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予兆

そろそろ動き出す。

「暑い・・・」


 ゆっくりと1速で進む。村の防壁に合わせ一周している最中だ。右は村、左は森。明確に分かれている。と言っても、村に木が一本も無いという訳ではない。防壁で仕切られているから判るだけで、これを取っ払えば森に建物があるだけだ。何処までが村で、何処から森か判らなくなるだろう。


「・・・なんでこんなに暑いの?」


 いや、そりゃあね?戦車に冷房なんて積んでないからね。現代なら積んでる奴もあるけども。

 初めは、興味深く自分の車内を見て回っていたけど、早々に飽きて大人しくイスに座ってた。だが、次第に車内の温度にやられ始め、最終的に耐えられなくなって車外へ出てきたという次第だ。まぁ、体力無さそうだしね。

 そういえば、彼女が自分の車内を見て回ってる時に、ヘッドフォンに彼女が気付けば良かったんだけども、そんな事は無かった。まぁ仕方ないかな。この世界の住民はヘッドフォンなんて知らないからね。どうやらこの子は気になるからといって直ぐに手を出すタイプではないようだ。警戒してるんだろうね。


 村の外から見た防壁は、やはり簡素という印象を受けた。やっぱり、短時間ではそんなものだろう。仕方ないとはいえ、もう少し頑丈なものにしたいものだ。

 だがまぁ、簡素なりに考えられている。防壁の役目である敵の侵攻阻害には十分有効だろう。効果が期待できる構造だった。確か、職人が態々取り壊して作り直していたな。その部分は更に強固なものとなっているだろう。

 堀にも順次強化が施されている。固めて滑りやすくしているようだ。魔法で固めていたり、戦士達が走り込みで使うなどして、確実に踏み固められている。油が表面を覆えば、確実に滑るだろう。





「・・・ん」


 知的少女が、一点をじっと見つめている。その視線は森の中へ注がれている。自分の視界には、その方角の森から小さな波紋が時々発生している。

 森には、様々な音がある。生き物の動く音だったり、風の音だったり。何かが落ちる時にも音が出る。今までも様々な音が聞こえてきた。だが、それらは自分の視界に波紋として現れなかった。どうやら条件がある様子。その条件をクリアしたその音が今、自分の視界に波紋として現れているのだ。つまり、そこに何かが確実にいる。


 動いている時、自分のエンジンは当たり前だが煩い。隠密のスキルは止まっている時しか効果を発揮しないからだ。

 停車し、静かにする。どうやら音源探知は自分が生み出す騒音に関係なく発動するようで、動きながら発動させる事が出来る。だが、今回はこのスキル以上に頼りになる存在がいるからな。そちらを利用しよう。


「・・・敵。聞いた事が無いし、金属が擦れる音がした。・・・数は1、恐らく斥候」


 そこまで判るか。やはり静かにして正解だったな。どうやら彼女は相当な聴力を持っている様子。

 しかし斥候か。こちらの情報を探る為だろうな、当たり前だが。

 さて、ここでこの斥候を潰すか、それとも見逃すか。恐らく、この斥候はあの位置についてそれなりの時間が経っているだろう。情報を持ち帰らせない為には潰す他無い。見逃すのも手である。その後を追跡し、本隊を叩くのである。


 で、自分の状態と見合わせると・・・見逃すしかないかな。攻撃しようにも、直ぐに騒音で気付かれるだろう。気付いた敵は当然逃げ出す。勿論森へ逃げるだろう。その森の中ではやはり小回りの効く相手が有利だ。木々を薙ぎ倒しながら突き進むなんて事はできないから、それを避けながら進んでいる内に引き離されるだろう。遠距離攻撃しようにも、主砲は死んでるし機銃は上を向いたまま下げれない。つまり攻撃はできない。うむ、見逃すしかないね。

 ここで潰す事は無理。ならば後を追うしかない。斥候ならば帰る場所がある筈だ。それを追って本隊へ突っ込むのだ。森の中で一固体に体当たりは難しいが、集団になれば話は別。数が増えれば必然的にある程度開けた場所が必要になり、行動も遅れる。そこへ突っ込めば勝機はある。

 だが、流石にそのまま付いて行く訳には行かない。戦車は煩いからね。近づけば直ぐばれるだろう。欺瞞行動を取られる可能性を考慮すると、やはり近づけない。敵が帰っていく方角から、大体の予測を立てるしかないだろう。ここで運要素が出てくるな。


 さて、問題はここからだ。突然だが、自分は”連装砲”(レンソウホウ)という言葉を良く使っている。元ネタは”報連装”(ホウレンソウ)だ。報告・連絡・相談の重要性を示した言葉だな。やはり、斥候の発見は報告すべきだし、連絡すべきで相談しないといけないだろう。だが、自分は喋れないからどうしようもない。だから彼女から伝えて貰う必要があるのだが・・・


「行こう。潰そう」


 ・・・好戦的なんだよね。どうしようか。報告する事は決定しているんだよね。

 取り合えず、ここに居続ける訳には行かないから、斥候が潜む場所へ進む事にする。相手に発見されたと悟らせる為だ。もし、報告している最中に逃げられてはどこら辺に潜んでいるか判らない。だから判っている内に逃げて貰うとする。


 ゆっくり近づく自分に、気付かれたと悟ったらしく、一際大きな波紋を生じながら音源が遠ざかっていき、最終的に確認できなくなった。。方向は・・・何処だろう。そういえば東西南北調べてなかったな。取り合えずその方角か。覚えたぞ。

