大魔導士 ②
歓喜に沸いていたノン国軍もすぐに事態の収拾へ向けて動き出した。
タブレ地区は、いまだ濃い毒に侵されている。
浄化の方法を探る為、各部隊はタブレ地区内へ向かった。
ダングレン隊の救出部隊も編成され、俺達に場所の確認をすると魔導車で向かって行った。
一方、俺達は、ノン国中心部貴族街ステルナトリへ向かうべく、タミンの運転する魔導車に乗り込んだ。
「ラーリが王宮へ向かってからもう1時間近く経ってる。」
俺は、ノン国軍第1部隊長に聴いた情報を皆に伝えた。
「それじゃ・・・。」
アーデが悔しそうに肩を落とす。
「まだ決まった訳じゃないでしょ。」
クリアが冷静に言う。
確かにその通りだ。
今、魔導車に乗っているメンバーは、俺、グリム、マリウス、アーデ、クリア、ミシェル、リリの7人だ。
バッガスは思った以上に深手で、治療が最優先された。リテルも、脱出した途端にへたり込んでしまい、バッガスと一緒に静養する事になった。
「そうだマリウス。さっきの話。」
俺の問い掛けに、黙って考え込んでいたマリウスが小さく頷いた。
「うん。さっきゾンビ達に打った矢には魔力を遮断する風魔法を掛けていたんだ。それによって、やつらは動力源となる魔力を遮断され動かなくなった。ただ、その時に風の精霊が教えてくれたんだ。やつらを動かしていたのは、土の精霊だって。」
「土の精霊・・・。それじゃあ、魔族や魔人じゃないって事だよね・・・うーん・・・。」
グリムが腕を組み考え込む。
「どういう事なんですか?」
ミシェルが口を挟む。
マリウスは、チラリとミシェルを見ると、ミシェルは思わず目を逸らす。
「魔族や魔人は闇属性だからだね。」
「あ・・・そう・・・ですよね。」
マリウスに言われ、ミシェルが小さく縮こまる。
この二人の関係・・・面倒そうだ。
マリウスは全く気にしていない様だが、ミシェルの苦手感が半端無い。
それに、リリはずっとマリウスに熱い視線を送っているのも問題だ。
「ただ・・・。」
マリウスが何かを言いかけて考え込む。
「ん?ただ?」
俺が訊き返すとマリウスは伏し目がちに顔を上げる。
「土の精霊に不満の様な感情があるんだ。」
「ん?不満?」
精霊の感情・・・?
「メイ・・・。君はもう少し魔法について勉強した方が良いよ。」
マリウスが溜息をつく。
悪いが全く興味は無い。
「いいかい。この世界はすべてに精霊が宿っている事は知っているよね?魔法と言うのは術者自身と同調する精霊と契約もしくは支配してその力を使うんだ。普通レベルの術者と精霊の間は、例えれば、店主と従業員だね。雇用契約を結び、魔法という労働力を得て、魔力という対価を払う。だから、術者の持てる財産、言わば魔力が払える限界、すなわち魔法の強さになるんだ。でも、歴代の大魔導士は、持っている魔力以上の力を発揮してきた。それは、雇用契約じゃないからなんだよ。」
マリウスの講義に頷いているのはリリだけで、後は皆一様に首を傾げている。
「言うなればボランティア。精霊が好んで術者に力を貸しているんだ。何故か解るかい?」
マリウスが先生ばりに皆に問い掛ける。
リリが張り切って手を上げた。
マリウスは笑顔で頷く。
「えっと、歴代の大魔導士は精霊と対話出来る力があるから!」
マリウスは笑顔で二回頷いた。
「その通りだね。精霊との対話。それこそが本当の魔導士の才能なんだ。潜在魔力のランクは6段階で評価されているけど、対話能力が無い魔導士はいかに最高ランクAであっても、それ以上にはなれない。そして、もう一つ、潜在魔力以上の力を得る方法がある。それは精霊を支配する事。ただ、これを可能にした魔導士は記録が残る限りでは一人しかいない。賢者ロークス・ワインド。もっとも神に近い人物だ。」
皆一斉にリリを見る。リリは照れ臭そうに顔を赤らめた。
「リリは、ロークス・ワインドの子孫だったね。」
そう言って微笑むマリウス。
ただ、その目は鋭く何かを企む目をしている。
こいつ、やっぱり魔法馬鹿だな。
あからさまにリリに興味を持っている。
いや、正しくはリリの中にある賢者の血。
賢者の魔法の知識。
とにかく、こいつはそんな奴だ。昔から・・・。
「要するに僕は風の精霊と対話ができ、彼らは僕を好いてくれているんだよ。彼らはとてもおしゃべり好きでね。いろんな事を教えてくれる。さっきの土の精霊の話もそう事だね。」
なるほど、それで土の精霊が不満持ってるって解る訳か。
精霊との対話。
そう言えば、リテルの言う星・・・。
やはり光の精霊なのか・・・。
「メイ。なにやら納得してるみたいだけど、問題はそれで終わりじゃないよ。不満を持っているのはおかしいんだ。」
