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脱出 ⑤

星。

あの晩、リテルが木の上で話そうとしていた。

光の精霊かも知れない存在。

俺は、リテルの指差す方向を凝視した。

遠くにひときわ高い建物が見える。

その屋上・・・。


「・・・いる。」


俺の目に確かに動く人影が映る。

そいつは俺の視線に気付いたのかすぐに姿を隠した。

間違いない。

やつがこの首謀者だ。

残念ながらローブに身を包んだそいつの顔は拝めなかった。


「メイアス!」


突然のグリムの声に俺の意識が引き戻される。

見れば、俺とリテルはすでにバジリスクゾンビに囲まれていた。


「しまった!」


ほんの一瞬の間に俺達は完全に分断されてしまったのだ。


「メイアス!」


もう一度グリムが叫ぶ。

なんとか分断された俺達二人の元へ来ようとしているが、魔導車にも大量のバジリスクゾンビが群がり、グリムもバッガスも余裕は無さそうだ。

こっちはこっちでなんとかするしかないか・・・。


「グリム!先に行け!」


俺がそう言うとグリムは首を大きく横に振る。


「なんとか道を開くから!」


グリムは魔導車の屋根に飛び乗ると、持っているありったけの投げナイフを投じる。

投げナイフは正確にバジリスクゾンビ共の頭を貫いていく。

だが、数が多すぎる。

しかも、バジリスクゾンビは頭を撃ち抜かれても僅かな間動きを止めるだけですぐに動き出した。


「倒すのは無理だ!先に逃げろ!」

「だめだよ!」


グリムは納得いかないと頭を振る。


「策はある!」


俺はニヤリ顔を作り、嘘をついた。

まぁ策は嘘だが切り抜ける自信はある。

それに、魔導車への攻撃は次第に増している。

何故だか俺とリテルの周りの奴らは、俺達を中心に一定の距離を置いて動かない。

いずれにしても理由を模索している場合じゃない。

今危ないのは魔導車の方だ。


「早く逃げろ!」


俺は腕を大きく振る。

グリムは一瞬辛そうな顔を見せたが、俺の言葉を信じ大きく頷いた。

魔導車は、警笛を鳴らすと群がるバジリスクゾンビを物ともせず、ゆっくりとそして徐々にスピードを上げ、ゾンビ共を置き去りにしていった。

さて、俺達の周りの奴らも魔導車に気を取られている。

今がチャンスだ。


「リテル。俺が背負うからしっかりと掴まれ。」


震えながら俺の腰元に身を隠しているリテルは、返事の声も震わせ小さく頷いた。

俺は、背負っていた大剣を鞘ごと外すと、出来るだけ目立たぬよう素早くリテルを背負う。

首に回されたリテルの腕は細く貧弱だが、絶対離すまいと力強く締め付ける。

それにしても実に軽い。

アーデも軽かったがリテルはさらに軽い。

ぬくもりが無ければ背負っている事さえ忘れそうだ。

勇者一行なんて言われてるが、この儚さが、彼らがまだ子供なんだなと実感させられる。


「何があっても死んでも離すんじゃないぞ!」

「はい!」


俺は大剣を振り上げると思い切り前に投げた。

大剣は回転しながら、虚を突かれたバジリスクゾンビ共を切り裂いていく。

そのまま建物の扉を突き破り止まった。

目の前にその建物までの道が開けた。

俺は間髪入れずに走り出す。

目的はその建物の内部にある上階への階段だ。

実は策という策は無いが、ある可能性を感じていた。

やつらを引き離す可能性だ。

異変に気付いたバジリスクゾンビ共が一斉に俺の後を追ってきた。

だが、その時にはすでに俺は建物の中へ入り階段を駆け上がっていた。


「うおおおおお!」


俺の気合いに同調する様にリテルの腕が俺の首元を強く締め付ける。

この建物は3階建て。

俺はすぐに屋上の扉を蹴破った。

