11話「ブラッディガーゴイル」
「いや、野生のブラッディガーゴイルが、こんな所に居るわけないでしょ。使役か、それとも召喚か……
」
サフィーもそれがブラッディガーゴイルだと分かっている。身体的な特徴もさることなっがら、威嚇しているかのような前屈みの姿勢は特徴的だ。
ブラッディガーゴイルは手足が地面に付いているので、一見、四足歩行に見える。しかし、二本の足で、前屈みに立っているだけで、長い手はだらりと垂れ下げて、地面に添えてあるだけだ。
ブラッディガーゴイル本人にしてみれば、それが自然な姿勢なのだろう。しかし、人の目から見ると、その過度に前屈みな体勢は、前に立つあらゆるものを威嚇しているように見える。
「……もし、このホーレ町をこんな風にした誰かと同一人物だったら、魔獣使いの類が、こんな大規模な事が出来るとは思えないから召喚の可能性が高いけど……」
「まー、なんともいえんわな。魔獣使いだって、使役しているクリーチャーの種類によっては、下手な魔法使いより大規模に出来るだろ」
「ええ。それに、他の可能性だってある。今の段階で、どんな奴の仕業だかを絞ろうとするのは性急かもしれないわね……てか、ブリーツ」
ブリーツの方を、サフィーはきょとんとした様子で、じーっと見ている。そんなサフィーの様子を見て、ブリーツは思わずたじろぎつつ、「え?」という疑問形が思わず口から出た。
「いえ……珍しく真面目に返されたと思って……」
「ああ……って、そんな天然記念物でも見るような目で見なくても……」
「だって、それくらい珍しいんですもの。そうやって真面目にやれるんだったら、いつも真面目に……っと!」
サフィーが横に飛び退いた。
「うわっ!」
ブリーツの目の前で爆発が起きる。ブリーツは驚いたのと、爆風の影響で後ろに倒れ、尻餅をついた。
「何やってんの! ああいうのは簡単な魔法くらい使えるって知ってるでしょ!」
サフィーが檄を飛ばしながら剣を構え、ブラッディガーゴイルへと向かっていく。
「いや、俺、魔法使いだから、戦士の……その中でも凄腕のサフィーの反射神経と比べてもらっちゃ困るぜ、全く」
「何で偉そうなのよ!」
サフィーが左腕の剣でブラッディガーゴイルに斬りかかる。ブラッディガーゴイルは、それを爪ではじき返した――かのように、ブリーツには見えたが、すぐにそうではないことが分かった。サフィーはわざと、左手で斬りつけるかのようなそぶりをしてフェイントをかけたのだ。
そんなサフィーに、間髪入れず、ブラッディガーゴイルは弾かれていない方の右手の爪で攻撃をした。
サフィーはそれを、右足を右に大きく開いて、体も右側にずらしつつ屈んでかわすと、重心は低いままで、大きく体を左に戻す。そして、その勢いを利用して、両方の日本の剣でブラッディガーゴイルを横に斬りつけた。
「がぁぁぁ!」
ブラッディガーゴイルは、人がおよそ発することのできない悲鳴を上げて、その場に倒れ込んだ。
「おおー、楽勝じゃん、サフィー」
「いえ……手強いわ。これだけの数を相手にするとなるとね」
サフィーとブリーツは、いつの間にか何体ものブラッディガーゴイルに囲まれていた。
「……何体居ると思う?」
「ざっと十いくつかじゃないか?」
「ええ。これだけの数、気付かなかったとはね」
「建物の影にでも隠れてたか……新たに呼び出したか」
「召喚なら、術者が近くで息を潜めていれば可能でしょうね。こちらに聞こえないくらいの声で魔法を唱えたか、ノンキャスト詠唱かは……戦ってみればわかるか……!」
サフィーが先ほどと同じように、ブラッディガーゴイルの正面から斬りかかっていく。
サフィーが狙いを定めたブラッディガーゴイルは、右の手の平をサフィーの方へと向け、火球を放った。
「……!」
サフィーには、ブラッディガーゴイルが魔法を使うことが、手の平を向けられた時点で分かっていた。なのでサフィーは軽く左へと跳ぶだけで、それを回避した。
「はぁぁぁ!」
サフィーはそのまま直進し続け――ブラッディガーゴイルとのすれ違いざまに、二本の剣でブラッディガーゴイルの胴を斬りつけた。
「がぁぁぁ!」
先ほどのブラッディガーゴイルと同じ悲鳴を発しながら、今斬りつけたブラッディガーゴイルも倒れた。
「ぐ……!」
サフィーは左右から同時に爪で攻撃してくる二体のブラッディガーゴイルの爪を、二本の刀でそれぞれ受け止めた。
「くっ……この力は……うわあっ!」
更に、後ろから別のブラッディガーゴイルの放った火球が、サフィーの背中に直撃する。
「くそ……はぁぁっ!」
ブラッディガーゴイルの力を片腕で弾き返すのは、さすがのサフィーでも無理だ。サフィーは右側のガーゴイルの爪を受け流すと、左側のガーゴイルの腕を二本の剣で無理矢理に押し上げ、そのまま腕の下をくぐった。
「ぐぅ……!」
今まさにくぐった腕の爪で、背中を抉られたサフィーは思わず呻き声をあげた。しかし、これは計算のうちだ。
右側のガーゴイルから距離を取れるし、左側のガーゴイルが壁になっているので魔法の脅威にも晒されない。この状況を作り出すためならば、一発をもらうリスクは飲むしかなかった。
「てやぁっ!」
振り向きざまにブラッディガーゴイルに一太刀を浴びせる。そのブラッディガーゴイルは地に伏した。
「はぁぁっ!」
接近してきたブラッディガーゴイルにも、振り向きざまに逆袈裟に斬りつける。
「……!」
浅かった。ブラッディガーゴイルの胸からは緑色の血が滴っているが、ブラッディガーゴイルはそれを気にもしない様子で、自らの鋭い爪を振り上げている。
(間に合わない……!)
剣でガードしようと思ったが、剣を大きく振り抜いた後では、それも無理だ。次の瞬間には、あの爪で胸を深く抉り取られるだろうということは、サフィーの目には明らかだった。




