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脱出 ②

「う、うぁ・・・ぁ。」


ミシェルが今にも叫びだしそうだ。


「落ち着けミシェル。まだ奴らは気付いていない。」


俺達は息を潜め、ダングレンが指差す建物の中へそっと移動すると身を屈めた。


「どうする?」


俺は出来るだけ絞った声で囁く。

俺達は頭を中心に集め顔を見合わせる。


「このままやり過ごすしかないんじゃない?」


グリムが言う。

勇者一行は全員その意見に賛同。

その様子にダングレン達は顔を見合わせると小さく頷きあう。

そして、ダングレンが小声で話し始めた。


「こんな状況だが、勇者様一行にお伝えしておく事があります。」


俺達はさらに身を寄せ合うとダングレンの話に耳を傾けた。


「率直な話、今回の惨事。裏で手を引いているのはラーリ・ゼイオだ。」


真っ先に驚きの声を上げたのはイシャルティだ。


「そ、そんな馬鹿な・・・なぜ・・・。」


ダングレンはイシャルティの肩を軽く手で押さえた。


「まだ確証には至ってはおらん。だが、限りなく黒に近い。もしくは、何かしらこの惨事に絡んでいる事は間違いない。」

「では、ダングレン殿は何か掴んでおられると・・・?」


俺が尋ねる。

ダングレンは俺の目を見詰め返すと小さく頷いた。


「俺は、ラーリ上官に幾度となくバジリスク退治を行うべきだと進言していた。ある晩、俺は、再度ラーリ上官へ訴える為、彼の部屋へ訪れた。だが、ラーリ上官は居なかった。諦めて自室へ戻ろうとした途中、思わぬところで彼を見かけたのだ。」


ここでダングレンの言葉が途切れる。

皆は身を乗り出し聞き耳を立てた。


「それは、武器庫の前だ。」

「なんですって!なぜ!?」


その事実に驚いているのはイシャルティだけだった。


「なぜ驚くんですか?」


アーデがイシャルティの疑問に疑問を投げかける。

回答したのはダングレンだった。


「ラーリ上官は平和主義者なのだ。戦いはおろか、武器さえも国から排除するべきだと思っておる。そんな理想論などまかり通る訳なかろうに。」


そんなラーリが武器庫前にいるのが珍しい、という事らしい。


「俺は、物陰に隠れラーリ上官の動向を見張った。彼は何かをしていた。何か・・・。物陰からは結局のところ何をしていたかは分からないが、確実な事がある。ラーリ上官が居なくなった後、武器庫からある物が無くなっていた・・・子持ガエルの干物だ。しかも、備え付けのもの全てが無くなっていた。」


子持ガエルの干物・・・俺達にはもう馴染みの品だ。


「干物はこの街で見つけた。街のあちこちに置いてあったわい。ラーリ上官・・・いや、ラーリはこの大量の干物の匂いでバジリスクをおびき寄せたに違いない。」


ダングレンは大きな拳を震わせている。


「しかし、目的はなんでしょうか?平和主義者のラーリ上官が行う事とは・・・私にはどうしても思えません。」


イシャルティがもっともな考えをぶつける。


「そうです。俺もあの人がそんな悪い人には見えませんでした。」


アーデが賛同する。

そんな二人をダングレンは見詰めると小さく溜息をついた。


「勇者様。時に人は悪を隠すために善の仮面をかぶるものです。それに、理由が無いとは言い切れませぬ。実は、ラーリの父、国王ポレー・ゼイオは、奴の偏った心根が好かんのです。国王は、自らの力で国を守り戦い抜いてきたお方です。戦いが正しいとは言えませんが、守るものの為ならば時に全力で相手と向き合う必要がある。俺もそう思う。男ならば戦わなければならぬ時があるものだ!」


ダングレンは鼻息荒く言葉に熱が入る。

だが、集まる視線に照れ隠しの咳払いをすると話を続けた。


「この件、継承者争いが絡んでいると俺は考える。ここだけの話、国王は王座を第四皇子ロハス・ゼイオ様に譲るおつもりだ。」

「ロハス様に!?」


イシャルティが驚きの声を上げる。


「イシャルティよ。お主が驚くのも無理は無い。たしかにロハス様は、まだ幼い。ラーリが納得いかぬのも分からないでもないが、国王としての器は年齢ではない。ただ闇雲に平和を唱えるだけの男と、幼いながら現国王によく似ておられるロハス様では当然資質が違うのだ。ラーリはそれを妬み、国王の失墜を企てておると俺はみている。」

「しかしこれはやりすぎです!国が滅びかねない。」


イシャルティの反論はもっともだ。

本当にバジリスクを街へおびき寄せたのならば、それは王座を狙うというよりも国の崩壊を狙っていると思える。


「なんにせよ国が危ないって事なんでしょ?現状の私達も結構ヤバいと思うけど。」


話に口を挟むのは相変わらず的を射た事を言うクリアだ。


「そうですよ!こうしちゃいられない・・・早くここから脱出してこの事を知らせないと!」


アーデが急に奮起し立ち上がる。

まったくこいつはなにかと先走る傾向にあるな。

一度しっかり話しなくては。


「おい。アーデ。」


俺が言うのと同時にアーデの手を大きな手が掴み、座る様に促した。


「ダングレンさん?」


アーデの手を掴むダングレンが豪快だか優しい笑顔を向ける。


「勇者様。共に戦いましょう。貴方のその人の為を思う心こそ世界を救うのです。さぁ!皆の衆!共にこの危機を脱し、この国を救おうではないか!」


アーデがしゃがむ代わりにダングレンが立ち上がる。

ダングレンのその力強さに疲労困憊だった皆の顔に明るさがわずかに戻る。

だが、一度しゃがみかけたアーデが勢いに釣られ立ち上がろうとした、その時だった。


事態は一瞬で変わる。


激しい音をたて窓付近の壁が吹き飛んだと同時に鋭いクチバシが見え、あっと言う間にダングレンの巨体を呑み込んだ。

読んでいただき有難うございます。次話も読んでいただけたら幸いです。出来れば、週末には投稿したいと思っています。

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