戦車と、とある人達
五人と一両の散歩は、実に和やかな時間だった。ゴブリンがまだ付近にいるかもしれないので、村から離れる事は出来ないが、ここらの土地勘がない自分からしたら十分有意義な時間だった。
昨日のゴブリンとの攻防跡地は、大量の足跡だけが残っていた。五体や血なんてものは、一切残っていなかった。全て、白い粒子となって消えたのだろう。何故、戦闘中に消えなかったのかは気になる。恐らく、何らかの条件があるのだろう。戦闘が終わってから消える、とかかな。
因みに、散歩の最中も、知的少女の名前は一切でなかった。流石に名無しな訳がないから、口にできない理由があるのか、それともただ偶然、名前を口にするタイミングが無かったのか。気になる所だが、口が利けない自分ではどうしようもないから、待つしかないのだけれども。
そして現在。
「ゴブリンだぁああああ!」
この一声のお陰で、散歩は終わった。だから、和やかな時間”だった”のだ。おのれゴブリン。
声が上がったところへ急行する。因みに、四人は村へ帰った。一人は一緒に来た。誰かは言うまでもない。
戦車が防壁の中に居ても意味が無いので、防壁の外の更に外、堀の手前で停車し、ゴブリンとの戦闘に備える・・・が、そこにゴブリンなんて一体もいなかった。
ん?既に戦いは終わった?いや、それは無い。前回、大隊規模で敗北しているのだ、もう一度攻撃するなら大隊規模か、それを上回る戦力で攻撃するのが当然。こんなに早く決着する筈が無い。
となると、まだ攻めてないだけで、森の中に潜伏中か。相手が攻めてくるまで、ここで待機しよう。
「・・・来ないね」
暫く待っていたが、敵は攻めてこない。眼前の森にも、変化が無い。後ろの防壁に、多数のエルフが弓を構えて待機しているが、何名か疲れていて弓を下ろしている。まぁ、弓を引き続けるの疲れるからね。
「・・・やっぱり、いない」
いないか。自分もそう思ってきた。どうやら、前方の森にゴブリンはいないらしい。この子が言ってるんだしそうなんだろうね。
じゃあ、あの報告はなんだったんだろうか。こんな時に悪戯なんてする阿呆はいないだろうしな。見間違いか、居たが、居なくなったか。
「敵襲ぅうううう!」
・・・反対側から声が聞こえてきた。向かうとする。なんか、いやーな予感がするが、取りあえず無視することにする。
夜になった。そして、敵は来なかった。というか自分が来た時には居なくなっていた。そして、また何処かで「敵襲!」の声が上がる。そこに向かうも、またしても敵は来ない。そしてまた、「敵襲!」の声が上がった。これの繰り返しだった。
「明らかに何かある」
そう、絶対に何かあるのだ。「敵襲!」の報告を集計すると、敵の発見地点は村を取り囲むように点在していた。村を囲むほどの軍勢なら、耳のいいエルフ達が気付かない筈がない。実際に、自分が森の奥へ調べに行ったが、そんな軍勢は見つからなかった。四号に気付いて、大軍が動いた、なんてものはありえない。生き物は、群れが大きくなればそれだけ行動に遅れが出る。ましては場所は森。素早く動くには無理がある。
つまり、敵は大軍ではない。なのに、発見地点は村を囲むようにある・・・。此方を攻める気は無い、という事か?じゃあ、何故此方にちょっかいをかけ続けるんだろうか。あれか?弱った所を攻めるつもりなのだろうか。それが一番可能性がある・・・のかな?
「てーきしゅー」
また何処からか敵襲の報。もう、その声にやる気は無い。そりゃそうだ。もう夜なのに、何度も報告が入ってくるんだ。疲れるに決まっている。まぁ、自分は戦車なので疲労なんて無い。あ、金属疲労は無しの方向で。
キュラキュラと音を鳴らしながら移動する。メニューを立ち上げ、久しぶりにステータスを覗き込む。
パンツァー 四号戦車D型 lv 16
状態 車外装備品紛失
攻撃力 7.5cm kwk 38 L24 戦車砲
7.92mm MG34機関銃×2(同軸機銃・車載機銃
砲塔装甲 正面30mm
側面20mm
背面20mm
上面10mm
車体装甲 正面30mm
側面20mm
背面20mm
上面12mm
速度 40km/h 300ps
重量 20.00t
称号
・陸戦の王者
・エルフの楯
・ワールドクエスト発見者
・貢献した者
・新型受領
スキル
・目星 6lv
・拡大眼 6lv
・熱源探知 7lv
・音源探知 5lv
・マッピング 8lv
・風魔法 2lv
・放送 1lv
・迷彩 4lv up!
