脱出 ⑥
俺達の体は一度フワリと浮くと、一瞬垂直に落下する。
内臓が浮き上がる様な感覚が全身を痺れさせる。
落下はほんの一瞬で、すぐに滑車はロープを噛み、俺の腕に確かな感覚を伝える。
錆びついた滑車は、使われる事に喜んでいる様な甲高い声を上げ、火花を散らしながらスピードを上げる。
掴む手がビリビリと震える。
「うおぉおおぉ!」
目標を間近に捉え、俺は手を離した。
空を飛ぶ感覚とはこういうものだろう。
滑車から得た推力は真っ直ぐに魔導車へ向けて俺達の体を飛ばしてくれた。
そのままグリムの背後に迫るバジリスクゾンビへ飛び蹴りを食らわし、砂煙を上げ地面へと着地した。
「メイアス!」「メイアスさん!」「旦那ぁ!」
皆が口々に俺の名前を呼ぶ。
「待たせたな!」
グリムの安堵の目と勇者一行の期待の眼差しに俺は親指を立てて答えた。
「リテルは中へ入っていろ。」
突然の空からの来訪者にゾンビ共が困惑している内に、リテルを素早く魔導車へ乗り込ませると、魔導車の上へ飛び乗りグリムの隣に立った。
「んで、どうしてこうなった?」
俺の問い掛けにグリムが頭を振って答える。
「わからないの。突然魔導車が動かなくなって・・・タミンが何度も起動し直してもダメなんだよ。」
故障?魔導車の精霊の力で動いている。
滅多に壊れる事は無いはずだが・・・。
「とにかく・・・やべぇな・・・この状況。」
俺はそう言いながらグリムに手を差し出す。
グリムは何も言わずにナイフを1本俺の手に置いた。
「バッガス。生きてるか?」
魔導車の前方に仁王立ちしているバッガスに声をかける。
バッガスの足元は大量の血で黒く染まっていた。
「生きている。・・・今はな。」
その返答に俺は苦笑いで返した。
確かに、今のところは生きている。
だが、正直、絶望的な状況だ。
何か・・・何か策は無いのか・・・。
嫌な汗が全身から噴き出す。
困惑していたゾンビ共も体制を低く構え、臨戦態勢を取り始めた。
「来るぞ!」
バッガスが吼え、ゾンビ共を威嚇する。
俺は魔導車から飛び上がり、着地と同時に逆手に持ったナイフをバジリスクゾンビの頭に突き立てる。
体を後ろに引くと、力一杯ナイフでバジリスクゾンビの頭を切り裂いた。
バッガスは、近づくゾンビを次々と爪で引き裂き、吹き飛ばしていく。
傷を負っているとは思えない。
だがそこへ、コカトリスゾンビのクチバシが迫る。
「バッガス!」
俺がナイフを投じようとするより早く、リリの魔法が放たれ、顔を焼かれたコカトリスゾンビが首を振り回し、周りのバジリスクゾンビを弾き飛ばす。
なんだかんだでしっかり働くな。
感心している俺に向かって、別のコカトリスゾンビがクチバシを振り下ろしてくる。
「ナイフじゃ受けきれねぇぇぇ!」
叫びながら、タイミングを合わせ、思い切り蹴り上げる。
俺のブーツのつま先には厚め鋼鉄の板が付けられていて、十分武器になる。
「ってぇぇ!」
武器になるからと言って、コカトリスゾンビの攻撃を弾くには向いてない。
脚への衝撃が腰まで伝わる。
これ以上、コカトリスゾンビの攻撃を受けきれそうには無いな。
グリムもバッガスも必死に戦っている。
だが、その表情を見れば限界が近いのが解る。
「くそ・・・。」
そう俺は呟く。
人生でピンチの時はいくつもあった。
だが、この時の事は忘れられない。
一斉に這い迫るバジリスクゾンビ共は黒い波。
それを乗り越え迫るコカトリスゾンビのクチバシは津波だった。
到底俺達で捌き切れる量じゃなかった。
終わりか・・・。
そう思った時、一陣の風が吹いた。
それは、俺達には優しく、みるみる内に負っていた傷を癒していき、ゾンビ共には激しく切りつけ、奴らの体を鋭い刃物で切った様にバラバラにした。
そして、風はそのままゾンビ共の残骸と共に空高く舞い上がると、目の前には荒廃した街並みが静かに広がっていた。
あっという間の出来事に、全員が目を丸くして、ポカンと口を開けている。
「相変わらずだね。メイ。」
その声は爽やかな風の様に上空から聴こえた。
俺達は一斉に目を向ける。
そこには、整った容姿でサラリとした銀髪の男が、優しげな微笑みを浮かべ、そして、その男自体も空に浮かんでいた。
「・・・!」
よく見れば知った顔。
俺以外のやつらも見た事のある顔に目を擦り何度も見比べている。
「マリウス!」
そこにいたのは俺の双子の弟マリウス・ヴァンドゥースだった。
読んでいただき有難うございます。
次話、現れた双子の弟マリウス。魔法馬鹿の実力がいかんなく発揮される・・・!
次話も読んでいただけたら幸いです。