 さて、戻るとするか。


「・・・報告が先だった」


 少々、顔が赤くなった知的少女の声を聞き流しながら、出発地点へと向かった。今までより早い3速で進んだ。




「・・・ここを真っ直ぐ。この先に村長の屋敷がある」


 了解した。真っ直ぐ進むとする。

 今現在、自分は村の中を進んでいる。流石に衝突したら自動車による事故より悲惨なことになる為、速度は落としている。

 村の様子は正しく戦時だろう。喉かな雰囲気だったであろうこの村に、熱気が薄く村を包み込んでいた。戦いを前に村の士気は落ちる所か高まり続けている。皆、来る戦いに備えて一致団結し、一人一人が一つの目標に向けて協力し合っているのだ。士気が上がらない筈が無い。


 その村の通りを抜けた先に、一際大きな建物が見えて来た。他の家々は、森故に木材で作られていた。この建物も木材でできていたが、その規模が他に比べ大きい。恐らく4階建てか?デカイなぁ。

 その大きな屋敷の前で停車する。勿論、通行の妨げとならない場所にだ。交通ルールは守らねば。


「・・・しょっと。ふぅ、暑かった」


 停車と同時に下車する知的少女。


「・・・報告してくる」


 その一言を残して屋敷へ向かっていった。






 屋敷の玄関から出てくる知的少女。どうやら報告を終えたようだ。


「報告終わった。・・・調査隊を編成して、向かう事になった」


 成程。それで?


「今伝令が走ってる。集まるまで待機」


 了解した。





「斥候なら、やはり攻めて来るか」

「あぁ。だがまだ先だろう。攻めてくるにしてもいきなり大軍で押し寄せて来る事は無いだろう」

「森は大軍で進行するには向かないからな」

「となると、小規模で攻めて来るか」

「それを破れば、諦められる可能性があるな」

「あぁ。敵の主目的は恐らく、始まりの街」

「方角は北西だったか。確か山があったな。南下してきたか?」

「恐らく。より住み易い場所を求めてだろうか」


 5~6分程で人が集まり始めた。その者達が、調査について話し始めた。どうやら計画とかを組んでいるらしい。その話を盗み聞きしていると、先程の斥候が逃げた方角が北西という事が判った。つまり、斥候が逃げていった方角のやや右側が北か。じゃあ始まりの街はあの方角だろうか。

 さて、盗み聞きの結果、少数による調査隊が編成された事が判った。敵主力の位置が明確に判った訳じゃないからな。もし、向かった先に何もいなくて、その間に村が攻められましたー、では話にならん。


 で、その調査隊のメンバーなんだが・・・


「宜しくお願いします!」

「次は誤射しませんから、安心してください!」

「敵が見つかればいいですねぇ」


 またお前らか!信用できんわ!

 といっても、エルフ達の会話によれば彼らの腕は村でもトップレベルらしい。まぁ、自分の装甲を側面とはいえ打ち抜いてるからな!あれで下手なら戦車として自信無くすわ!





 先遣として前方を進む彼らの後を、ゆっくり追いかける。3速や4速に比べては静かだが、やはり煩い。その為彼らとの距離はそこそこ離れている。大体・・・100m程かな。障害物の無い平原などでは、それ程離れていないが、木々生い茂る森ではとても離れて感じる。その為、時々彼らが待っててくれるのが有り難いと同時に癪に障る。言い様の無いこのイラ付きはどうしたら良いのだろうか。無駄にイケメンなのが尚更ムカつく。理不尽な感情だと判っている為、表には出さないが。

 時々モンスターと思われる音源が、先頭をの彼らと重なり、片方が消えるという事が何度も繰り返し続いている。彼らが3人から2人になったりしない辺り、やはり腕は中々の者なのだろう。イラッ。


「・・・疲れた」


 そして、この子がついてきた。村で待っていれば良いのに、何を考えているんだろうか。まぁ、自分には拒否しようにも物言う口が無い。仕方ないので、有事の際になろうが確実に守り通すことにする。それ以外は無視。彼らは自分で守れるだろう。うん。


「・・・止まった」


 ん?何が止まっただって?・・・おや、先頭の三人が止まった。おかしいな、まだ100mも離れてないんだが。・・・何かあったのか?自分の視界には波紋が生まれてないのだが・・・いや、今でた。とても小さいが、確かに出ている。近いか?取り合えず、停車する。


「・・・何かいる。複数。金属が擦れる音と何かが歩く音が聞こえる」


 停車し静かになると同時に報告してくれる知的少女だが、君相当耳がいいな!?自分は全く聞こえないんだが!

 停車した自分に気付いたらしく、先頭の3人が戻ってきた。

 暫く待って、合流する。


「何か音が聞こえます」

「集団だろう」

「恐らく・・・ゴブリンです」


 やはり彼らも気付いていたか。まぁ、自分達より先頭を進んでいたからな。


「・・・金属音と足音は聞こえた?」

「いえ、聞こえませんでしたが、それがどうかしました?」

「・・・私は聞こえたから、確認しただけ」

「なに!?それは本当ですか!?」


 え、彼らは聞こえなかったのに、この子は聞こえてたという事か?や、やっぱり相当な聴力なのか!?


「だとしたら確実にゴブリンですね」

「規模によっては不味いぞ」

「・・・俺達の任務は調査。規模だけ確認して帰還するだけでもいい」

「そうですね。戦うかは規模次第としましょう」


 さて、どうなるなるか。自分としては、早めに砲撃能力を回復したいのだ。種族的に存在する”成長”によって回復できると期待している為、できたら戦いたいのだ。敵の規模が少ない事を祈るとしよう。



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