マリウスが溜息を付く。
「あ、ああ。そりゃ・・・まぁ・・・そうだろうな。」
俺の適当な回答に、マリウスが肩をすくめる。
「いいかい。あれだけのバジリスクやコカトリスを操れるだけの魔導士は、確実に対話の能力を持っている。力を借りれるのは精霊に好かれなくちゃならない。それなのに精霊は不満を持っている。」
「それじゃあ・・精霊を支配しているってこと?」
グリムが尋ねる。
だが、マリウスは頭を振った。
「いや、彼らには明確な意思を感じた。支配というにはちょっと違う気がする。」
「じゃあ、どういう事なんだ?」
俺が眉をひそめると、マリウスも眉をひそめた。
「それが解らなくて不気味なんだ・・・。」
皆、腕を組み考え込む。
だが、クリアだけはそれを見回し、わざとらしく大きな溜息をついた。
「今解るのは土属性の魔導士って事でしょ。しかも、かなりの大物。」
そうだ。そんな人物は限られてくる。
「まさか・・・。」
嫌な予感がする。
「皆さん!貴族街へ着きやした!」
タミンの大声が車内に響くと、皆一斉に外を見ようと窓へ寄る。
巨大な門をくぐった先は、その門の高さと同じくらいの深さの堀が数百メートルの幅で広がり、豊富で澄んだ水を蓄えている。
そこを各地区から延びる橋が、真っ直ぐに中心へ向かって延び、円すいに立ち並ぶ貴族街の中を一方向に向かって螺旋状に通る道へと繋がっている。
螺旋状に延びる道は、最上部にある王宮へと続いていた。
そのあまりの巨大さにアーデ達は目を丸くして窓にへばり付いている。
「うわぁ・・・すごいなぁ~リテルにも見せたかったな。」
アーデは目を輝かせ景色に見入っている。
タブレ地区での事は、後を引いていない様子で良かった。
それとも、気絶させたせいで記憶がぶっ飛んだか・・・。
どちらにしてもアーデの無謀すぎる正義感と見合わない実力の差をどう埋めていくか・・・。
課題だな。
そうこう考え事をしいる内に、魔導車は市街地の入口へ辿り着いた。
「こ、こりゃ・・・。」
運転席から一番に街の様子を見ていたタミンが戸惑いの声をもらす。
「どうした?」
小窓越しに俺が尋ねると、タミンは目を丸くしたまま前方を指差す。
俺は、小窓を覗き込み、じっと様子を窺う。
あれ・・・おかしいぞ。
急いで天窓を開けると身を乗り出す。
子供たちのはしゃぐ声。
商人たちの威勢のいい声。
貴婦人たちの談笑。
そこには、なんの変哲もない日常が広がっていた。
「どうなってんだ・・・。」
前方から来た馬車の御者が丁度同じ高さにいて目が合う。
「お前さん達、そんなとこで立ち往生かい?困ってるなら手助けするが、動けんならさっさと動かんと後ろがつかえちまってる。」
御者が話しかけてきた。
「なぁ・・・あんたら、なに、やってんだ?」
この質問で合っているのかわからないが、俺は御者に尋ねた。
「俺は酒の配達だよ。もうすぐ精霊際なんでね。忙しくてたまらん。」
普通の返事。
いや、普通じゃない。
「違う違う!なんで避難しないんだ?国の状況分かってるのか?」
御者は怪訝な顔を見せると、軽く頭を捻る。
「あれだろ?バジリスクが大量発生したんだってな。なんでもタブレ地区がやべぇって話じゃねぇか。」
「そうだよ!それなのになんで・・・こんな・・・。」
段々と見えている現状とさっきまで身を置いていた状況の誤差に頭が混乱してきた。
「心配ねぇよ兵士さんよ。兵士さんだよな?そんな恰好してんだしなぁ。ここはさぁ分厚くて高けぇ壁に、深い深い堀と水で守られてんだよ。慌てなさんなって。」
そう言うと笑いながら通り過ぎて行った。
呆然と見送る俺の耳に、俺達の会話を聞いていたのだろう、周りにいた豪華な装飾を身に纏った貴族連中の声が聴こえてきた。
「バジリスクなんてさっさと追い出せばいいのに―。」
「せっかくの精霊際が台無しだ―。」
「軍は何やってんだ―。」
「使えない軍―。」
俺の奥から怒りが込み上げてくる。
「国の為に命捨てるくらいじゃないと―。」
「国王が優しすぎるんだ、もっと―。」
「そうだ。用水路を壊して全部洗い流してしまえ―。」
俺の中で何かがブチ切れる。
魔導車の天窓から外へ飛び出し、一直線に貴族連中の元へ向かう。
「お前ら!」
俺は、一人の貴族の胸ぐらを掴もうと手を伸ばしたが、直前でその手を別な誰かが掴んだ。
「メイアス殿。」
名前を呼ばれ目をやると、そこにいたのは、なんと最重要容疑者ラーリ・ゼイオ本人だった。
読んでいただき有難うございます。
次回、現れたラーリ・ゼイオ。彼の口から語られたのは・・・。
次話も読んでいただけたら幸いです。




