津波に繋がる小さな波紋
「お前はどう思う?」
「どう、とは?」
芋虫を切り裂く。緑の体液が飛び散るが、直ぐに白い粒子となって散り逝く。
「流石にこのエンカウント率はおかしいだろう。この森の奥で何かある」
「というと・・・やはり、ゴブリン?」
「かもしれないな」
森の奥から次々やってくるモンスターを切り裂いていく。今はまだ戦えているが、このままずっと戦い続けるのは難しいな。まだ体力は満タンだが、何時攻撃を貰うか判らない。先の戦闘で3つ残っていたポーションを使ってしまい、残りは1つとなった。少しのダメージも命取りになる。
「おい蜻蛉、俺はポーションを1つ持っている。お前は何個だ?」
「私は2つです」
「合わせて3つか・・・」
これは不味いな。これ以上戦うのは無理だ。本来の目的である、レベリングも十分出来たから、ここで戦い続ける意味は無い。一度退く・・・いや、ここは賭けに出てみよう。
「偵察に出るぞ」
「無謀では?ポーションは残り3つ、確実に死に戻りしますよ」
「想定内だ。死んで失うのは所持金とアイテムだけだ」
「・・・確かに、そうですね」
「所持金は元々底をついているし、アイテムは多少減っても余りある。問題は無い」
雀の涙な所持金が無くなっても、残ったアイテム・・・モンスターのドロップ品を売れば問題ないだろう。
問題は、蜻蛉が付き合ってくれるか、だ。自分は失う物は無い。だが蜻蛉の内情は判らないからだ。
「それ、私がお金を持っていた場合はどうするんですか?」
ほれ来た。
「俺の成果の半分をやる。どうだ?」
「・・・判りました、付いていきます」
良かった。流石に一人では難しいからな。
「ただ、お金は受け取りませんよ」
「なに?」
「貴方から貰わなければいけない程、私は飢えておりませんので」
「・・・判った」
これは・・・貸し1、だな。何時か返さなければ。
「さて、やる事が決まった事ですし、パーティを組みましょうか」
「パーティ?」
「そうです。私達今まで組んでなかったじゃないですか」
・・・そういえばそうだったな。まぁ、組まない理由も無いし、借りを返す為にも、ここで関係を持っておこう。
「フレンド申請を送るぞ」
「判りました」
メニューを立ち上げ、フレンドの欄を開く。プレイヤー検索で蜻蛉を検索・・・あった。フレンド申請、送信・・・っと。
「受け取りました。では、組みましょうか」
・プレイヤー”蜻蛉”からパーティ招待が届きました。
了承しますか? はい/いいえ
眼前に半透明のウィンドウが現れる。勿論選択するのは”はい”だ。
「これで俺達はパーティ、仲間だ」
ゲームを始めて、初めて組むパーティ。胸の奥から湧き上がる感情を感じる。
「はい、では参りましょう」
「判った」
芋虫の群を切り裂きながら、森の奥へと足を進めた。
「・・・」
「・・・」
無数の視線が俺達へ突き刺さる。数え切れないほどの視線。それらの持ち主は、どれも俺より小さく、そして緑だった。
それらは、薄汚れたボロボロの服に、錆が浮いている剣や斧、盾、杖、弓等を装備していた。
「・・・逃げるぞ」
「はい」
反転し、走る。
「ギャアギャア!」
「ガギャア!」
直ぐに後方から鳴き声と無数の足音が響き出した。ゴブリンと、その他モンスターからの逃走劇が始まった。
元々は、奥へ奥へと走り続けていたのが原因だった。余計な戦闘を避ける為に、モンスターの横を走り抜け、”兎に角前へ”を合言葉に進み続けていた。そしたらあれだ。勢い余って、広場へ飛び出てしまったのだ。その広場は、そこそこ広かった。だからだろう、多数のそれらが休憩するには丁度いいから。
そこには大量のゴブリンが休んでいた。数はわからなかったが、30は確実に居た。さて、これからどうしようか。
