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58話「ルミナグラス」

「さてと……んじゃ、俺はこの辺りから探しましょうかね」

 ブリーツは、まずは手近なタンスの引き出しを、上から探索し始めた。


「んー……あのねーちゃん、見かけによらずファンシーなのかもしれんな……」

 真っ先に開けた一番上の引き出しには、可愛いぬいぐるみや、煌びやかなアクセサリー……といっても、ガラスや、あまり価値の無さそうな、低品質の宝石で作られたものばかりだ。

「なんか、女の子の引き出しって感じの引き出しだなー、ちょっと恥ずかしくなるぜ……お?」

 ブリーツは、引き出しの隅っこにあるルミナグラスを見つけた。


「ルミナグラスじゃねーか」

 ブリーツがルミナグラスを手に取った。ルミナグラスとは、覗き込んだ人に映像を見せる魔法雑貨だ。手のひらサイズの筒に、色々な色のガラス片や粉を入れ、簡単なウィズグリフを刻む。すると、それらが動き、光る。それによって、筒の中には映像が映し出されるという仕組みになっている。


「え、ルミナグラス? 何が写ってるの、それに。何か、マッドサモナーに関することじゃないの?」

 ブリーツの声を聞いたサフィーが、ブリーツに寄ってくる。

「何が見えたの?」

「いや、まだ見てねーよ。そう急ぐなって。えーと……どれどれ……」

 ブリーツがルミナグラスを覗き込んだ。

「うおっ……こ、これは……」

 ブリーツの顔に緊張が走る。

「何? マッドサモナーの証拠ね! やっぱり魔女がマッドサモナーなのね!?」


「あー……いや、多分、違うんじゃねーかなー、これは……」

「ええ? ちょっと、私にも見せなさいよ!」

 サフィーはブリーツからルミナグラスを奪い取ると、それを覗き込んだ。

「これは……」


 初めに見えたのは巨大な熊だ。普通の熊ではなく、極端にデフォルメされて可愛らしいキャラクターにアレンジされた熊だ。その熊が、見かけ通りの愛らしい仕草で動き始めたと思ったら、今度は上から何かが降ってきた。白くて丸いボール……いや、柔らかそうな毛に覆われた、白い毛玉のようだ。

 白い毛玉は下の方でバウンドした。そして、くるりと半回転すると、つぶらな黒い瞳が二つ、モフモフの毛の中から姿を覗かせた。

 毛玉の生き物は、画面狭しと薄ピンク色の空間を縦横無尽に飛び回っている。


「か……かわいい……!」

 サフィーが思わず呟く。

「え、何だって?」

「な、何でもない! 多分、これ、違うから! 手掛かりは別にあるはずよ!」

「ん、そうか……あのさ、サフィー、なんか赤くないか?」

 サフィーの顔が、少し熱を帯びているようだ。ブリーツはそれを見て気になったので聞いてみた。

「なっ……! 余計なお世話よ! ブリーツこそ、お喋りしてないで手を動かしなさいよ、手を!」

 サフィーはブリーツに怒号を浴びせ、反対側の壁際にあるクローゼットを探し始めた。


「……なんだよ、別に手は泊めてなかっただろー、理不尽だなぁー」

 ブリーツの方も、一言愚痴を言いながら、一段下の引き出しを開けた。

「意外と綺麗になってるんだよな、整理されてるっていうのかなぁ」

 二段目には筆記用具が一式収まっている。インクやペン、それに、大小様々な紙が置いてある。引き出しの隅には何冊かの小さな本も置かれている。何かに使う飼料だろうか。


「本当に整理されてるのかしらね。見てよ、このクローゼット。虫が食って穴の開いた洋服ばっかりだわ。あのボロボロになったバトルドレス、殆どあれが一張羅よ。しかも、ブリーツの魔法で焼かれなくっても、前からヨレヨレだったやつよ」

「マジかー、なんか悪いことしちゃったかなぁ」

「いい気味よ。いつも騎士団を顎で使ってたバチが当たったのよ。それに、マッドサモナーと繋がってることは分かったんだし、もっと追い詰めてやらないとね。それにしてもブリーツ……あ……いえ……」