・隠密 5lv up!
・不整地走破 3lv up!
控え
・火魔法 1lv
わぁお。何回も行ったり来たりしてたお陰か、不整地走破のレベルが上がってるし。いや、目的はそこじゃない。
燃料バーを見る。今まで、これが底を突いた事は無い。理由はまぁ、最高速度で長時間動いている訳では無いから、だな。普段は一番燃費がいい、巡航速度だからね。戦車は確かに燃費が悪いが、巡航ならばそこまで燃料は減らない。当然だ、兵器たるもの、燃費も考えられて設計されているからな。
で、その燃料バーだが・・・ちょっと不味いな。敵襲の報の度に最高速度で移動していたから、燃料が減ってきている。残り5分の1といった所か。だから、今頃になって巡航速度にした。うーん。寝てる間にどうにかできるだろうか。
敵襲の報があった場所に、敵はいなかった。知ってた。
お早う御座います。14日目の朝である。まぁ、寝てないんだけども。
あの報告を最後に、自分は動く事を止めた。燃料がやばかったからな。回復を待つことにした。もし、敵が攻めてくるならば、すぐさま駆けつけられるよう、村の中央にて待機した。
待機中、敵襲の報は幾度もあったが、一度も攻めてこなかった。自分が居なくなっても攻めてこない。やはり、敵は攻める気がないらしい。本当に、どういう事だろうか。情報が少なすぎてよく判らない。此方の疲労を狙っているなら納得できるのだが・・・。
知的子は、自分が待機すると同時に家に帰った。流石に、戦車の中は眠るのには向いていないからね。エルフとはいえ、体付きは子供っぽい。もしかしたら100年とか生きてるのかもしれないが、疲労は貯まるだろう。寝ておくに越した事は無い。
「てきーしゅー」
やる気のない報告の声が聞こえた。
お早う御座います。15日目の朝です。今日も「てきーしゅー」のやる気の抜けた声が聞こえてくる。完全にゴブリン共は攻める気がないようだ。エルフ達も、三組に戦力を分け、交代態勢を整えた。流石に無警戒ってのは不味いからな。
この日も、自分は中央で待機していた。この間、知的子が自分の上で魔導書?魔術書?らしきものを読んでいた。時たま、手の平に火の弾やら水の弾やらが出てきてたから、魔法の練習でもしてるんじゃないだろうか。
自分も、ここらで魔法の練習をしておこうかな。暇だし。
切り裂く。木の上から襲い掛かってきた敵の首を撫で斬り、一撃の下葬る。首をやられた暗殺者が、着地と同時に力尽き、白い粒子となった。
今やこのアサシンキャットも敵ではなくなった。初めは何度も死に掛けたが、慣れてしまえば後は勘だな。初めに習得した危険探知も、中々優秀なスキルで助かる。
ショートカットキーでインベントリを出し、所持品を確認する。芋虫の糸と肉、猫の毛皮、骨がドロップ品として手に入っているな。森に入る前の草原で手に入れた、兎の毛皮と肉もある。が、そんなのはどうでもいい。それより見るべきは――
「ポーションが残り3つ・・・か」
初期装備として渡されたアイテムのうちの一つ、ポーション。正確には初心者ポーションは、初めは10個あった。これが切れるまで兎に角戦闘を続けていた。
町から出る途中で、この”シュテッヒ”を拾い、兎と戦っていると、当然だが切れ味が落ちた。鑑定で調べてみると、刃毀れやら耐久力低下などではなく、”機嫌が悪い”、だった。
色々試してみて、手入れしてやるといいという事に気づき、手入れ用のアイテムを購入した。因みに、その試行錯誤で所期資金は全部無くなった。まぁ、それに見合うだけの価値がある剣だと思うから、後悔はしていない。
で、現在森の中。芋虫は飽き、猫も十分戦った。次のモンスターと戦いたいと思い始めた。だが、時間帯はもう夜だ。取りあえず寝よう。
シュテッヒの手入れを始める。こいつは念入りに手入れしてやらないと機嫌を損ねる。しっかり手入れしてやる。初めは面倒だったが、今はこれが習慣になっている。因みに、リアルでも刃物を磨かないと落ち着かなくなるかもしれないと、少し心配だったりする。
