魔人 ④
「うおおおおお!」
脚が回る。
マリウスの魔法のおかげでスピードが格段に上がってるのが解る。
一瞬で間合いを詰め、勢いのまま大剣で突く。
空気を切り裂く剣先が雲を引く。
ギィィン
受け流そうとする魔人ポレーの剣が火花を散らし、しなる。
この手応え。
俺のスピードが勝り始めている。
だが、魔人ポレーはいまだ満面の笑みを浮かべ楽しんでいる様だ。
そして、弾かれる様に体を回転させ、俺の攻撃をいなすと同時に回し蹴りを繰り出す。
「ぐっ!」
回し蹴りを背中に受け、俺は飛ばされて床をすべる。
「ちぃ!」
足を回転させ、勢いで飛び起きると、すぐに走り出す。
その間、グリムの投じた爆薬付きナイフが、魔人ポレーの足元に突き刺さり爆発。
スピードに乗った俺は、その爆炎ごと大剣で切り裂いた。
ザシュ!
火の粉と泥が飛び散る。
「また泥かよ!」
爆発の瞬間、魔人ポレーは厄介な泥の壁に身を包んでいたのだ。
「メイ!直線的な攻撃は分が悪いよ!」
マリウスが、ゴーレム2体を風の刃で翻弄しながら俺に意見する。
「わぁかってる!」
言われなくてもそうするさ!
「そぉぉぉぉぉららららららぁぁ!」
大剣を回転させ何度も切りつけると、泥は飛び散り、しだいに壁は崩れだした。
隙間からニヤつく魔人ポレーの顔が見えた時。
「だらぁぁ!」
隙間めがけ大剣を突き刺す。
魔人ポレーは壁と一緒に泥となり弾けた。
「ハッ!何度も逃げられると思うんじゃねぇぇよっ!」
左後方。
俺は、地面から湧き出す泥へ目掛け一直線に駆け出す。
湧き出す泥の中から、いまだニヤつく魔人ポレーの顔が浮かび上がる。
「いつまでも胸糞わりぃ笑顔浮かべやがって!」
大剣を思い切り振り上げた。
だが、すぐに俺と魔人ポレーの間に泥の壁が湧き上がる。
だよな。
直線的な攻撃は分が悪い。
もっとトリッキーな攻撃で相手を翻弄しなければ。
でも、それは俺の役じゃない。
「あんたも学習しねぇな。」
俺は、振り上げた腕の間から嫌味な笑顔を返してやった。
魔人ポレーから笑みが消える。
真顔になったまま魔人ポレーの首は宙を舞った。
その背後には、ナイフを逆手に持つグリムが立っていた。
目に焼き付く光りの軌跡は、グリムのスピードがいかに早かったかを感じさせる。
だが、グリムはナイフをくるりと回すと、身構える。
「・・・ほっんと厄介・・・。」
グリムの言うとおり、本当に厄介だ。
転がった魔人ポレーの頭部も、力無く膝をついた胴体も、泥となり崩れ落ちる。
限がない。
「・・・こりゃどうすりゃ―。」
「メイ!」
マリウスの声に俺は振り返る。
同時に一体のゴーレムが轟音と共に倒れ、砕け散る。
え・・・もう倒しのか?
もう一体のゴーレムには、マリウスの魔法でサポートされたアーデ達が必死の形相で食らいついている。
「たぁぁ!」
ミシェルは槍でゴーレムの左足を突き刺す、と言うより突っついている。
「だぁぁ!」
飛び上がり剣を振り下ろしたアーデは、易易と弾かれ、腕が痺れたのか剣を落とした。
魔法、意味ねぇな・・・。
マリウスの魔法で動きは良くなったが、攻撃が軽すぎてどうにもならない。
「フレイムアロー!」
リリの唯一の魔法が放たれ、当たったゴーレムの肩が僅かだが崩れる。
唯一の魔法でよく頑張ってる。
マリウスならリリの魔法をもっと強く出来そうだな。
そして、ふと目をやると、クリアが弓を構えている。
だが、矢尻はゴーレムでは無くもっと上を狙い定めている様だ。
クリアは小さく息を吐き止めると矢を放つ。
放たれた矢は、ゴーレムの真上にあるシャンデリアの付け根をピンポイントで打ち抜いた。
おぉ・・・やるな!