「ん? 何だよ、下着とか、使用済みの食器とかは探してないぞ。真面目にやってるんだぞ」


「違うわよ、また言わんでいいことをぺちゃくちゃと……でも……ブリーツ、ナイスフォローだったわ。助かった」

 サフィーが、照れくさそうに言った。


「ああ? ああ……そりゃ……どうも」

 ブリーツはサフィーにいきなり艶っぽい声でダイレクトに褒められたものだから、少し狼狽えた。


「ふふっ……」

 サフィーが吹き出し笑いをした。


「え? 何?」

「いえ……褒めると戸惑うんだなって。あんた、意外とかわいい所、あるのね」

「いやいや、かわいさじゃサフィー様には負けますよ。あの真っピンクな……ああ、さっさと探さないと、魔女が戻ってきちまうかもしれんぜ! ほら、サフィーも手伝って!」

「ちょっと、何て言おうと……あ! 私の勝負下着!」

 サフィーの脳裏に、フリフリでピンク色の勝負下着の形が鮮明に浮かんだ。その途端、サフィーの顔に、いつにも増して鬼の形相が浮かぶ。


「な、何のことかなぁぁ? ……おっ、手掛かり、あったぞ!」

「サイテー! 誤魔化すな!」

「いや、本当だよ! ほら!」

「なーにが本当よ! 大体……えっ……」

 ブリーツが付きだした小瓶には、ハエが入っていた。生きた状態のだ。

「な?」

 ハエも当然、ただのハエではない。頭が巨大で、体にも毒が入っているであろう、改造バエだ。

「魔女……許さない……!」

 改造バエ。あの老人の館にあった、忌まわしきものが、魔女の住処にも存在していた。しかもそれは瓶の中を元気に飛び回っている。完全に生きている状態だ。


「これって、魔女が改造バエを作ってたって事かしら?」

 ブリーツは、サフィーの声が、少し震えているのに気付いた。魔女のやったことを腹に据えかねているのだろう。

「うーん……それはなんとも言えないんじゃないか?」

「そうね……でも、魔女が何かしらホーレ事件に関わっているのは確かよ!」

 サフィーの語気が強い。相変わらず気が立っている様子だ。


「そうかぁ? 他にもなんか色々あるぞ?」

 ブリーツが、改造バエの入っていた引き出しの中から、大小様々な瓶を取り出した。羽が透き通っている蝶や、真っ赤で普通の三倍くらい大きなアリ等、様々な虫が収納されている。


「うおっ、これ何て派手だなぁ」

「ひっ! よしなさいよ!」

 ブリーツがサフィーの方へ突き出した大き目の瓶に入っているのは、間接毎に色の違う、カラフルなムカデだ。しかもそこそこ大きい。


「まったく、気色悪いたらないわ……老人の館もこんな感じだったわよ。変な生き物が瓶に入って、いっぱいあったわ。老人の方は科学的な感じだけど、こっちだって分かりゃしないわよ。魔女は魔法の達人。だったら、こんな合成くらい朝飯前のはずだから。魔女とあの老人、改造バエを作ってたのはどっちなのかしら……」

「さあなぁ……魔女だったら、これまで騎士団へ依頼したのって、改造バエを作る為だったのかなぁ?」

「そうだとしたら、屈辱ね。今だって……はっ!」

「お、どうした?」

「アークスが危ない! アークスは魔女の依頼で動いてたのよ!」

 サフィーの背筋が凍る。


「ええ? でも、今までだって大丈夫だったし……」

「今は違うわ! だって、魔女の正体がバレたんですもの。だったら、今、依頼を受けてるアークスにちょっかいを出すに違いないわ!」

「ん……そうか……じゃあ、俺が城にこのことを報告しに行くから……」

「いえ、人になるのはまずいわ。私達だって、真っ先に魔女に狙われる対象のはずだから。慎重に、でもできるだけ急いで城に戻って、馬車でアークスの後を追いましょう!」


書いている時は全く意識していなくて、見直していて気付きましたが、早くて角が付いてそうな虫が居ますね。ボーヤダカラサ...

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