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脱出 ③

崩れた建物の破片や埃が視界を遮る。

その中で誰かが叫んだ。


「外へ!」


その言葉に従い全員が外へ転がり出た。


「くそ!みんな無事か!?」


俺の問いにグリムが答える。


「なんとか!他のみんなは―。」


グリムがぐるりと見回す。

勇者一行は全員地面にへたり込んでいるが無事の様だ。

しかし、事態は急を要する。


「立て!囲まれてるぞ!」


勇者一行は飛び跳ねる様に起き上がると各々俺やバッガスの後ろに身を潜めた。

俺は改めて辺りを窺う。

最悪だ。

さっきまで隠れていた建物がガラガラと音をたてて崩れる。

そこにはダングレンを呑み込んだコカトリスがクチバシをいずそうに動かしている。

さらに騒動を嗅ぎ付けた他のコカトリスやバジリスクが集まり出す。


「この死臭・・・。」


バッガスが顔をしかめる。

コカトリスもバジリスクも大きな赤い目は濁り、体はあちこち腐り、崩れている。

こいつらもゾンビかよ・・・。


「皆さん!」


イシャルティが駆け寄ってくる。


「皆さん!ここは我らが引き付けます。どうかお逃げください!」


イシャルティが門のある方角を指差す。

その言葉に、正義感の強いアーデが頭を振って前へ出る。


「そんな事できません!俺達も戦います!皆で生きて帰るんだ!ダングレンさんだってまだ―。」


今度は、イシャルティが頭を振る。


「勇者様・・・アーデ様。私達は兵士です。戦場では死と共におります。すべて覚悟をしてここにいるのです。隊長も当然そうです。ですが、アーデ様。貴方には、まだまだやるべき事がありましょう。どうか、その一つに我々の国の未来と、その未来の為に最後まで戦い抜いた私達の想いを、加えて頂けないでしょうか。どうか・・・生きてください。」


イシャルティの言葉はアーデの胸に刺さる。

アーデは、目を強く瞑り俯くと、歯を食いしばった。


「きっとダングレン隊長も同じ事を言うと思います。隊長の為にも―。」


「勝手に殺すな!」


イシャルティの言葉を誰かが遮る。


「こ、この声は・・・。」


聞き覚えのある声にその場の全員の視線が一か所に集まった。

それは先程からいずそうにクチバシを動かしているバジリスクゾンビ。

壁を突き破りダングレンを呑み込んだ、そいつだ。


「どぉおっせぇぇぇい!」


雄々しい声を共に、バジリスクゾンビのクチバシが上下にこじ開けられると、アーデの目の前に巨体が降って来た。


「あ~・・・死ぬかと思ったわい。」


そういうとダングレンは首をぐりぐりと回し、アーデに向かい歯を剥き出して笑った。


「普通死んでますよ。」


イシャルティは嬉しそうに言うと、剣を抜きダングレンの傍らに付いた。


「隊長!」


ダングレン隊の剣士が、大斧を放り投げる。

ダングレンはそれを片手で軽々と受けると肩に担いだ。


「メイアス・ヴァンドゥース!」


突然ダングレンが俺の名を呼ぶ。

いきなり呼ばれ無言で驚く俺をよそに、ダングレンは言葉を続けた。


「勇者様達を頼む!」


短い言葉だ。

だが、たくさんの言葉の詰まった重い言葉だ。


「アーデ。行くぞ。」


俺がそう言うと、アーデは驚きの表情を返す。


「待って下さい!ダングレンさんも生きてます!俺達も戦う!」

「ダメだ!」


俺は喰い気味に言う。


「なんで!」


いきり立つアーデに指を突きつける。


「敵の数は?俺達の状況は?何人が生き残れる?お前にそれが判断できるか。」

「そ、それは・・・やってみなきゃわか―。」


俺を見るアーデの顔には、悔しさと悲しみがありありと浮かんでいた。


「生き死にに、もう一度は無いんだよ。お前は隊長だ。お前の判断が全員の生死を左右する。自分の力量を知れ、悔しければ強くなれ。」


俺はアーデの目を見詰め、静かに、だが重く、アーデに語りかけた。

その言葉と視線に耐えきれなくなったのかアーデは俯き肩を震わせる。


「お・・・俺、勇者なんだ・・・なんで・・・なんで、何も・・・。」


アーデにはまだ早すぎるか。

俺は小さく溜息をつくと、アーデの肩に手を伸ばす。

だが、その手が触れる前に、ダングレン隊の剣士が吐血し倒れた。

左手の親指の丸印は赤く点滅していた。

アーデが勢いよく顔を上げる。

その眼は血走り、視線が定まっていない。


「アーデ!」


俺は力強くアーデの肩を掴んだ。


「助けないと・・・死んじゃう・・・あの人死んじゃう・・・。」


剣士の元へ行こうと向きを変えるアーデを無理矢理俺の方を向かせる。


「アーデ!しっかりしろ!」


アーデは一度俯くと、肩を掴む俺の手を払いのけた。


「メイアスさんがモタモタするから!助けられたのに!」


ダメだ。

アーデは完全に混乱している様だ。

そうこうしている内に、ゾンビ共がジリジリと範囲を狭めてきている。

このままだと、退路が無くなるのも時間の問題だ。

仕方ない。

俺はアーデの腹部に拳をめり込ませた。


「うっ」


小さく呻くとアーデはその場に崩れ落ちた。

少しの間、気絶していてもらおう。


「アーデ・・・。」


リテルが駆け寄り倒れているアーデに恐る恐る手を触れる。


「心配ない。すぐに目を覚ます。」


俺をリテルの頭をそっと撫でた。

さて、急ぐか。

俺は、事態を見守っていた仲間の方を振り返ると右手を上げた。


「すぐに離脱する!グリム!先頭を頼む。バッガス!リテルとリリを背負ってグリムに続け。アーデは俺が担ぐ。ミシェル。クリア。死ぬ気で走れ!」


グリムとバッガスは大きく頷いて答えた。

勇者一行は浮かない顔をしている。

アーデの事だろうか。

だが、今そんな事を気にしている場合じゃない。


「いくぞ!」


俺の掛声でグリムが駆け出す。

巨体を揺らして続くバッガスの背にはリテルとリリが必死の形相でしがみ付いている。

俺はアーデを担ぐと一度振り返る。

イシャルティが微笑むと頷いた。

ダングレンは振り向く事はしなかったが一言だけ「頼んだ。」と言うと斧を振り上げ、コカトリスゾンビへ向かっていった。

俺は振り返り、仲間の後を追った。

読んでいただき有難うございます。次話も読んでいただけると幸いです。

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