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ワイズランド ①

薄暗い何処か。

朦朧とする意識の中、声が聴こえてくる。


「・・・面白い。苦しみ生きてみせよ。約束の・・・。」


ん・・・誰だ?

そいつはこちらに向かってゆっくりと手を伸ばす。

次の瞬間、少年の叫び声がして、目が覚めた。


俺は、ゆっくりと体を起こす。

ここは、ノン国にある仮設の治療所だ。

あの惨劇から2日目の朝。

集中治療室で眠り続けてた俺は、痛む体をゆっくりと動かし解していく。

窓の外からは青空が見え、復旧へ向かう音や声が聴こえてきた。

魔法のおかげで外傷は塞がり出血は止まっている。

だが、魔法に出来るのは、とりあえず元に戻すのみ。

無理に動けば傷はまた開いてしまう。

最高級の応急処置というところだろう。

あれだけ酷い俺の傷を治すのに、どれだけの魔力が必要だったか。

かなり優遇してくれたのだろう。

それにしても、悲しい戦いだったな。

魔人ポレーとの戦いを思い出す。

何一つ得る物の無い戦い。

窓の外に見える青空があまりに綺麗で目頭が熱くなる。


「・・・悲しいぜ。」


そう呟き、遠くを見詰める。

すると、窓とは逆方向から視線を感じ、驚いて顔を向ける。


「うあ!な、あ・・・あんた。」


俺の浸りきった一部始終を、気配すら感じさせずに一人の女性がじっと見詰めていた。


「シ、シユウ・・・さん。」


シユウ・サイシュタットは無言のままこくりと頷く。


「いつから・・・?」


俺の問いにシユウは眼鏡をグイと上げ、持っていた分厚い書類の束を差し出す。


「え・・・こ、これは?」


俺は混乱する頭のまま書類の束を受け取る。

そこで、やっとシユウが口を開いた。


「貴方が目を覚ます30分程前から居ました。これは今後の日程、依頼内容、予算です。必ず目を通しておいてください。それから、今回の件、予定から大幅に変更を余儀なくされましたがバジリスク退治依頼は完了です。討伐軍総司令及び依頼主である現ノン国国王ラーリ・ゼイオ様にはすでに報告済みです。なお、特務部隊に届いた大多数の依頼は勇者一行が就く必要性の無い依頼と考えられますので代わりに討伐軍第一部隊が遂行する事となりました。」


相変わらずの口調で一気に話し終わると立ち上がり、一礼をして立ち去ろうと振り返る。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。」


当然、俺は呼び止めた。

色々と気になる点が多すぎる。


「なにか?」


シユウは無表情のまま振り向く。


「いや、ほら、えっと・・・。」


展開の速さに寝起きの頭が追いつかない。

シユウの眉間にシワが寄る。

苦手なタイプだ・・・。


「依頼は・・・。」


慌てて受け取った資料をめくる。


「よ、予定通り・・・か。」


時系列を指でなぞる。


「明日、出発・・・ワイズランド・・・。」


シユウはこくりと頷く。

容赦ねぇな。

この事態にも関わらず日程の変更は無いのか。


「でも、ノン国の復旧の手伝いとか―。」

「王都ルースからの支援物資は先日中に届いています。討伐軍も支援に向かっており、本日到着予定です。それに、今朝早くには隣国ワイズランドより騎士団長ジニアス様が団員二千人を連れ、ここに到着しており、すでに各市街地の復旧、避難者の支援や仮設住宅の建築を行っております。よって、我々は速やかに任務へ戻る事が出来ます。」


