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99話「争いは去りて」

 マッドサモナーの十分な拘束、そして、怪我人の応急手当が終わる頃にはすっかり日が暮れて、辺りは夜の闇で包まれていた。

 野宿をすることに決めた一同は、安全に野宿をするために薪を集めて火を起こしたり、万が一の雨に備えて壊れたコーチの屋根を補修したりする作業に追われ、夜はますます深まっていった。


 ――パチパチ……。


 夜の静寂に、火の弾ける音が響く。


「あー……やかましい女が居なくてせいせいするぜー。穏やかな夜だ」

「ちょっとブリーツ、そんな言い方は良くないよ」

 アークスは、開放感に浸るブリーツをたしなめながら、馬車の方を向いた。レーヴェハイムのコーチには屋根が無いので木の葉が被せてあるが、フレアグリット騎士団の馬車の方は、ほとんど無傷だ。

 怪我人の中でも重症のサフィーとミズキは、ヘーアに付き添われながら、屋根が無事な、フレアグリット騎士団の馬車の方で、安静にして寝ている。

 アークスは、二人の事が心配なので、無理してでもレーヴェハイムに早く戻った方がいいのではないかとヘーアに聞いたが、ヘーアは首を振った。

 二人を早く町に連れていけば、確かに設備の整った場所で治療を受けさせられるのだが、それだけのために夜道を馬車で走るのは得策ではないのだそうだ。このパーティーには医師も居るし、回復魔法が使える人も、沢山居る。特に、エミナの回復魔法は頼りになるのだそうだ。そのため、夜中に馬車を走らせることで起こるアクシデントのリスクを考えれば、夜の間は馬車の中で安静にしていた方がいいのだそうだ。


「……はぁ」

 そんなこんなで、二人の命にも、今のところ別状は無く、マッドサモナーにも手厚い見張りが付いている。アークスの脇腹もヘーアが見てくれて、これといって問題は無かった。ホーレ事件に端を発する、時空の歪み調査を含めた一連の出来事は、ようやく終息に向かっている。アークスは、そう実感している。


「……ごめんね、何も手伝わなくて」

 作業に追われていれば、もしかしたら、こんな感情は沸かないのではないか。アークスは、ふと、そう思って、みんなに謝った。

「おおっ!? そんなの気にしなくていいぴょんよ。怪我人は休んどくに限るぴょん!」

 ミーナが親指を立ててアークスの方に突き出し、ウインクをした。


 そう、サフィーとミズキほどではないが、アークスもまた、体に深手を負っている。そのため、火おこしやコーチの補修はやらずに、体を休めていた。治療にあたったヘーアとエミナも、治療に集中するために、同じく参加していない。

 焚き火とコーチの屋根の補修は残りのメンバーが行ったのだが、アークスは、歯がゆい気持ちで作業の様子を見ていた。アークスは、そとの大き目な石に座って安静にしていたのだが、みんな、昨日の今日というか、まさに今日出会ったばかりの人も居るのに、チームワークが良く、統率が取れた動きをしていたのを凄いと思った。

 結果、コーチの屋根には、長めの小枝を格子状に並べ、その上に木の葉を敷き詰めた簡易的な屋根ができ、焚き火の方も手早く、枯れ木等の燃やす物もたっぷりと用意してある、夜を越すのにも安心なものが出来た。馬車に積まれている食料にも余裕があるので、パンや干し肉なども、炙って美味しく食べることができる。

 アークスは傷が内臓まで達してはいないので、食べ物は普通に摂取できる。だから食事は楽しみだ。しかし、一方で傷が内臓まで達しているサフィーとミズキのことを思うと素直に楽しみにすることもできない。サフィーやミズキの傷の深さを考えると、お粥や、ミルクに浸したパンすら食べられず、魔法で補助して、やっとそれらが食べられるくらいだろう。なので、ヘーアとエミナさんに付いてもらって、差し支えないものをゆっくりと食べることになる。

色々とキャラクターは出てきましたが、この作品で一番王道の主人公らしいのはアークスかなと思います。といっても、群像小説の前提として、特定の人物を主人公にはしていないので、お気に入りの人物に感情移入をしたり、思い入れをして頂ければいいと思います。

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