シュテッヒ ショートソード lv 13
状態 機嫌がいい
スキル
・切れ味上昇 lv6
・刺突上昇 lv8
・火属性 lv2
うむ、今日の手入れも上手く行った。こいつも機嫌がいいらしい。いい事だな。
そういえば、いつの間にかこの”火属性”というスキルがあった。こいつもスキルを自分で習得できるのだろうか。考えても判らん。もしかしたら、何らかのイベントに関わっている武器なのかもしれないが、使える武器なら何でもいい。気にしない。
さて、やる事も終えたし、寝るとしよう。シュテッヒを鞘に戻し、大きめ木の根元に座り込む。そして、瞼を閉じた。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「誰だ?」
俺の勘はよく当たる。だから、今回もそれに従った。近くに人が居る、気がするのだ。
「おや、誰か居るのですか?」
「あぁ、俺が居るぞ」
やはり居たか。瞳を開け、警戒する。当たりまだ暗い。目は完全に暗闇から慣れたが、辺りは少しの光もない為、全く見えない。
暫くして、正面からガサガサと音が聞こえてきた。恐らく、声の主が近づいてきているのだろう。
「何が目的だ?」
恐らくプレイヤーだろうが、信用は出来ない。PK、プレイヤーキラーの可能性もある。シュテッヒを引き抜き、構える。
「あぁ、PKが目的ではありません。寝る場所を探していただけです」
「信用が出来るとでも?」
「そうですよね・・・そうだ」
相手は此方が警戒して居るという事を察したようだ。そして、己がPKでないという事を証明するようだ。さて、どうでる?
「いま、そちらに私の武器を渡します。受け取ってください」
「成程な。だが、渡す時に攻撃されてはかなわん。持ち手を此方に向けろ」
「判りました」
もし、これで此方に持ち手を向けていなかったら。それは敵対の意があるとみなす。PKじゃないなら、こちらに持ち手を向けているだろうからな。
シュテッヒを口元に引き寄せる。
「・・・火属性」
この言葉を発して、ワンテンポ遅れてシュテッヒが赤く光り出した。これは恐らく、シュテッヒが持っているスキル”火属性”によるものだと考えている。この状態だと、シュテッヒが赤く仄かに発光し、高温になる。この状態で切れば、現状、遭遇した事のある敵は全て切り殺せた。あと、焼けた。
シュテッヒの赤い光が、辺りを照らす。その光を浴びて、浮かび上がる声の主。それは、此方へ槍の持ち手を向けていた。
装備は俺と良く似ていた。初期防具に身を包んだその人物は、槍と、頭に被った大きな笠だけが、俺とは違った。その顔は、暗く影で覆われていたが、驚きの表情である事が伺えた。
「おぉ・・・面白い武器を持っているのですね」
「こいつは俺のお気に入りだからな」
軽く会話をしながら、構えを解く。シュテッヒはそのままにしておく。
相手は、俺の対面にある木の根元に座し、槍を膝の上に置いた。そして、何処からか、布と瓶を取り出した。恐らく、インベントリから出したのだろう。
「貴方も、レベリングを?」
「あぁ、そんな所だ」
会話をしながら、相手は瓶の中身を布に染み込ませ、その布で槍を拭き始めた。成程、手入れか。俺と同じで、武器を大事にしてるんだな。
暫く、お互い無言だった。相手は手入れを続け、俺はその作業を見続けた。
手入れを終えた相手が、口を開いた。
「私の名前は蜻蛉といいます。貴方は?」
「俺か?」
相手は・・・いや、蜻蛉が自己紹介を始めた。まぁ、名乗られたら返すのが礼儀だろう。
「俺の名前は、剣戟という」
15日目の夜。後に最強のパーティと称される5人。その5人の内の2人が、初めて合間見えた瞬間だった。
果たして、5人とは誰のことなんでしょーねー(すっとぼけ
因みに、前回の掲示板回。寝た全部判った人はいるのでしょうか。自分、気になります!なんちて