表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/109

51話「リーゼ」

 多種多様な動物、大小様々な木や草が、伸び伸びと息づいている広大な草原。そんな草原を、馬車が優に四台は横に並べるくらいに広い道が貫いている。

 その道は、初めは誰かが一本の草を踏んだことから始まった。その後、周りに集落が出来るにつれて、そこは重大な意味を持つことになった。

 時が経つにつれて、地肌は削られ、道を遮る木は切り倒されていった。広いといっても、大草原の中の一本の道に過ぎない道だが、生態系にも少しは影響を与えた事だろう。

 そんな道には、今では、道の途中、所々にポツポツと、食料や生活用品、飼料等、便利な品物を取り扱っている店も建った。

 草を踏み固めただけの道は舗装され、草を抜いたりの手入れも頻繁にされて、一貫して硬く乾いた土が続く、通行し易い立派な道となった。

 サウスゴールドラッシュ。歴史の中で、交易における重要なルートとして、様々な取引の大動脈となった道を、人はいつからか、そう呼ぶようになった。


 そんなサウスゴールドラッシュを歩くリーゼの、更にその中で、両手に水色の水晶のような物体、リーゼの操作装置を握っているのがアークスだ。アークスとミーナは、魔法によって駆動する人型の巨大兵器「リーゼ」に乗って、サウスゴールドラッシュを進んでいる。


「なんだろうねぇ、最初はどうなることかと思ったけど、なんか穏やかな任務になっちゃったなぁ」

 アークスは、大きな欠伸を一回した。リーゼのコックピットの中に居るとはいえ、リーゼに仕掛けられている魔法効果によって、五感は強化されている。外から小鳥のさえずりは聞こえ、リーゼの隙間からの風も、そよそよと気持ちがいい。

 リーゼの中は、横に長い顔の上部。普通の人間の、丁度目の部分にあたる場所に、横長の覗き穴があるだけだが、外からは、お日様の日差しが降り注いでいて、ポカポカと気持ちよさそうだ。


「いやいや、これからだぴょんよ。アークスは油断するから気を付けた方がいいぴょん」

「え……」

「なに、もう忘れたのかぴょん。モーチョの時、死にかけたぴょんでしょ」

「あ……あれは……確かに……」

 アークスが脇腹をさする。今でも少し違和感を感じるが、魔女の治療後も、ちゃんと王立の医師に検査を受けたが問題無かった。違和感は気のせいなのだろう。


 それにしても、こんな穏やかな場所で、空間のねじれなんて起こっているのだろうか。アークスの頭には、別の任務が浮かぶ。

 みんな、ホーレ事件で右往左往しているに違いない。ホーレ事件は、町が一つ滅びる危険と隣り合わせなのだ。僕はというと、このままでは、結局、いつもの魔女の任務みたいに、退屈な時を過ごして終了してしまうかもしれない。こんな任務をしていていいのだろうか。アークスの頭にもやがかかる。


 アークスは、魔女からの依頼を受け、リーゼを調達して、サウスゴールドラッシュへと出発した。サウスゴールドラッシュ近辺の町へと到着した後は、日が暮れるまで町の人から話を聞いたが、魔女が語っていた以上の情報は得られなかった。

 なので、一泊した後で、とにかくサウスゴールドラッシュをウロウロとしてみようと繰り出したわけだが、予想以上に穏やかな時を過ごしているので、なんだか不安だったり、申しわけなかったりといった感情が浮かんでくるのだ。


「……あれ?」

 レーダーに反応があった。魔法を帯びた硝子板に移っているのは一機だ。

「どうしたぴょん?」

 アークスの様子を察したのか、外でリーゼの手の平に乗っているミーナが、アークスに声をかける。

「いや……レーダーに反応があったんだ」

「ええ!? 異世界の機体ぴょんか?」

「異世界って……」

 漫画等でしか聞き慣れない響きだが、時空の歪みの向こう側から来た機体なら、確かに異世界の機体と言える。


「いや……多分、民間機だと思うけど……」

 異世界の機体がどんなものかは分からない。それどころか存在するのかもわからないが、この世界の識別コードなんて登録している筈も無いだろうから、所属不明機として緑の反応をするだろう。しかし、この機体は黄色だ。

「中立だから、個人所有のじゃない? 裕福な商人さんなんだよ」

 ここはサウスゴールドラッシュだ。富豪が居たところで、珍しい話ではない。


「そうぴょんか……ああ、本当だぴょん」

「ね?」

 ミーナと同時に、アークスも遠くに普通に歩いているリーゼを発見した。二人が納得したのは、そのリーゼの色からだった。全体を金色に包まれたリーゼは、誰がどう見ても、富豪の乗る姿を思い浮かべるだろう。


「うーむ、なんか異常なカラーリングだぴょんね」

「いや、結構、あるらしいよ」

「そうなんだぴょんか」

「うん……」

 いくら富豪とはいえ、全部を金で作ったリーゼなんて聞いたことが無いので、恐らくは金メッキだろう。なので、それほどお金はかかっていなそうだが、注目点は精神的な方だ。リーゼのカラーリングをいじって楽しむというのは、リーゼを個人所有で楽しむ際の、一つの楽しみになっているが、中でも金色は人気なのそうだ。それが富豪ゆえなのかどうかは、はっきりとは分からないが、とにかく、富豪が全体を金に塗ったリーゼで外を歩くということは、それほど珍しいことではないのだ。


「んー……お金持ちの考えることは分からんぴょんね……」

「そうだね」

 アークスは、レーダーを見て、通り過ぎる中立の表示を見送った。


「あの……魔女さんもさ、結構お金持ちだよね」

「ああ、あの部屋ぴょんね」

「何でお金稼いでるの?」

「うん?」

「いや……話せないならいいけど……」

 アークスは、なんだか聞いてはいけない事を聞いたのかと思って、急いで付け足した。


「んー……実はミーナちゃんも、その辺り良く分からないぴょん。聞いたこともないし、お師匠様から離す事なんて無いぴょんし……ああ、でも……」

 ミーナはなにやら考えている様子で少し沈黙した。

 近づいてきていた馬車が、アークスのリーゼを通り過ぎた時、ミーナは口を開いた。

「うん……ほら、お師匠様、新種とか言ってたぴょん」

「言ってたね。最近は新種が沢山発見されてて、それがミーナの言う異世界から、こっちの世界へ来ているかもしれないって」

 新種が沢山発見される理由を探れば、時空が歪んでる証拠も自然と掴める。このサウスゴールドラッシュを探しても何も無ければ、そっちからアプローチするのもありだろう。


「そうそう。その新種なんだぴょんが、あの二つの瓶だけじゃなくて、何やら大量に狩ってるっぽいんだぴょん」

「ええ? 新種をかい?」

「ああ……新種かどうかは分からないんだぴょんが、毎日、結構頻繁に見るんだぴょんよねー。コレクションか何かだぴょんかねー、それも良く分かんないんだぴょんが、結構毎回違ったのを、籠とか瓶とかで持ち歩いてる姿を見ているぴょん。毎日毎日飽きないなーとか思ってたぴょんが、よくよく考えると、あれを売りに出してたりして……」

「ああ……そういう資金調達方法はあるかもね、なるほど、色々とあるんだろうなぁ」

 アークスとミーナは、いつしか魔女について語り始めていた。

ようやくアークスの視点となりました。覚えていればいいのですが……話を覚えてない方は、27話あたりからどうぞ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