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83話「モンスター軍団の猛攻」

「くっ……」

 アークスが振り返り、馬車を見る。まだ馬車の所にはモンスター群は辿り着いていないが、アークス達三人が、モンスター群よりも先に辿り着けるとは思えない。


「サフィー、このままじゃ馬車が……!」

「ええ、それは分かってるけど……どうする……?」

 サフィーの顔が曇る。おびただしい数のモンスター達に囲まれたサフィー達三人は、このままでは何分も持ちこたえられないだろう。このままでは、大量のモンスター達に、更に厚く囲まれて、四方八方からの攻撃に晒されることになるからだ。そうなれば三人共、モンスターの大群による圧倒的な攻勢の前に、なす術も無くやられるしかない。

 そうならないためには、ひとまず馬車に戻ってモンスターとの距離を取り、体制を整えないといけない。

 しかし、馬車がそのままの所に留まっていたら、三人よりも先に、モンスターが馬車へと辿り着くことになってしまうだろう。


 馬車に残されているのは二人、レーヴェハイムの医師ヘーアと、騎士団所属の御者ダーブだ。彼らは戦闘できない。ヘーアは医師で、歳も取っているので戦闘能力は皆無だし、ダーブの方も、最低限の訓練を受けているものの、自分の身を守れる程度の装備と技術しか持ち合わせていない。一部の特殊な経歴を持つ、熟練した御者なら、その限りではないのだがダーブはそうではない。アークス、ブリーツ、サフィーの三人よりも戦場での経験は豊富だが、戦士としては熟練しているとは言い難い。馬の飼育や操車技術等を主に学んでいるし、実戦でも主に御者としての役割を担っているからだ。

 そのため、三人が付く前に馬車が襲われたら、馬車が危うくなる。いや……ぎりぎり馬車に辿り着いたとしても、モンスターの数が多過ぎる。馬車を守り切れずに、馬車もろとも一網打尽にされてしまうだろう。


 サフィー達が馬車で逃げるには、絶望的な状況だ。この状況下で馬車の元へは素早く戻るなんてことは不可能だ。サフィーが歯を食いしばる。非戦闘員の乗っている馬車を守るにしても、敵の攻撃が激し過ぎる。サフィー達も健闘はしているし、馬車もそれほど遠くにあるというわけではない。しかし、それだけに、圧倒的なモンスターの勢いは、すぐさま馬車を捉えてしまうだろう。これ以上、馬車を待機させておくわけにはいかない。


「く……仕方ないわよね……このまま全滅するのなら……ダーブ!」

 サフィーがブラッディガーゴイルの一体を斜めに両断しながら、馬車の方を向いて叫んだ。ダーブが鞭を高く掲げて、聞こえていると合図する。


「ダーブ! 先に馬車を逃がして!」

 サフィーが更に叫ぶと、ダーブは鞭を横に振って、了解だと合図をした。その後ダーブは、馬をモンスターが手薄な方に方向転換させ、馬を走らせた。

 サフィーは、迫りくるモンスターを、どうにか処理しながら、馬車がどんどんと離れていく様子を見守った。


「……ごめんね、アークス、ブリーツ」

「俺、賛成した覚えはないんだけど」

「この方法しかなかったでしょ! 男なら腹を決めなさいよ!」

「そんなー……」


「ははは、ブリーツは冗談を言ってるんだよね、サフィー。僕も……いいよ。これからは、馬車が無事に逃げられるように戦わないとだね」

「ごめん、私がもっと強かったら……」

 戦士である私が強ければ、手負いのアークスや魔法使いのブリーツを守りながら馬車に付けたかもしれない。サフィーはそう思うと、剣を握る手に、自然と力が入った。


「そんなの、僕だって同じだよ。僕がもっと強ければ、こんなことにはならなかった」

「お互いさま……なのかしら。でも……」

「悔やむのは、負けてからにしよう。今は、出来る限り抵抗しなきゃ!」

「望みはある……とも思えないけどね……」


「てか絶望しかねーぞ!」

「ちょっと! ブリーツはヤジみたいなの言わないでよ!」

「だってさー……紅蓮の大火炎よ、全てを覆い、燃やし尽くせ……エクスプロージョン!」

 ブリーツが、口を尖らせながらエクスプロージョンを唱えた。


「これだって、結構魔力消費激しいんだぜ。あんないっぱいのストーンゴーレムとか、無理だっつの!」

「こっちだって、こんなに大量のブラッディガーゴイルとリビングデッドなんて裁ききれないわよ!」

「やっぱり無茶だよね……でも……後はきっと、ミーナ達がやってくれるから……!」


「おお……彼女らがまだ生きてると思っているのですか、貴方達は」

「その声……!」

 サフィーには、その声は聞き覚えがあった。忘れもしない、ホーレ事件の発端。ホーレでリビングデッドを退治していた時だ。リビングデッドから、この声が聞こえてきた。

 その時は誰の声だか分からなかったが……今、再びこの声が聞こえてきたという事は……。

「マッドサモナー!」

 サフィーの頭に血がのぼる。この甲高い中年女性の声が、実に気に障るのだ。


「あらあら……不本意な言われ方をしたものです。私、二つの町を滅ぼした実力者ですよ?」

「マッドサモナー……ようやく見つけたのに……」

 サフィーは自分に群がるリビングデッドやブラッディガーゴイルを次々と切り裂いていく。だが、魔女に化けていたのが、ホーレで会ったマッドサモナーと同一人物だと分かった今、マッドサモナーに一撃を浴びせることに欲求が働いてしまう。

「く……今は……でも……」

 このまま抵抗したところで、やられるのは時間の問題だ。ならば、マッドサモナーに一撃でも与えてから死にたいものだが……。


「く……マッドサモナー……何で……」

 息が早くも上がる。動く度に傷がずきりと痛む。痛みはアークスが剣を一振りする度に、少しずつ悪化しているようだ。痛み止めの効果が薄れてきたのか、それとも傷が更に悪化しているのか……どちらにせよ、この状況を切り抜けることは不可能だろう。だったら、傷の事なんて気にする必要は無い。

 ただでさえ、同じ戦士のサフィーとは力や体力の差が大きいのに、傷のおかげで動きも鈍いし、体力の消耗も激しくなっている。これ以上、動きが鈍くなったら……いや、すでに足手纏いかもしれない。


「くっ……」

 アークスの頬を、リビングデッドの斧がかすめる。


「はぁぁぁ!」

 頬に、ごく浅い傷をつけられただけで済んだアークスは、片足をリビングデッドの方へと踏み出して、リビングデッドとの距離を更に縮め、アームズグリッターをかけられた剣で袈裟懸けに斬った。


「はぁ……はぁ……」

 リビングデッドは両断されたが、逆に考えれば、そうまでしないとアークスには一撃で倒せないという事だ。モンスターが加速度的に増えていき、恐ろしい勢いで包囲されていく現状、アークスはあまりに無力だ。いや……この三人、全員の力を合わせても、じりじりと後へ下がりながら、自分に迫るモンスターだけに対処していくだけで精一杯な状態だ。


「うあっ!」

 サフィーの肩に、リビングデッドの斧が深く食い込んだ。

ぎゃー! ピンチです!

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