ぎない、相手の戦力を効率良く削る量だった。
「全域に攻撃して部隊を混乱させ、そこに一点突破をかけて、後ろからの支援を受けつつ相手を分断、孤立後に包囲殲滅・・・」
彼女から見たら、それは完全に負け戦だった。彼女も、心の何処かで思っていたのだろう、「所詮はゴブリンだ」と。だが、現実は全く持って違ったのだ。
「あ、相手は馬鹿じゃないっ!完全な軍隊だ!」
けれども、彼女は慌てなかった。負け戦とは言っても、負けてるのは突撃した4000のプレイヤーだけだ。街には1000のプレイヤーと2000のNPC軍が待ち構えている。城壁都市の名に恥じぬ、高さ10mの城壁に、同じく深さ10mの堀がある。これを突破するのは困難で、更にその城壁にて防衛を行う2000のNPC兵は、始まりの街を守る為の常備戦力であり、日々訓練に訓練を重ねてきた精強である。負けないだけの戦力と条件が、始まりの街にはあった。
「兎に角、相手は油断ならないという事は伝えないと・・・」
それでも、警戒に足る相手なのは確かである。ユモは、己が得た情報を送信し、考える。やはり、何もしないで観測だけを続けるのは勿体無いだろうと。よし、じゃあ攻撃しよう!と。
インベントリから、パチンコ玉のような鉄球が”250個”包まれた布を取り出す。それ両手で保持し、降下に入る。その角度はかなりのもので、70度程であった。その様は、正しく急降下爆撃!それも、通常の急降下爆撃より90度に近かったのだ。普通なら50度~60度、それを上回る70度なのだ、知っている者が見たならその角度に驚いた事だろう。
急降下により、正確に目標を捉える。しかし、眼下は全てがゴブリン、ゴブリン、ゴブリンなのだ。実際の所は水平爆撃よろしく、適当にポイッすれば当たるのだ。急降下に拘るのは、単純にユモの趣味である。
「700・・・600・・・500っ・・・400!」
目測高度400、投下!250個のパチンコ玉は引力に引かれて瞬く間に加速し・・・空中にて四散した。パチンコを包んでいた布が解け、250個がバラバラに飛び散る。
「私特性のなんちゃってAB250、食らいなさい!」
拡散したパチンコ玉は、無数のゴブリンを殺傷した。
平原が見え始めた!あと少しで森を抜ける!
「・・・血、血の臭いがする」
既にかなりの血が流れたらしい。どちらかが大被害を受けたのか、それとも両者同じ位の被害がでたのか。・・・当然ゴブリン側が大被害なのを望むが、あのゴブリン共はかなりのやり手だ。しっかり計画を組み、それを指揮する者達の命令に従っている。質は兎も角、完全に軍である。それにプレイヤーが勝てるだろうか・・・。
それも直ぐ判る事か。これから目視するのだ、見てから考えるとしよう。
そして、平原目の前まで辿り着いた。ゴブリンにばれない様、迷彩や隠密を発動させつつ、森を抜ける一歩手前にて停車した。
「・・・負けてる」
やはり、押されているか。
ゴブリンは背丈が低い。そして自分の視点の位置は高いから、よく見えた。プレイヤー達は、それぞれに分断され、包囲されているようだ。このままでは・・・敗北は必至か。
ゴブリン達は、やはり侮れない。その作戦もだが、一番驚いたのは・・・その数だ!多すぎる!なんだこの数は!?5000は下らないぞ!
こ、これを相手にするのか・・・いや、問題はない。アウトレンジに徹すれば、何も問題は無い。
「ど、どうするの?」
決まっている、戦うのだ。敵を眼前にして臆し逃げる訳には行かない。
彼女を車内へ押し込み、戦闘態勢へ移行する。
機関系異常なし、砲塔及び主砲、機銃に異常なし。残弾、燃料バー共に十分。あとは、ゴングを鳴らすだけだ。
スキル”マッピング”を控えに移し、代わりに”火魔法”をメインに入れる。あとは、魔法を使うだけだ。
火・風魔法・ドレッドノート。使うには些か消費の激しい魔法だが、どうせ魔法は滅多に使わないのだ、ここで全部使い切るつもりで放つ。
『
スキル”放送”を使用します。曲名を検索してください
』
『
軍歌”Panzerlied”を放送します。以下の項目を設定してください。
・何番まで流すか
・リピート
』
『
設定が完了しました。再生ボタンを押して下さい。
一番リピート
効果 士気向上
』
さーて、準備は終わった。始めるとしよう。戦車による、対歩兵戦を!
その爆発は、城壁からも目視でき、そして聞き取れた。突然に、ゴブリンの後方で、爆発が発生したのだ。そこまで大きくないが、とても、力強いその爆発は、それを発生させた本人以外の、敵味方全ての思考を、一端停止させるのだった。
ドレッドノートによってゴブリンが吹き飛ぶ。かの街道上の怪物を基ネタにした魔法は、その名に恥じぬ破壊をその場で撒き散らし、ゴブリンの肉体を四散させた。
―Panzer vor!―
その意味あるワードの後、動き出す。
Ob's stürmt oder schneit, (例え、嵐が吹雪が来ようとも)
それと同時に、戦車と、我等戦車兵の歌が流れる。我等の行進歌であり、応援歌でありっ、そして追悼歌であるその歌が、流れ出すのだ!
Ob die Sonne uns lacht,(身を焦がす日差しを浴びようとも)
前進し、森から抜ける。そして直ぐ停車する。ここで突っ込むような、前回の二の舞はしない。
Der Tag glühend heiß (灼熱の昼間も)
主砲を放ち、機銃をばら撒く。大地が捲れ、ゴブリンが吹き飛ぶ。無数の穴が穿たれ、肉片へと変えていく。肉片が吹き飛び、骨が砕け散る。一方的な破壊が、眼前にて生まれていく。
Bestaubt sind die Gesichter,(埃にまみれて)
それだけで、楽しかった。これだけで、最高だった!気分が高潮した。己の意気が天を衝くまでに高ぶる!
Doch froh ist unser Sinn,(我が意気は天を衝く!)
当然だ!こんな大軍を相手に暴れ回るのだ。
それも!”Panzerlied”を流しながら、である!
Ist unser Sinn; (そう!それこそ我らが意気!)
なんという状況!なんというシチュエーション!鉄の体が震えるほどに感動する展開である!
無論!その震えは怯えからではない。武者震いだ!
Es braust unser Panzer (進めよ戦車!)
当然だ。なんたって、今の自分は、最高に絶好調なのだからだ!
Im Sturmwind dahin.(嵐越え)
さぁ、思いのまま暴れるとしよう!
これが、初めて”戦車”の存在が公になった瞬間だった。
パンツァー 四号戦車D型 lv 17
状態 車外装備品紛失
攻撃力 7.5cm kwk 38 L24 戦車砲
7.92mm MG34機関銃×2(同軸機銃・車載機銃
砲塔装甲 正面30mm
側面20mm
背面20mm
上面10mm
車体装甲 正面30mm
側面20mm
背面20mm
上面12mm
速度 40km/h 300ps
重量 20.00t
称号
・陸戦の王者
・エルフの楯
・ワールドクエスト発見者
・貢献した者
・新型受領
スキル
・目星 6lv
・拡大眼 6lv
・熱源探知 7lv
・音源探知 5lv
・火魔法 2lv new!
・風魔法 3lv new!
・放送 2lv
・迷彩 3lv
・隠密 5lv
・不整地走破 5lv new!
控え
・マッピング 8lv
18日目昼