落ちたシャンデリアはゴーレムの頭を砕き、床で弾けた。
しかし、戦いにおいて男二人より女二人の方が勝るとは・・・。
まぁ俺の隣にはさらに異常な強さの女がいるんだった。
ちらりとグリムを見ると、満足そうに勇者一行を見詰めている。
すると突然すぐそばに気配を感じ振り向く。
「おやおや。ワシのゴーレムをいとも容易く。」
魔人ポレーは、なに食わぬ顔で俺の真横に立っていた。
「くぅのッ・・・野郎ぉ!」
大剣を振ると魔人ポレーは後ろへ飛び、避ける。
その余裕がなんとも腹が立つ。
泥の壁を抜ければなんとかなると思っていたが甘かったか。
奴自身が泥である以上、物理攻撃は効かないという事だ。
「・・・こりゃどう―。」
「メイ!」
突然耳元でマリウスの声が響く。
「なんだ!?」
振り返るとマリウスは遠くで頷く。
「良いかいメイ。相手は泥土の属性。だから―。」
「ちょ!ちょっと待て!これは・・・?」
遠くにいるマリウスの声が耳元で聞こえる。
「説明いらないんだよね?」
マリウスの嫌味も耳元で鮮明に聞こえる。
これも、魔法か・・・なんでもありだな。
魔法を学ばなかった事に少し後悔した。
「で?何か策でも?」
そう言えば、さっきも俺を呼んでいたな。
「やっと聴く気になったみたいだね。」
聴く気がなかった訳じゃない。
「なんとなくタイミングが、な。」
俺の言い訳にマリウスがため息をつく。
「良いかい。相手は泥土の属性だから―。」
「メイアス!」
今度はグリムが話を遮る。
仕方がない。
緊急事態だ。
魔人ポレーが、禍々しい笑みを浮かべ、手の平を向けている。
これはヤバイ。
そう思った時には俺の左腕は泥の弾丸に弾かれ、その衝撃に体は回転し後ろへ吹き飛ばされる。
「くっ!つぅ・・・。」
左腕は、辛うじて折れてない。
だが、ちぎれ飛んでいないだけでも不思議なくらいな衝撃と痛みだ。
「メイアス!」
「メイアスさん!」
グリムとアーデの悲痛な声が聞こえる。
左腕は使い物にならなそうだ。
「くっそが・・・。」
大剣を床に突き立て体の支えにする。
「メイアスさん!」
アーデは駆け寄ってくると、俺の赤黒く変色した腕を痛々しそうに見詰める。
「アーデ!よそ見するな!」
魔人ポレーはいまだ手の平を向け、俺の反応に嬉しそうに小さく頷くと、泥の弾丸を数発放った。
「うあ!」
即、目を瞑るアーデ。
マリウスが咄嗟に風の壁を張り泥の弾丸を弾く。
「上出来。」
魔人ポレーはそうつぶやくと手の平を返し、人差し指で空を舐める。
すると、アーデの目の前の床が泡立ち、泥の槍が飛び出した。
俺は右手のみで大剣を床から引き抜く。
「くぅっ!」
右上半身の筋肉がブチブチと千切れ悲鳴を上げる。
片手だけじゃ間に合わない。
「だらぁ!」
大剣を掴む右手を一度下へ、それを軸に体を回転させる。
右手を突き上げると同時に体を大剣の下へ潜り込ませ、大剣を背負い投げる。
ギィィン
アーデがそっと目を開ける。
「う・・あ・・・。」
目の前スレスレに俺の大剣が床に深く突き刺さり、それを貫いた泥の槍がアーデに軽く触れる。
「アーデ!借りるぞ!」
俺は呆然とするアーデの腰に差す剣を思い切り引っこ抜く。
アーデは頷いたのか震えたのか分からないくらい細かく数回首を縦に振った。
アーデ用の剣は片手剣で軽く、右手のみで持ってもナイフ程度にしか感じない。
俺は走りながら剣を左右に振り円を描く。
片手剣の持ち味はなんといってもスピードだ。
リーチも硬度もそこそこで攻守バランスが良いのも利点だろう。
素人にも玄人にも愛される。
「だらぁ!」
振り下ろした剣は魔人ポレーの剣に弾かれる。
だが、弾かれた勢いをスピードに乗せ、剣先は弧を描き、再び魔人ポレーの剣とかち合う。
「んなろ!」
「甘いわ!」
お互いの剣は幾度もかち合い火花を散らす。
魔人ポレーが軽く後ろへ飛び退き、一旦間合いを取る。
「良い顔をしておるのぅ。やはり―。」
言いながら大きく踏み出し、下から剣を振り上げる。
キィン
俺はそれを体半身捻りながら剣でいなし、クルリと逆手に持ち替える。
「やはり、なんだっよっ!」
逆手のまま首を狩りに行くが、魔人ポレーは上体を捻り床に片手を付き俺の攻撃を躱し、さらに体を回転させる。
「やはり!」
勢いに乗った魔人ポレーの剣が俺の足元を狙い迫る。
「あっぶねぇ!」
俺は飛び上がり空中で回転し、着地と同時に魔人ポレーへ向かって剣を振り下ろす。
当然、軽々と飛び退き躱される。
「ふふふ・・・実に楽しそうだな。」
魔人ポレーは満足そうに笑う。
そして気付く。
奴の言うとおり、俺の顔は楽しそうに笑みを浮かべていた。
読んでいただき有難うございます。
次回、決着のつかない戦い。カギを握るのは・・・・。
次話も読んでいただけたら幸いです。
最近多忙の為、更新が不定期になります。
頑張ります!




