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夜明け ②

遠くで声が聴こえる。

その声は俺に語りかけてくる。


「お前のその目も、その耳も、その口も、その鼻、手も、足も、そして、その魂も、全て、私の物。」


なんだこいつ?

人の事をなんだと?

偉そうに・・・。


「・・・そんな事、させないぞ!」


・・・マリウス?

子供の頃のマリウスが見える。

誰と話ししているんだ?

おい、マリウス。

おい・・・。


「おい!メイアス!」


目を開けると、そこに鋭い牙とゴツい顔が覗いていた。


「気がついたか!お前は我に来世まで借りを返し続けたいのか?」

「は・・・はは・・・バッガス、そりゃ勘弁だ。」


気付けば俺は、バッガスの硬い膝枕で横になっていた。


「お前の膝枕なんて気持ちわりぃな・・・くっ・・・うぅ。」


体を起こすと全身が砕けた様な痛み。

苦痛で細めた目に街の明かりが見える。


「ここは・・・。」


街の端。

堀にそって作られた広場の様だ。


「そうだ!皆がっ・・・ぐっ痛ってぇ・・・。」

「待て。今―。」


バッガスがそう言いかけると、急ぐ小さな足音が近付いてきた。


「メイアスさん!」


息を切らしたリテルが傍に座り、俺の体にそっと触れる。


「リテル・・・。」

「い、今、傷の手当てを、します!」


背負っていた大きめの鞄を開け、中から薬の瓶や包帯を取り出した。


「しみます!」


言うと同時に薬品を俺にぶっかける。


「ぐっ!」


しみると言うか焼ける感じだ。

リテルが懸命に俺の手当てをしてくれている間、バッガスに状況を訊く。


「城は、皆は、どうなってる?」


バッガスは首を横に振る。


「わからぬ。見える限り、城の最上階は崩れ、無くなっている様だ。あそこに皆が居たのならば・・・・。」


バッガスは言葉に詰まる。


「いや、グリムとマリウスがいる。二人ならなんとかするさ。」


そうに決まっている。


「それより、なんで俺がここにいることが?」


真夜中に吹っ飛ばされた俺を見付けてくれるなんて幸運どころじゃない。


「タミンさんが、見付けてくれました。」


俺の左腕を包帯でグルグル巻にしながらリテルが言う。


「タミンが?」


そのタミンの姿が見えない。


「タミンは、貴族の避難を率先して行っている。何度も往復していた様だ。偶然この付近を通りかかった時に、城が爆発して、堀に何かが落ちたと、人の可能性があると、我のところへ駆け込んできたのだ。」

「よく人って解ったな。」

「奴は、ホビットの混血だ。ホビットは匂いに敏感だからな。」


ああ、それであんな小さいのか。


「我らがここへ着くと、お前が浮かんでいた。という訳だ。」

「浮かんでた・・・。」


てっきり底に沈んだと思っていた。


「タミンは、他の貴族がまだ待っていると、お前を我らに託し、避難の助けを続けている。」


良いおっさんだな。タミンは。

不格好だがリテルの手当は終わった。

良い子だな。リテルも。


「リテル。ありがとう。おや・・なんかもう治ったかも知れないな!」


体を大きく動かしてみせる。

痛ってぇ・・・。

けど。


「すっげぇ楽になったぞ!」


俺が笑顔で頭を撫でると、リテルは不安そうだが少し微笑んだ。


「あの、アーデは・・・?」


そうだ。

のんびりなんてしてられない。


「大丈夫だ。グリムもマリウスも付いているし、俺もすぐに向かうからな!」


不安で泣き出しそうなリテルの頭をグシャグシャ撫でる。


「・・・はい。」


リテルは小さく頷いた。


「よし!すぐに城へ向かうぞ。バッガス!」

「ああ!すぐに―」


バッガスが言いかけて、急に顔を上げ、空を睨んだ。


「どうした?」


俺も目を細め、空を見上げる。

月が、ゆっくりと消えていく。


「なんだ!?」


いや、消えているんじゃない!

闇夜を、さらに真っ黒な雲が覆い始めているのだ。


「冗談じゃねぇ・・・。」


その黒雲は、まるで魔王の黒雲だった。


「旦那ぁ!メイアスの旦那ぁぁぁぁ!」


突然、俺の名を叫びながらタミンの運転する魔導車が物凄いスピードで走ってきた。


「タミン!」


魔導車は俺達の目の前で急停止すると、車体が反動で大きく傾く。

それを間一髪、倒れる前にバッガスが押さえ元に戻した。


「旦那!無事でしたか!?私は、てっきり死んじまったんじゃねぇかって気が気じゃぁ無かったんでさぁ!なんせ、あんなたっけぇとこから落っこちて来るもんですから、そりゃ無事じゃあいらんねぇと―」

「待て待て!落ち着けタミン。」


緊急事態なのに相変わらずお喋り能力全開のタミンを静止させる。


「す、すいやせん・・・。あ!旦那!それどころじゃありやせん!街に、街に魔物が!」


それを早く言え!


