大捕物 ②
それから、俺達は勇者一行を訓練所に集めた。情報の漏洩の恐れを考え、総司令の命で勇者一行の訓練は訓練所を貸し切る事になっている。
「それでは早速だが、お前らの適正テストを行う。最初は基礎体力からだ。」
元気良く答えたのは、やはりアーデとミシェルのみ。
リテルは俺が見ると気まずそうに目を伏せてしまう。
リリはミシェルしか見ていないし、クリアは気だるそうに髪をいじっている。
この先、不安だ。
案の定、基礎体力は酷いものだった。
アーデは、勢いのみ。体力、筋力共に平均以下だ。
ミシェルは、常にから回る。体力・筋力は平均くらい。
リテルは、予想通り。5メートル走れば息切れ。
弓は5センチも引く事も出来なかった。
リリは、ミシェルの応援しかせず、測定不能。
クリアは、全て適当。測定不能。
「・・・。」
結果を見る俺達は一言も喋る気力が出なかった。
「次は、属性検査と潜在魔力を調べる。」
この検査では、意外な結果が出た。
アーデは、属性が風。潜在魔力はCランク。
ミシェルは、属性がアーデと同じ風。潜在魔力はDランク。
リテルは、属性が光。潜在魔力はFランク。
リリは、属性が凍火。潜在魔力はAランク。
クリアは、属性が水。潜在魔力はBランク。
アーデとミシェルは二人とも風属性とまさかのカブり。
リテルは光で納得だ。
リリは闇の精霊群だったとは・・・良く光の精霊に選ばれたものだ。
クリアは水か、まぁ普通だな。
一番驚かされたのは、アーデの潜在魔力がCランクで、クリアがなんとBランクだという事だ。
ランクは、上からA・B・C・D・E・Fと6段階に区分されている。
基本的に精霊術師の適正があるのは上位3つ。A・B・Cだ。
リリは当然だとしても、アーデとクリアに精霊術師の適正があるとは思いもよらなかった。
残念ながらミシェルとリテルには適正は無いと判断出来る。
リテルはその結果が相当ショックだったようで、ついには泣き出してしまった。
「グリム。ちょっとリテルを頼む。」
小声で言うとグリムは頷いた。
適正テストの結果から分かる様に、今は少しの時間も無駄には出来ない。
リテルには悪いが、慰めている時間は無いのだ。
グリムに連れられ部屋を出て行くリテルの後姿をアーデが不安そうに見ていた。
「早速だがこれから訓練を始める。アーデ、こっちに集中しろ。」
「あの・・・いえ・・・はい。」
アーデは何か言いたそうだったが俺の視線に渋々頷いた。
おそらくはリテルに付いて行きたいと思っているのだろうが、こいつらには少し自立してもらわないと困る。
訓練は、初日という事もあり、少し軽めに行った。
最初はやっぱり走り込みと筋力トレーニング。
リテルも戻ると途中から参加し休み休みだが頑張っていた。
リリは、ほぼ散歩状態。クリアが意外にもついて来ていた事に驚いた。
それから、剣術・弓術の基礎訓練。
予定通り俺とバッガスの指導の下アーデとミシェルが剣術を、グリムの指導の下リテルとクリアが弓術の訓練を行った。
リリはその時間、やはりミシェルの応援に精を出していた。
俺はリリに気が散るから図書室へ行く様に指示したが完全に無視された。
手に負えない子供だ。
創生の賢者の子孫が聞いて呆れる。
夕方。
訓練も一通り終わり、ヘトヘトで立つことが出来ない4人と眠そうにアクビをしている一人。
「つ・・・疲れた・・・。」
そう言うアーデは訓練所の床に大の字で転がっている。
「もう無理。毎日訓練なんて有りえないわよ。こんなのバッカじゃないの。」
椅子に座り机に突っ伏しているクリアがぼやいている。
リテルは無言のままアーデの横でうつ伏せに倒れている。
肩が上下に動いているところを見ると、とりあえず息はしているから大丈夫そうだ。
「ねぇねぇミシェルゥ~。あたしお腹空いちゃった。夕食はパスタが食べたいなぁ。」
リリの言葉。
もし俺がミシェルだったら引っ叩いているだろうが、彼は違った。
「パスタか。僕も食べたいと思ってたよ。」
疲れで重い体を起こすとリリに微笑んだ。
よっぽどリリが好きなのだろう。
だが、リリの方はミシェルを思いやっている様には全く見えない。
尻に敷かれるというよりも、都合の良い男って感じだな。
「お前ら。明日も早いから飯食ったら寄り道しないで、さっさと帰るんだぞ。」
疲れて寄り道どころじゃないだろうが、一応言っておいた。
すると、アーデが起き上がりフラフラと俺の前までやってきた。
「メイアス隊長補佐さん!今日はありがとうございました!」
アーデはそう言うと敬礼をした。
まぁこいつのこういうところ暑苦しいは憎めないな。
「俺、なんだか強くなった気がします!」
アーデは、両手の拳を握り締め満面の笑みを向けてきた。
「おいおい。初日から気が早いな。まだまだこれから強くなっていくんだ。」
俺の言葉にアーデは目を輝かせて大きく頷いた。
「そろそろ冒険に出たいです!」
アーデがハッキリと言い切る。
「え?」
俺は思わず固まる。
ちょっと待て。こいつは本気で言っているのか?
