表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/58

野営

 機銃をばら撒くように射撃する。広葉樹に7.92mmの穴が無数に開く。その内の幾つかは、木々ではなく軟らかい何かに突き刺さる。緑色の体液を撒き散らしながら四散するソレ。帯電した粉を撒き散らしながら落下するソレは、大地にダイブすると同時に白い粒子へと変化し、跡形も無く消失した。


「パラライズバタフライが一瞬で・・・」

「あの筒から何か出ているのかな」

「魔法では無いようですが・・・」

「・・・魔力の反応も無い」


・パラライズバタフライ

 とても大きな蝶。青い美しい羽が特徴で、とても高価である。だがその羽に付着している鱗粉は常に帯電しており、対策無しに触れると感電、最悪死に至る。


 バチッバチッっと、見るからに「電気タイプです」な蝶を撃破した。いや、空中目標だから、撃墜が正しいか。

 突如視界が暗くなったと思ったら、大きな蝶が真上に現れて驚いた。エルフ達が直ぐ教えてくれたので助かったが。幸い移動速度は遅いようで、機銃を撃てる位置まで後退して機銃掃射を行った。防御力も無いようだ。

 一度、電撃のような攻撃を受けたが・・・特にこれといった被害は無かった。まぁ、鉄の塊だからね。体自体がでかいアースみたいなものだ。流れた電気をそのまま大地に流したんだろう。エルフ達にも被害は無いようだし、良かった。


 しかし、パラライズバタフライか・・・。パラライズキャタピラーの成虫・・・だろうな。ここに来るまでに何回か駆除してきたが、それらが成虫になったんだろう。

 もう茜色に染まった空を見ながら、あのでかい芋虫の事を思い出した。




 荷車に乗り込んで貰って、いざ進軍。・・・と思ったが、行き先が分からない。暫く待っていたらエルフ達が道を教えてくれたので、それに従って前進した。

 ここまで来る間、森には変化が見える。木々に生い茂る葉が、大きな物に変っているのだ。・・・やはり、南下しているようだ。始めは街を北へ抜け、途中より北西に転進。猿に絡まれ方向を見失ったが、木々が針葉樹より広葉樹が多くなり始めた事から南下していると自分は推測していた。そして現在、周囲に針葉樹は一本も無い。広葉樹だけだ。草も生い茂っている。心なしか、気候も温暖な気がする。南下していると考えて間違いないだろう。


 それにしても、エルフ達は凄いな。どうやら住処の方角が分かるようだ。流石、森に生きる者達と言った所か。自分だったら無理だな。ミニマップの、ほぼ一直線な進行ルートを見ながらそう思う。ほぼ一直線、何処へ向かうべきか分かっている故に、一直線なのだろう。

 ・・・自分には同じ景色に見えるんだがな。あの木に見覚えがあります!って言いたくなる。そうだな、森の進軍って所か。まぁ、彼女等にとっては庭なんだろう。心配せずとも大丈夫だろう。


 道中、当たり前だが大量のモンスターに遭遇した。でかい芋虫、でかい猫、でかい猪・・・でかいといっても、自分と同じ位程度の大きさだが。で、それらを7.92mmと20mmで等しく屠ってきた。敵の攻撃範囲よりも此方の射程の方が長い為、敵に攻撃される前に一方的に殴る事ができたのが幸いである。

 一度、猪に奇襲され体当たりを食らったが、あれが一番不味かった。幸い被害は履帯、判りやすく言うとキャタピラが切れただけで済んだが、何度も食らったら幾ら戦車といえども唯では済まないだろう。何度も奇襲される訳にはいかない。警戒を続ける。

 因みに、切れた履帯はいつの間にか直ってた。正確な時間は分からないが、実際に直すよりかは早かったと思う。・・・戦車の履帯って直すのに相当時間かかるんだが・・・これはゲームだったな。まぁ、勝手に直ってくれるのはこっちとしては好都合だ。有り難い。


 そして現在。あの蝶を撃墜した後、休憩する事にした。荷車を移動させているのは自分だが、その荷車に乗っている彼女達も、やはり疲れる。辺りも暗くなり始めている。休むには丁度良いだろう。

 音で気付かれる可能性がある。エンジンの回転速度を落とし、騒音を減らす。消音効果のある”隠密”をずっと使い続けているからか、とても静かになる。動いている時は隠し切れないが、止まっていたらある程度は消せるみたいだな。


「あと・・・2日ぐらい?」

「この調子なら・・・うん」

「私達、何日歩かされてましたっけ・・・」

「・・・1週間は最低」

「そんなに歩いたかなぁ?」

「歩きすぎて記憶がおかしくなってる」


 最低1週間先にある住処か・・・だが今は2日と。まぁ、徒歩と戦車の進行速度は違うからね。徒歩ならやはり疲れる。が、戦車は疲れない。休む頻度も時間も圧倒的に戦車の方が有利なのだ。


 エルフ達は手際よく木の枝を拾い集め、それに魔法らしき火で着火する。枝と一緒に、幾つかの木の実も手に持っている。食事、という事だろう。

 焚き火を中央に円に・・・ではなく、自分に集まる5人。・・・いや、何で自分に集まる。おい、そこには登るな。火傷するぞ。そこは滑るから危ないぞ。

 ・・・別に、その行動が悪いという訳ではない。悪くは無いが、ここは焚き火を囲うのが定番では無いか。正直、こんな状況は初めてだ。女性に囲まれ、登られたり、もたれかかれたりなんて体験はない。そんな幸せな人生経験なんて実無だ。これではまるで、自分に心を許しているようだぞ。正直、落ち着かないので止めて頂きたい。