「このまま街まで逃げますか?」
スローイングモンキーの真下をスライディングで掻い潜る。
「いや、それだと他モンスターをトレインする事になる。却下だ」
道中の他プレイヤーを巻き込みかねないからな。
横から突っ込んできたラミングボアを飛び越える。
「戦うにしても、あの数とこのモンスター相手では、まともに戦えませんよ」
「ふん、問題は無い。良くゴブリンの数を見てみろ」
後ろから追いかけて来るゴブリンの数がおかしい。多くて10、最低5だろうか。全部追ってきている訳ではないようだ。まぁ、こんな森の中を大勢で追いかけっこするのは難しかろう。まぁ、追っ手はトレインのお陰でどんどん増えていってるのだが。
真上から飛び掛ってきたアサシンキャットを切り払う。
「どうやら、少数で追いかけてきているようだ」
「そうみたいですねぇ・・・倒しますか?」
「ゴブリンの戦闘力を調べたい。出来るなら戦いたいな」
「その為には、周りのモンスターが問題ですね」
ゴブリンの情報は、後の戦いに大きく影響する。出来る事なら戦いたい。だが、蜻蛉が言っている通り、周りのモンスターが邪魔だ。そのまま逃げ続けたらどんどん増えていくだろうから、早期決着を狙うか、どうにかしてゴブリンは撒かずに他モンスターだけを撒かなくてはならない。
・・・早期決着しかないな。
「ここで戦おう」
「正気ですか?確実に死にますよ?」
「元より死に戻り前提だ」
このまま帰ったらトレインする事になる。どちらにしろ生きて戻る事はできない。ならば、ここで戦って少しでも情報を得るのが最善だろう。
またしても視界を塞いでくるアサシンキャットを斬りながら、蜻蛉の返事を待つ。
「判りましたよ。付き合うっていったのは私ですからね」
「感謝する」
本当に有り難い。一人で得られる情報より、二人で得た情報が正確だろうからな。
「合図で打って出るぞ」
「判りました。生きてたらまた会いましょう」
「はっ、それは無理な話だ!」
再度後方を確認する。くそっ、やはりゴブリン以外のモンスターが多いな。さっき避けたラミングボアも混じってる。
これ以上逃げても意味は無い!行くぞ!
「狙うのはゴブリンだけだ!行くぞ!」
「はい!」
俺達は決死の特攻を行った。
【ゴブリン】情報収集スレその7【○すべし】
1.名無しさん
このスレはTWO世界の情報を集めるスレです。どんな些細な情報でも構いません。
兎に角情報が少なすぎる。この未開の地を生きるには、君の情報が必要だ!
次スレは>>980を踏んだ方にお願いします。
256.名無しさん
森の奥深くにてゴブリンと遭遇、これと交戦した。その際に得た情報を残す。
・ゴブリン
緑色で人型のモンスター。繁殖力が高く、また多種族の雌を孕ませる為驚異的な繁殖力を誇る。従来は本能、食欲、睡眠欲、性欲に従っているが、ある特定の条件下では統制が取れた軍隊と化す。
ヒューマンやエルフ、ドワーフ等の雌が被害の対象になる事が多い。
確認しただけでも30体は確認できた。それで全てとは思えない。
一体一体の戦闘力はそんなに高くなかったが、連携が取れており、少人数で戦闘するならば脅威になりえる。
前衛後衛と役割が明確であり、前衛は剣、斧、盾を装備。後衛は杖、弓で、杖持ちは魔法を使用した。
彼女が口を開く。
「13しかいない」
それは、ゴブリンと思われる反応の数を意味していた。
彼女は、自分の上で魔導書らしきものを読んでいた。そして、時たま火の弾やら氷の弾やらが現れていた為、魔法の練習かと思っていた。だが、それは違ったようだ。
一日跨いだ16日目、彼女が行動に出た。
「・・・大丈夫、何処も異常は無い」
