到着
何度も謝罪されると正直飽きる。そして鬱陶しくなる。なのでエルフ達を無視して荷車へ向かう。勿論、ロープで再度接続してもらう為だ。
エンジンを回す。・・・うむ、大丈夫、問題は無いようだ。そのまま変速機を仲介し、動き出す。片方の履帯だけ前進させ、その場で旋回する。因みにこれを信地旋回という。更に因みにだが、両方の履帯を、それぞれ逆方向に回転させて旋回する事を超信地旋回という。こちらの方が素早く旋回できるが、自分二号戦車は信地旋回しかできない。仕方ね。
突然動き出した自分に驚くエルフ達。旋回を終え、前進する。荷車の少し前で停車し、また信地旋回。ゆっくり後進しながら、綺麗に荷車の前に止める。
新しく合流した男達は、自分の行動の意図が掴めないようで警戒していたが、彼女達は何度もやってるから判る。双子ちゃんと妹ちゃんが走り寄ってきて、解けたロープを結びつける。彼女達の結び方はとても器用で、急激な力が加わると解けるような結び方をしているようだ。お陰で、戦闘の度に引き千切らなくて済む・・・のだが、先程の戦闘では引き千切れてしまった。まぁ、木に引っ掛けたから当たり前だが。
結んでもらっている間に被害を確認する。着弾箇所は右側面の車体と砲塔の隙間。砲塔ターレットリングを突き破っている。戦車も無敵ではない。弱点は沢山ある。優秀な貫徹力を持つ攻撃に対して、車体下部や側面、背面は無力だし、地雷で底面装甲が吹き飛ぶ。機関部上部は冷却の為に密閉できない。そこに火炎瓶なんて投げ込まれたら堪らない。ハッチや照準眼鏡は一枚板の装甲板に比べて弱いから直ぐに破壊される。そしてターレットリングはその性質上、装甲化がとても難しい。今みたいに簡単にぶち抜かれる。
さて、被害の状況だが、ターレットリングを綺麗に打ち抜いてやがる。これでは砲塔が回らない。つまりは敵に攻撃するには車体ごと回さねばならん。不味い。だが、次の被害に比べればマシだ。機関砲の尾栓・・・大砲の後ろ側がグチャグチャになっている。これは不味い。とても不味い。簡単に言うと弾を撃つ為の部分が吹き飛んでしまっている。つまり撃てない。二号戦車の20mm機関砲は、これから絶対に撃てなくなったのだ。
幸い、機銃は生きている。が、火力に欠ける。それに砲塔が回らなくなった序に、砲身の昇降もできなくなっているようだ。
さて、自分がターレットリングを撃ち抜かれる前は、ビックベアーと戦っていた。それはとても大きかった。その際、頭を狙う為に砲身を上に向けている。そして、その後にあの鉄の矢が自分を撃ち抜いた。・・・つまり、機銃の銃身も、斜め上を向いたまま固定されてしまった。
砲塔は動かず、火力は激減。唯一残った火器は水平に射撃できない。・・・これ、正直詰んだかもしれない。敵が飛んでいたとしても、射線に入る確実はほぼ無く、敵が自分より小さかったら絶対に当たらん。自分より大きくない限り当たらぬと。そして当てるにしても砲塔が回らないから車体を回して照準する他無い。絶、望、的。これは酷い。
が、ここで諦める自分ではない。火力は死んだが、自分の足は今だ健在ぞ。最終手段体当たりだ。また、体当たりできなくとも盾になれる。装甲は正直薄いが、エンジンと変速機、足回りさえ生きていれば自分は動ける。まだまだ戦える。
そして、この要らぬ被害を与えてくれたあの男共に、少々怒りが沸いた。
被害確認を終えた。それと同時に、双子ちゃんと妹ちゃんの作業も終わったようだ。早速乗り込む彼女達。それに対して困惑の表情の男達。残念だがお前らは乗せん。被害を見てちょっとイラっときたのでな。精々、歩き続けるが良いさ。戦車の無停止進撃についてこれるかね?