「どこだ!」


俺はタミンの肩を掴み、大きく揺さぶる。


「そ、そ、そ・・・。」


そ・・・?


「そこに!」


タミンの指差す方へ振り向くと、そこには暗闇に赤く光る目がいくつも浮かんでいた。

どこからともなく現れた奴らは、こちらへ近づいてくる。

街明かりに照らされ、その正体が明らかとなった。


「魔族!」


魔族。

戦いや殺戮を好み、支配する事を喜びとする種族達の総称。

世界中に多数の種族が存在していて、魔王を崇拝しているが、隙があれば魔王の座を奪おうと種族間での争いが堪えない。


「しかも、フォモールか・・・。」


魔族の中でも巨人の血を引いていて、大きな体に人とも獣ともつかない頭部。好戦的でまともな話が出来る相手じゃない。

黒雲に魔族。

まるで魔王の再来か・・・。


「メイアス!」


バッガスが見る間に大熊へ変わる。


「ここは我に任せろ!お前は城へ向かえ!」


そう言い俺を大きな腕で押しやる。


「無茶だ!いくらお前でもこの数は―」


言いかけたその時、軽快なラッパの音が街に響いた。


「ノン国兵団!貴族らを守れ!」


松明を掲げた数百、いや数万のノン国兵士が各地区の門を抜け、橋を行進する。


「家族を!仲間を!国を守るのだ!」


先導する人物に見覚えがあった。


「ゆけ!勇敢なるノン国の兵士達よ!」

「おおおおおおおおおおおお!」


兵士達の声と戦いの音が街を包み込んだ。


「メイアスさん!」


兵団を先導する人物が俺達の横に立ち、フォモールへ向け剣を抜く。


「イシャルティ!無事だったのか!」


それはタブレ地区で俺達を逃がすためにダングレンと共にコカトリスゾンビの群れの中に残ったイシャルティだった。


「あなたこそ、よくご無事で!」


満身創痍の俺の姿を少し皮肉って笑う。


「ダングレンはどうしたんだ?」


俺の問いに、目を伏せ、首を横に振る。


「隊長は、家族の元へ。」


そうか・・・。

俺は無言で小さく頷いた。


「それよりもメイアスさん!ここは私達にお任せください!あなたは城へ!行かなければならないのでしょう?あなたを待っているのでしょう!?行ってください!」


イシャルティは思い切り俺の背中を叩く。


「った・・・。」


痛がる俺に、イシャルティはニヤリとしてみせた。

それからイシャルティは後方の兵士に向かい大声で指示する。


「メイアスさんにアレを!」


兵士二人がかりで大きな何かを持ってきた。


「ダングレン隊長の大斧です。あなたに使って頂きたい。」


受け取った大斧は、ずっしりと重く、思わずフラつく俺の耳に豪快なダングレンを笑い声が聞こえた気がした。


「イシャルティ。これなら大暴れ出来そうだぜ!」


大斧を肩に担ぎポーズをとる。


「実にお似合いだ。一瞬隊長がカブって見えましたよ。」

「冗談。俺はあんなゴッつくないぞ。」


お互い微笑み硬い握手を交わした。


「お行きください!」


イシャルティは改めて剣を構え、フォモール共を睨み付ける。


「メイアス!我もイシャルティと共に街を守る!皆を頼んだぞ!」


バッガスが吼える。

威嚇されたフォモール共が吼え返すと、戦いの火蓋が切って落とされた。


「かかれ!」


イシャルティの掛け声で兵士達が一斉に駆け出す。

バッガスが先陣を切りフォモールに殴りかかった。


「旦那!」


様子を伺っていたタミンが俺を呼ぶ。


「乗ってくだせェ!あっちゅう間に城までお届けしやすぜッ!」

「頼んだ!」


俺は車内に入らない大斧を担ぎ、魔導車の屋根にしがみいた。

そこへリテルが駆け寄ってくる。


「メイアスさん!」

「リテル。お前は―。」

「私!」


リテルは背負っている大きな鞄を見せる。


「・・・ああ、怪我人を頼む!」

「はい!」


近くにはバッガスもノン国兵団もいる。

それにあんな目で見られちゃな。


「タミン!超特急で頼んだ!」

「あいよ!」

読んでいただきありがとうございます。

次回、多くの人の意思を胸にメイアスは走る!

次話も読んでいただけたら幸いです。

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