そう発しながら立ち上がり、
「すー・・・はぁー・・・よし」
深呼吸をした後、手にしていた魔導所をなぞりながら、詠唱を始めた。
「『我求む 己の周囲に存する 生命の息吹を』」
発せられるは、不思議と力を感じる言葉。それと同時に、魔導所から薄い緑色の光が溢れる。その光が彼女の前に集まり・・・直径1m程の、地面に水平な円を描いた。
「『その息吹を 我に伝えたまえ ”存在探知”』」
最後の言を発して直ぐ、その円が大きくなり、自分の頭上を越え、建物を貫通し・・・見えなくなった。
彼女はその場で立ったままだった。何かを感じ取っているのか、その瞼を閉じている。
暫くして、その瞳が開かれた。
彼女が口を開く。
「13しかいない」
と、いう訳で、冒頭に戻る。
「ゴブリンの数は13体・・・という事ですか?」
「そう」
場所は変わって村中央の村長宅前。村長と、その補佐官だろうか。それら5名へ、彼女の明らかに探知系魔法の結果を報告しに来た次第である。
どうやら、彼女は魔法の練習をしていたのではなく、テストをしていたようだ。あれだ、長時間魔法を使ってなかったか、調子を確認してたんだろう。
「13体なら十分防衛できるな」
「打って出て、早々に潰しておくか?」
「その方が良いだろう。斥候にも思えるしな」
エルフ側では、ゴブリン13体を排除する方針のようだ。
「・・・あとは任せる」
「判りました、有難う御座います」
村長は、彼女に丁寧に礼をして、屋敷へ戻っていった。・・・村長が彼女に対して頭を下げ、そして敬語を使う。これは何かしらの理由がありそうだけれども・・・気にしていてもしょうがないな。
「処理は彼等がやってくれるから、心配ない」
そうか、判った。
・・・これからどうしようか。正直、ここに居てする事がないというかなんというか。いや、ここが再度ゴブリンに襲われる可能性があるという事は判っている。だからここに残るべきなのだろう。・・・今はここに残る他無いか。まだゴブリンの動きがわからない。とりあえず、斥候と思われるゴブリン13体を処理して、その後のアクションを見てから考えよう。
「やられたな」
「はい」
美しい女神像を眺めながら、俺は呟いた。
「ゲームが始まって16日目、初めての死に戻りだ」
「よく生き残りましたねぇ・・・まぁ、私もなんですけど」
ほう、こいつもか。まぁ、装備を見たら街へ帰ってないのは何となく想像が付くが。
「何をしますか?森に戻ります?」
「いや、暫く街で行動しよう。掲示板でやらないといけない事を見つけた」
「それはなんですか?」
「冒険者登録だ」
冒険者登録。それをしないといけない。掲示板に情報を上げるついでに調べた時に、冒険者ギルドについての情報を見つけた。なんでも、そのギルドは依頼の仲介や素材買取などをやってくれているらしい。現在一文無しの俺達としては、素材を売る為に登録しなければいけない訳だ。
「その後は、各自で装備調達だ」
「お、それは楽しみですねぇ」
やっと、装備を新調できる。どんな装備にしようか悩むなぁ。動きやすい防具にする、というのは既に決めているんだ。だが、武器についてはまだ決めてない。シュテッヒだけじゃ、手から離してしまった時に対応できないから、予備の・・・短剣程度のものが欲しいのだ。
考えていても仕方ない。その時に考えるとしよう。
「よし、早速行くぞ」
「判りましたよ」
俺達二人は立ち上がり、まだ見ぬ冒険者ギルドへと向かう・・・筈だった。
「ん?」
「どうしま・・・え?」
突然、俺のシュテッヒが光始めた。
どうも皆さん。トクメイです。
段々と動き出しました。まだ一章ですが、最後まで書けるのでしょう、正直不安です・・・。