「おいおい。お前は何言ってんだ。今日始めたのにそろそろって話があるか?お前らの実力じゃ2ヶ月は基礎訓練が必要だ。」
俺の言葉にアーデはガックリと肩を落とした。
やはりアーデは考えが甘い。
だいたい、2ヶ月でも難しいかも知れないというのに。
「失礼します。」
突然滑舌の良い女性の声が訓練所に響いた。
皆が一斉に振り向いた先には、謎の人物シユウ・サイシュタットが立っていた。
「丁度皆様もお揃いの様ですので、私から依頼についてお話いたします。」
シユウは、まるで機械人形の様に一定の歩幅に一定の速度で背筋をピンと伸ばし、皆が見える位置まで歩いてきた。
「まずは依頼書の分類結果をお知らせ致します。」
そう言うと、綴じられた書類の表紙を捲った。結構分厚い書類だ。
この短時間であの依頼書の山を纏めたって事か。一体何者なんだ。
「最初に、現時点で依頼が可能か不可能かで分類致しました。結果、依頼総数五万とび三百十二件。可能依頼は、その内2件。残り五万とび三百十件は、現時点で依頼達成不可能と判断致しました。」
シユウはスラスラと読み上げるとページを捲った。
「続きまして、可能依頼についてお話致します。」
その言葉にアーデが目を輝かせる。
しかし、可能依頼が2件もあった事が驚きだ。
アーデには悪いが、どうせ大した依頼ではないだろう。
「一つ目は、フィザリ王国で行われるトンカン祭りのパレードの参加依頼です。トンカン祭りとは、鉱石採掘が盛んなフェザリ王国の伝統的な祭りです。トンカンというのは、採掘する時の音が語源だそうです。」
アーデはガックリと肩を落とした。まぁこんなもんだろう。
「二つ目は、ノン国から依頼です。内容は、近くのゴズ砂漠に大量発生したバジリスクの退治依頼です。」
アーデが思わず立ち上がる。
「退治依頼!やりましょう!ね?メイアス隊長補佐さん!」
アーデが握り締めた拳を震わせ、熱い瞳でこっちを見てくる。
「ちょっと待て。確かにバジリスク退治はそんな難しいもんじゃない。だからと言って、まだまだ危険が大きすぎる。」
俺は、興奮するアーデを椅子に座るように促した。
「バジリスクは、小型だが猛毒を持っているし、しかも、やつらの毒は視覚毒で、目が合っただけで即死だぞ。」
俺の言葉に、隣で聴いていたグリムが大きく頷く。
「そうよ。解毒に必要なヘンルーダも魔王の黒雲のせいで採れなくなっちゃってるし。」
グリムが俺に賛同する。確かに言うとおりヘンルーダは必要不可欠だ。
「心配要りません。ヘンルーダはこちらで用意しております。」
シユウがさらりと答えた。
「用意って、まさか・・・。」
嫌な予感がする。
「はい。3日後。特務部隊初任務「バジリスク退治」に向かっていただきます。」