「疲れた・・・」

「ここ暖かいね。・・・あの、網の部分はとっても熱いけど」

「寒いですからね、羽織るものもないですし」

「・・・本当に暖かいね」

「・・・黒色の煙・・・中で何か燃えている?」


 ・・・そうか、寒さか。自分は外温は余り感じないからか、そこまで寒く感じない。でも、彼女等にとっては十分寒いのだろう。これから夜は更に深くなり、気温をそれに従い寒くなる。先程は離れて欲しいといったが前言撤回だ。もっと近寄れ。凍死は不味い。ここで死んで貰っては困るのだ。

 スキルの火魔法を上手く使えないだろうか。いや、風魔法も良いかもしれない。

 ・・・そうだな、風魔法で熱を還流させるとかどうだろう。自分のラジエイターから放熱される熱。これで暖かくなった空気を還流させよう。また、そのままでは酸素が不足する。暖かい空気を作り続けて、少しずつ補給しよう。因みにだが、放熱と排気ガスは確りと別々だ。その為酸欠やらで死ぬ事は無い。


 オレンジ色に染まった空気と、青色に染まった空気。外から流れてきた青い空気が、自分のラジエイターの放熱で暖められ、彼女等を包む。少しずつ空気を放出し、新しいオレンジ色の空気を補充する。


 風魔法・??? □□□□□□□□□■(効果時間・1時間)


 お、上手くいったようだ。・・・効果時間か。初めて作ったマズルブースターには無かったが・・・。恐らく、マズルブースターは一瞬の魔法で、、この魔法は継続した魔法だからだろうか。

 しかし、一時間でこの消費MPか。・・・自分は魔法職じゃないから正確には分からないが、恐らくこれは燃費悪い方だろうな。

 名前だが・・・保温魔法にするか。特にこれといったものが浮かばないから、そのままな名前だ。


 風魔法・保温魔法 □□□□□□□□□■(効果時間・1時間)


 よし、早速使ってみよう。

 MPらしきものが減っていく感覚。魔法が発動した。


「っ!?」

「え!?」


 美人さんと賢そうな子が露骨に反応する。そういえば2人は魔法が使えたか。警戒されたか?


「・・・あた、たかい・・・」

「ふぁ・・・」

「眠くなってきた・・・」

「・・・これは、風魔法でしょうか」

「・・・空気の流れを操作している。・・・この、放熱されている部分を空気が通ってる・・・」

「・・・私達の為、でしょうか?」

「・・・そうだと思う。空気の流れも、私達を包み込んでいる」

「・・・安心して、良いみたいですね」


 うむ、上手くいったようだ。自分は魔法なんて滅多に使わないからな。朝まで続けられるだろう。日中でMPを回復させ、夜はこの魔法を使う。これでいこうか。


「・・・寝ましょうか。起きていては、明日に響きます」

「「はーい」」

「・・・寝ずの番はどうするの?」

「それは私が――」

「貴女は寝て。寝ずの番は私がやる」

「え、しかし」

「いいから寝て。大丈夫、眠くなったら起すから」

「・・・では、お願いしますね」

「うん」


 寝る準備を始めた。流石に自分の上では寝れないから、自分の隣に寝転がり始める。済まない。地面の硬さまではどうしようもない。空気の流れもそれにあわせて移動させる。


 ふむ、これでいいだろう。双子と妹ちゃんは直ぐ寝始めた。今までの疲れからだろう。安心しろ、寝ている間は自分が確りと見張っているからな。今の内に疲れを取るのだ。

 それに対して、美人さんは寝てないな。寝たふりだ。多分、心配なんだろうな。上手く隠しているつもりだろうが、自分には分かる。なぜかって?簡単だ、目が開いている。自分の方向に顔が向いている為、表情が完全に見えている。

 寝ずの番をする賢そうな子。彼女は自分の上、砲塔に座っている。そこから顔は見えない。見えるのはお尻と足だけ。まぁ、良いアングルなんだろうな。普通なら反応しそうだが、そんな余裕は無い。夜間、油断がしに直結するのだ。常に警戒せねばならない。


 砲塔に座り込んでいた子が立ち上がり、焚き火を消す。付けっぱなしは敵に場所を教えているようなものだからな。消し終わると、また砲塔に戻る。・・・何がしたいのだろうか。定位置って事だろうか。

 話は変るが、ここまで来る間、自分のレベルやスキルは確実に上昇している。レベルアップの通知を幾度も見ている。それも彼女達と遭遇したタイミングからだ。正直、今すぐにでも見たい。だがいつ敵が襲ってくるか分からない。見ている最中に、あの猪がまた現れないとは限らないのだ。

 などと、如何にもな理由を挙げてみたが、実際の所は上げきれる所まで上げてから見たい。今見るのと、落ち着いてから見るのでは、やはり感動の差がある筈だ。もっとレベルを上げてから見るとしよう。

 その、”落ち着く”には、彼女等を送り届けなければならない。頑張らねば。





 さっきまで茜色に染まっていた空は、満天の星空に変っていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