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竜殺し ①

鬱蒼と茂る木々の間から青空が見えている。

俺は巨大な木の根の間に挟まり、その空を眺めていた。


「・・・うおぁ!」


一瞬、意識が飛んでいた。

俺は起き上がり辺りを見回す。


「俺、あれ?あいつは?」


一緒に飛行船から飛び降りたメガネ男が見当たらない。

ここはワイズランド領の山奥。

見回す限り木々と蔦、その間から指す光は薄暗い森の中を点々と照らす。

そうだ。

アーデやリテル。

マリウスが一緒にいるはずだ。


「どこだ・・・。」


俺はヒンヤリとした木の根を掴み立ち上がる。


パキッ


静まり返った森の中に、突然、何処からか木の枝を踏み折る音が鳴る。


「誰だ!」


俺は身構え、手探りで腰に装備していたはずのナイフを探す。

無い・・・くそ、落としたか。

すると真後ろから湿った土を踏む音が聞こえ、俺は飛び退いた。


「ここにいましたか。」


そこに居たのは甲板に居たメガネ男では無く、メガネの女性・・・いや、男性?


「シ、シユウさん!」


シユウ・サイシュタットはボロボロの服で立っていた。


「え?あんた大丈夫か!?そ、その背中・・・!」


木の根を越えて来ようとするシユウの背中が見えて、俺は絶句した。

服の背は他と比べ物にならないくらいにボロボロで、血で赤く染まっていた。


「くそッ!」


治療出来る様な持ち物も無い。


マリウスとリテルが居れば・・・!


「シユウさん。あんたはここで休んでいてくれ!マリウスとリテルを探してくる。きっと近くにいるはずだ!」


しかし、シユウは駆け出そうとする俺の腕を掴む。


「大丈夫です。見た目より軽傷ですから。」

「いや、でも!」


慌てる俺をシユウが見上げる。

相変わらず表情の乏しいその顔からは痛みも焦りも感じない。


「・・・本当に大丈夫か?」

「はい。」


そう言って、俺に背を見せる。

確かに、服は裂け血が滲んでいるが、傷は小さな切り傷がいくつかあるくらいだ。

何か着せてやれる服があれば良かったのだが。


「すまない。持ち物は全部・・・。」


飛行船と一緒に吹き飛んだ。


「賊が空から来るとは想定外でしたし、あの時は命と荷物を天秤にかける状況では無かったので。」


シユウは淡々と話す。


「それよりも先に落ちたアーデ隊長達を探しましょう。マリウスさんがいてくれて助かりました。私はメイアス隊長補佐を抱えるだけで手一杯でしたから。」

「ああ、すまない・・・・え?」


まさか・・・。

有り得ない事でも状況が合致すると言葉に出て来ない。

怪我の状態、容姿や衣服の酷似、言動。


「ん・・・えっと・・・アレが・・・?」


恐る恐るシユウを指差す。


「私です。」


俺は開いた口が締まらないまま、ゆっくり頷いた。


「アレが・・・。」


思わず同じ事を呟く。


「アレが私です。」


どういう事だ!

俺が何も言えないでいると、シユウは面倒くさそうに小さく息を吐く。


「見た方が早いですね。」


え?見んの?


「えっと、私が―。」


シユウがそう言うと、一瞬で背が伸び、髪が短くなると髪留めがピョンと飛ぶ。

急に体積が増えたせいで、着ていたシャツが隆起した胸筋で張り、パンっと音が鳴る。


「―こうなります。」


・・・・。


「もう一度やりますね。まず私が―」


そう言うと一瞬で小さくなり、また大きくなる。


パンッ


シャツが鳴る。


「―こうです。」


・・・・え?


「私が―」


パンッ


「―こう。」

「わかります?私が―」

「もう良い!」


さすがにもう見なくていい。

目の前で何度も大きくなったり小さくなったりを繰り返されると目が回る。

大小の差は頭3個分くらいだろうか。

それに大きさだけでは無い、明らかに性別が変わっていた。


「あ、あんた、何者?」


恐る恐る尋ねると、シユウは飛んだ髪留めを付け、俺に向き直る。


「一応、人間です。呪われていますが。」

「の、呪い?」


シユウは、いつも以上に鋭い視線で俺を見詰める。


「・・・歩きながら説明します。」


そう言うと俺に先へ行くように促した。



俺はアーデ達を探し、森を歩きながらシユウの話に耳を傾けた。


「私達一族、サイシュタット家は昔、一人の男のせいで呪いを受けました。その男の名前はフロン・サイシュタット。私達の先祖です。フロンは、男性として生まれましたが心は女性でした。心も体も女性になりたいと強く望んだフロンは、魔法でどうにかならないかと考えました。」