「しゅっぱーつっ!」
「「しゅぱーつ!」」
双子ちゃんと妹ちゃんの声を合図に前進を始める。あと2日程度の道のりだが、これから遭遇する敵に対して対抗できるのは、この男達と彼女等の魔法のみ。自分は戦力にならないだろう。火砲を失った今の自分は、装甲が付いている程度の車同然だ。その為、戦闘は任せる他ない。より気を引き締めねば。
あの、男共に誤射を受けた日から2日たった。後少しで彼女達の住処に着く。2日間の彼女等の会話から、住処の規模は村レベルらしい。そこまで大きくないのか。
2日間、自分は彼女等が乗った荷車を押し続けていた。その間、敵が出てくるかと思っていたのだが、全くでなかった。一匹も。何故だろうか。エルフの村が近いからか?もしくはここ等一帯には何か居るのだろうか。食物連鎖の頂点辺りでも居るのかもしれない。
あと、この一帯、自分からしたら何度も同じ場所を回っている感じがする。まるで迷路のようだ。ファンタジーでよくある、”迷いの森”みたいな場所なのかもしれない。エルフ達にとって森は庭だ。迷いの森でも迷わないかもしれない。ここら一帯が、方向感覚を狂わせる何らかの効果がある、というのが一番可能性があると自分は推測している。
「後もう少しで村だ・・・」
とても疲れた表情で男共の内の一人が言う。何で疲れてるんだろうな、ハッハッハ。まぁ、理由は食事と睡眠以外で止まらなかったからだろうな。朝昼晩ちゃんと食事はしている。ただ、休むのがその時間帯しかないだけだ。それでも、自分のささやかな報復に苦しんだようだ。少し早い程度のペースを一定に保ちながらの前進だ、疲れるに決まってる。
さて、後もう少しで村らしい。どのような村なのだろうか。やはりログハウスが多いのだろうか。自然豊かな印象もある。エルフだし。
視界が開けてきた。途中、道なき道から獣道へ、そして踏み固められた道になっていた。その道の向こう側に、人工物が見えてきた。
それの前には、茨が生い茂っていた。まるで有刺鉄線、バリケードの様に配置された茨の向こう側には、丸太と土で構成された壁があった。道はそれへ続いており、大きな木製の門の前で途切れていた。
・・・これが村?いやいやいや。流石に森では無いだろう。防衛陣地か?ゴブリンの襲撃があったようだし、そう考えるのが妥当か。
男達は迷わず進み続ける。自分もそれに続く。自分のエンジン音に気付いたのか、それとも初めから気付いていたのかは判らないが、壁の上に人が見え始める。どれも手には弓を持っており、明らかに警戒している。ただ、その警戒は自分と周囲に向けられているようだ。得体の知れない自分と、ゴブリンやモンスターの襲撃を警戒しているのだろう。
男達が茨の直ぐ目の前まで来た。そのままだと突っ込むが・・・いや、どうやらそれは無いようだ。男達が目の前に立つと、茨は独りでに動き出し、道を開けていく。モーゼみたいだな。そして、木製の大きな門が開いていく。横開きの門で、ゆっくりと、ゆっくりと開いていく。
門が開き終わった。向こう側には人が大勢居る。恐らくエルフ。どれも手には武器を構えており、自分を警戒している。余り歓迎されていないようだ。まぁ、それもそうか。もしかしたら、ゴブリンの仲間の可能性があるしな。
自分の目的は彼女等を送り届ける事だ。彼女等を送り届けたら、そのまま帰ってしまうのも良いかもしれないな。
「帰れたー!」
「「帰ってきたー!」」
「本当に帰れました・・・」
「・・・部屋に戻りたい」
彼女等の声に、自分へ武器を向けていた者達の険しい表情に変化が生まれる。驚きの表情だ。
男達が止まる。それに合わせて自分も止まった。すると荷車から彼女等が降り、それぞれの行動に移る。双子と妹ちゃんは走り出し、美人さんがそれをゆっくりと追いかける。が、直ぐに周りの者達に囲まれてしまった。一瞬警戒したが、どうやら心配は無用のようだ。「生きていたか!」とか、「大丈夫?」とか、「け、怪我は無いか!?」とか。中には泣き出したりしている者も居る。ぎゅっと抱きしめている者も居るな。双子ちゃんと妹ちゃんが元気に返事しているのが見える。美人さんも冷静にそれらに受け答えしているが、なにやら焦りが見える。多分、早く親族に会いたいのだろう。いや、もしかしたらお風呂かもしれない。食事かもしれない。あ、睡眠かもしれないな。だが、嬉しいのに変りは無いようだ。顔が笑顔なのがその証拠だ。
対し、賢そうな子は自分から離れようとしない。回りも、賢そうな子に近づきたいが、自分を警戒して近づけない様子。
行かなくて良いのかね?自分の近くにいないで、皆と感動の再会をだね・・・。まぁ、声帯ないから伝わらんが。表情はいつもの無表情に比べたら笑顔なので、嬉しくない訳ではないのだろうが・・・。
「まさか・・・本当に・・・」
ん?・・・あれは・・・成程。そこには、2組の男女が居た。片方は金髪のペア、もう片方は緑髪のペア。・・・つまりはそういう事だ。
「「お母さん!お父さん!」」
双子ちゃんが、金髪夫婦へ走り出す。
「ミナ!リン!お帰り!お帰りぃい!」
「良く、よく帰っってきてくれたぁ・・・」
「「ただい・・・うぅう!!」」
家族が抱き合う。声は震え、目には涙が浮かんでいるが、表情は笑顔だった。うむ。よきかな、よきかな。
「・・・コリー、ハル。お帰り」
「お帰り。2人とも」
「ただいま帰りました。お父様、お母様」
「ただいまー!」
対し、此方はなんと言うかあっさりしている。だが笑顔だ。嬉しい事に変りは無いんだろう。こちらも、よきかな、よきかな。
「・・・良かった」
そうだな、賢そうな子よ。家族に会える。こんなに良い事は無い。で、君の両親はまだ来ないのかね。・・・もしかしてな展開が待っているのだろうか?
「・・・ここまで有難う」
ちょっと待て。何故そこで謝る。
「・・・明日、お礼がしたい。待っていて」
お、良かった。どうやらここで力尽きるって展開は無いようだ。辞めてくれよ?頑張ってここまで運んだのに、無駄でしたー!って展開は御免被る。
・・・そういえば、彼女等の名前、初めて聞いたな。賢そうな子の名前はまだ判らんが。