シユウの早口から発せられる言葉が頭の中をグルグル回る。


「え、あ・・・そう。あ!国王にラーリ上官が?確かロハス様が―。」

「はい。ラーリ国王の申し出によるものと聞いておいりますが、詳しくは知りません。」

「そ・・・そう、ですか。」

「私、用事がありますので、これで失礼します。今日は明日の出発に備えてください。明朝日の出と共に出発致します。」


もう呼び止める隙も無く、あっという間にシユウは部屋を出て行った。

静かな様で嵐の様な人だな・・・。

おかげで頭がだいぶ冴えてきた。


「ちょっと出るか。」


俺は簡単に着替えを済ますと治療所を出た。

日の光の眩しさに目を細める。


「あ!メイアス!」


突然声を掛けられ振り向くと、そこには花を持ったグリムが立っていた。


「やっと起きた~。どんだけ寝るのか心配したよ~。」


グリムは嬉しそうに耳を動かす。


「寝すぎて体いてぇけどな。その花、俺の見舞いか?」


そういえば部屋に花瓶があったな。


「あ~そうそう。なんか、むさ苦しいおっさんが寝てるだけだと絵面がさ~。」

「絵面ってなんだよ。」


グリムは俺の顔の横に花が来るように腕を突き出し目を細める。


「ん~安らかって感じ。」


こいつ馬鹿にしてるな。


「まだ死んでねぇから。」


そう言う俺の顔を見てグリムがニヤリとする。


「あ、そうだ。イシャルティさんがメイアス探してたよ。」

「イシャルティが?」


良かった。

イシャルティも無事だったか。


「どこにいる?」


グリムは花を持ったまま腕を組み、首を捻る。


「えっと、確か・・・ん~まぁ付いて来て。」


こいつは方向音痴じゃないが場所の名前を全く覚えない奴だった。

グリムはくるりと振り向くと尻尾を振りながら歩き出した。


「そういや皆は?」


歩きながら俺は尋ねた。


「んと、バッガスはタミンさんと一緒に復旧作業~。あの二人はなぁんか似てるよね~。見た目とは違って人が良い感じ。それと~アーデ君達はマリウス君と宿屋にいるよ~。」


グリムは持った花を振り回しながら歩く。

てか、見た目とは違うとか、聞いたら怒るぞ。


「マリウスとアーデ達は宿屋か。」


復旧作業手伝えよ。


「うん。なんかアーデ君達、すっかりマリウス君の魔導機に興味津々でさ。」


ああ。クリアが使っていた弓とかか。


「そんでね。どうしても自分たちも使いたいぃ~って。」

「確かに、扱えるなら大幅に戦力増強になるな。」


腕を組み頷く俺の顔を、くるりと振り返ったグリムがニヤニヤ見てくる。


「なんだよ。」


こういう顔のこいつは面倒くさい。


「あんたさ。メイって呼ばれてたんだ。」


マリウスの事か。


「子供の頃そう呼んでたからな。」

「んで、あんたはマーって呼んでたんだ。」


何が楽しい話なのか、グリムが鼻の穴を広げ子供染みた顔をする。


「そういうもんだろうよ。子供の頃とかって。」

「ぷー!メイとマーとかって、かっわいいの!」


俺には女の言う男の可愛いってのが良く解らない。


「ねぇねぇあたしもそう呼んで良い?」

「断る。」


くだらない話をしている内に俺達はノン国軍の仮設テント前に辿り着いた。


「ここ、ここ~。」


グリムがそう指差すとほぼ同時にテントからイシャルティが出て来た。


「あ!グリムさん。・・・メイアスさん!」


イシャルティは駆け寄り俺の手を強く握り締めた。


「お体は大丈夫ですか?あまり無理なさらないで下さい。」


自分の周りに変な奴らが多いせいか、イシャルティの真面目さが身に沁みる。

イシャルティは俺達をテント内の一角にある個室へ通した。


「メイアスさん。改めて、ノン国を救ってくださり、本当にありがとうございます!」


椅子に座った俺達の前でイシャルティは深々と頭を下げた。

俺は慌てて立ち上がる。


「やめてください。あの時戦っていたのは俺だけじゃない。俺はただ―。」


イシャルティの目から落ちる大粒の涙に、俺は言葉を止め、彼の肩にそっと手を置いた。

それから俺達は椅子に座り、出された紅茶を一口飲み、落ち着いたところで話始めた。


「メイアスさんにどうしてもお聞きしなければならないのは、ポレー国王の事です。」


イシャルティは真剣な眼差しで俺を見詰める。


「ホントはもう一人お呼びしたかったのですが、まさかメイアスさんから来ていただけると思っていなかったものですから。」

「もう一人?」


俺の代わりにグリムが訊く。


「はい。隣国ワイズランドのジニアス騎士団長です。」


そう言えばシユウが来ていると言っていたな。


「今、手の空いている者に呼びに行かせたのですが、ジニアス様は率先して復旧作業にあたってくださってまして―。」


イシャルティが言い終わる前に、個室の仕切り布が吹き飛んだかと思う勢いで開くと大柄の男が飛び込んできた。


「目が覚めましたかメイアス殿!いやはや、この間お会いしたばかりだと言うのに、さらに武勲をあげましたな!」


男は大声でそう言うと、さらに大きくガハハと笑った。


「お久しぶりです。ジニアス騎士団長。」


俺達は立ち上がり一礼をすると、ジニアスも体に似合わず丁寧に一礼をした。


「ジニアス様。お呼び立てして申し訳ありません。どうぞお掛け下さい。」


イシャルティに促されジニアスは豪快に椅子に座る。

その激しい一挙一動の度、グリムの尻尾の毛が膨らむ。


「それでは、改めてメイアスさん。ポレー国王の最期を、お聞かせ下さい。」

読んでいただき有難うございます。

次回、ワイズランドへ向かおうとするメイアスの前にある男?が・・・

次話も読んでいただけたら幸いです。

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