1メートル程の段差にぶつかり、俺は先に上ると手を伸ばす。

シユウは話を止め、軽く会釈すると俺の手を掴んだ。


「それから、研究に研究を重ね―」

「魔法を完成させた?」


俺がそう口を挟むとシユウは首を横に振る。


「研究を重ねましたが、成果は得られませんでした。その苦悩の中、フロンは暴挙に出たのです。」

「暴挙?」


俺が聞き返すとシユウは足を止め小さくため息をついた。


「強い呪いが溶けた泉の水に、闇雲に魔法を加え、自分で飲んだのです。」

「呪いが溶けた泉?」


シユウは再び歩き始めると、俺の前を行く。


「恋人にフラれた女性が身投げしたと伝説の残る泉の水です。」

「おぉ・・・それは・・・なかなか・・・でも、なんでそんな水を?」


シユウは振り向かずに答える。


「解りません。女性の怨念に力があると思ったのでしょうか。私も聞けるなら本人に訊きたいです。」


女性の怨念・・・ある気がする・・・力。


「それで、どうなったんだ?」


シユウは再び足を止め、クルリと振り返る。


「フロンは、見事女性の体を手に入れました。」

「え!まじでか!」

「呪いと一緒にですが。」

「・・・まじか。」


シユウは肩をすくめ、木々を見上げる。


「フロンは最初、呪いと魔法が混じった事には気が付かなかった様です。」


そう言い、またクルリと振り返り歩き出す。


「その後、フロンは思いを寄せた男性と結婚し、女の子が産まれました。しかし、異変はすぐに現れました。物心もつかないその子はフロンの目の前でコロコロ性別を変えたそうです。それ以降、私達サイシュタット家は両方の性を持つ事になったのです。」

「そうだったのか・・・。」


俺がそう呟くと、シユウは振り返り、後ろ向きに歩く。


「迷惑な話です。望んでも叶わないと嘆く人もいるのに、私はどっちにもなれる。どっちでも無いとも言えますが―ワッ」


後ろ向きに歩くものだから木の根につまずきバランスを崩してしまった。

俺は素早くシユウの手を取り支える。


「ありきたりな言葉だけど、あんたはあんただよシユウさん。人は突き詰めれば、どいつも個性的なもんだ。」


シユウは俺を見上げる。

その表情は、笑みとは言えないが少し和らいだ様に感じた。


「あ・・・そうだ、アムも・・・?」

「ですね。」


アムが、女に・・・ん?


「アイツ、なんで女にならないんだ?」

「兄曰く、これが自分だから。だそうです。」


なんか、まぁ納得。


「兄は、産まれが女性でした。自分の性について相当悩んでたみたいです。ちなみに私の産まれは男性ですが、しっくり来ないので普段は女性でいます。」

「ああ、それで弟か。」

「兄は説明不足過ぎるんです。」


アイツに説明されても、きっと混乱してただろうな。

ふむ・・・。

世の中って不思議が一杯だ・・・。

木々の間から差し込む日差しが、神秘的に見え、俺は目を細める。

そんな何かに浸る俺を、シユウは訝しげに見上げる。


「・・・ところで、メイアス隊長補佐。」

「ん?てか、メイアスで良いよ。」


シユウは小さく頷く。


「メイアスさん。焦げ臭くないですか?」


え!?


「本当だ・・・!」


いつの間にか、周囲にはツンとする匂いと共に薄らと煙が漂っていた。


「向こうからの様です。」


シユウの指差す方を見ると、濃い煙が木々を飲み込みながら近づいてくる。


「山火事!?飛行船か!?」


落ちた飛行船の火が森に広がったのか!?


「どうでしょうか・・・私の覚えている限り飛行船は空中で爆散したはずです。それに方向が違います。そうです・・・ここはもうワイズランドに近いはず。そして、この近く、この向こうにあるのは確か・・・貴族の別荘地。」


貴族の別荘地?

わざわざこんな山の中に・・・金持ちは何考えてるんだかわからんな。


「とにかく向かってみよう!」

読んでいただき有難うございます。

次回、炎の中でメイアスが見たものは・・・。

次話も読んでいただけたら幸いです。

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