階段の下から嫌な気配が迫ってきている。

建物の壁を這い登ってくる気配もする。

完全に行き止まりの様なこの状態。


「だが!」


道はある。

俺は方向を見定める。

門へ向かう方角。

集中力が世界の色を消し、その中にいくつかの光を見出す。


「行くぞ!リテル!」


返事は締め付ける腕の強さで返って来た。

俺は、全力で走り出した。

見えている光へ向けて。

スピードにのったまま屋上の縁を力一杯踏み込んだ。


「どぉおぉおりゃああ!」


距離はたかだか2メートル程度。

だが、一瞬見えた地面は何故だか吸い寄せようとしている様に感じた。

隣の建物の屋上は幸いにも物も無く、俺は易々と着地した。


「しゃあ!」


振り返ると、バジリスクゾンビ共は縁に並び、まごついている。

予想通りだ。

やつらは跳躍力が無い。

戦いの中で飛び跳ねたやつが一匹も居なかった。

跳躍力を武器にするモンスターなら教会で戦った時、ご丁寧に並んで壁を貼ってくる事無く、俺達の上へ降り注いでいたはずだ。

何より、奴らは最強の毒が武器だ。

直接攻撃なんてせずに見詰めるだけで良かったのだ。


「へっ!ざまぁ―。」


俺が得意げに鼻を鳴らそうとした時。


「メイアスさん!」


リテルが叫ぶ。

嫌な気配に振り向くと目の前にコカトリスゾンビのクチバシが迫っていた。

俺は上体を捻り床に転がる。

鋭いクチバシが風を切る音をたて、俺達の耳元をかすめる。


「っはぁ!あぶねぇ!リテル!大丈夫か!?」

「は、はいぃ!」


ヤバかった。

そう言えばこいつらもいたんだ。

俺はすぐに立ち上がり、コカトリスゾンビの次の攻撃が来る前に走り出した。


「うりゃあああ!」


屋上の縁を再び力一杯踏み込み、次の建物の屋上へ飛ぶ。

ちらりと見えた地上には、先回りしようとするバジリスクゾンビ達と、俺達を追うコカトリスゾンビの血走った眼。

次の建物の屋上へも易々と飛び越えた俺は、そこから一気に引き離しにかかる。

着地する時にはもう次の屋上が目に止まっている。


「もういっちょぉぉ!」


スピードを緩めず屋上を駆け抜け、加速も合わせ縁を踏み込む。

もう恐怖感は無い。

さらに、着地し、屋上を駆け、飛ぶ。

待ち構えていたコカトリスゾンビのクチバシを空中で避け、次へ飛ぶ。

いくつかの屋上を飛び、ついに奴らの引き離しに成功したところで、思わぬ状況が目に飛び込んできた。


「くそ!なにやってんだ!」


今いる建物から十数メートル先の道に、先に行ったはずの魔導車が止まっているのだ。

しかも、周りを完全にバジリスクゾンビやコカトリスゾンビに囲まれている。

バッガスとグリムが必死の攻防を繰り広げているのが見える。

魔導車の窓からも魔法が放たれ、リリも加勢しているのが解る。

だが、バッガスもグリムも傷を負い、明らかに絶体絶命の状況だ。


「メイアスさん!」


俺の肩越しから見ていたリテルが上空を指差す。

いや、正確には目の前の手の届くところに張られたロープだ。

それは屋上の出入口の上辺りに固く結ばれ、そのロープの先は道を斜めに横切り、魔導車の真上を通り、その先の建物の一階へと繋がっている。

何かを搬送するために張られたロープの様だ。

そして、錆びついた滑車が風に揺られてカチャカチャと音をたてている。

俺はそれを掴んだ。


「リテル。覚悟は良いな?」


リテルの腕が強く俺の首元を締め付ける。


「そぉおおおおい!」


俺は思い切り空中へ身を投じた。

読んでいただき有難うございます。

防戦一方、ひたすら逃げるメイアス達の危機を救ったのは・・・。

次話も読んでいただけたら幸いです。

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