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16話「ミーナのリボン」

「はぁ……はぁ……もう少しだ……」

 アークスの体力は、アークスの予想以上に擦り減っていた。トロールに気を付けるために耳を澄まし、音を立てずに、常に周りを警戒しつつ移動している。また、気持ちも焦っていて、何度も悪い足場に躓いては転びそうになった。それが原因で、アークスは、予想以上に激しい体力の消耗に晒されることになっていた。


「あの花畑も、あいつに間違いないよな……」

 荒い息をしながら、アークスは考えた。あのトロールが土を撒き散らしていたから、あんなに不規則で荒々しい轍が花畑に出来ていたのだ。あれは、あのトロールが力任せに歩いた足跡と、土を蹴散らした事によって出来たものだ。

 アークスは、二つの川の間にある花畑を再び通った時に轍を見て、それを確信した。


「ミーナ……どこに……」

 アークスの頭の中で、魔女の依頼と、ここでの状況がぴったりと合致していた。あのトロールのせいで、ミーナは立ち往生しているか、もしくは……無事ではないかもしれない。死んでしまっている可能性すらあるが……大怪我でもしていたら、すぐにでも病院へと運ばないといけない。アークスは焦る一方だ。


「ん……これは……」

 アークスの目に、見慣れない何かが映った。アークスは、見慣れない何かの元へと小走りで近付いた。

「リボン……」

 薄紫色のリボンが木の枝に引っかかっている。そういえば、魔女が言っていた。ミーナの帽子には、リボンが沢山付いている。

 これがその中の一つなのだろうか。だとしたら、ミーナは無事なのだろうか。

 帽子についているリボンが、それのみ、この木の枝に引っかかっているという事は、ミーナはここを焦って通り過ぎたということか。それとも、うっかりリボンを木の枝に引っ掛けてしまっただけなのか……。


「近くに居るのかな」

 ここにリボンが引っ掛かっているという事は、ミーナがここを通ったという事だ。ここにきて初めてミーナがここに居たという形跡が見つかった。アークスが見逃していなければだが、ミーナの居た形跡は、この川でしか見つかっていない。ミーナはこの近くに居るのかもしれない。

「……」

 アークスは、大声でミーナを呼ぶか迷った。ここでミーナを呼べば、ミーナが見つかるかもしれないが、もしトロールが近くに居た場合、叫び声で気を引いてしまうかもしれない。

 周りを見渡す。前方の木々の間に見え隠れしているのは川だ。あとほんの少しで河原に着くという地点に居る。

 この川は、さっきの川よりも幅が狭く、石が転がっている河原もさっきの川よりも狭くなっている。なので、森を抜けてから川までは、かなり近い。


「魔法の練習なら、さっきの所の方がいいな。火の手が上がりにくい」

 アークスは呟きつつ、辺りを観察する。河原の幅が狭いということは、森の木が多く、障害物が沢山あるということだ。

 この状況は、アークスにとっては有利な状況だ。ミーナは探しにくいが、トロールの視界は狭くなるし、身を隠す場所も多い。

 あんなに派手に暴れているトロールならば、視界が悪くとも音だけで分かる。大きな音を立てながら移動しているのだから、近付いただけで分かるだろう。そこまで考えた時、アークスは気付いた。

「あ……」

 ミーナがここに居る可能性は、更に高まる。ここはトロールから身を隠すためには絶好の場所だ。ミーナはやっぱり、あのトロールに狙われていて……どこをどう通ってきたかは分からないが、ここへと身を隠すことになった。アークスは、そんな推測を思いついた。

「よし……」

 だとすれば、近くにミーナが居る可能性は、かなり高い。そして、あんな大袈裟な音を立てて移動しているトロールが、こんな静かな所の近くに居るわけがない。だったら、ミーナを呼んでみるべきだ。


「ミーナーっ!」

 アークスは叫んだ。アークスの甲高い声が辺りに響き渡る。

「ミーナーっ! 聞こえたら返事してくれー!」

 これだけ叫んでも、特に辺りに変化は訪れない。どうやらトロールは近くには居なさそうだ。

「ミーナーっ!」

 引き続き、トロールの音に注意しながら、ミーナを探すことにする。ミーナを探すのには、むしろ今が一番のチャンスだ。

「ミーナ……むぐっ!?」

 突然、何者かがアークスの口を手で押さえた。

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