タブレ地区 ③
今回は少し残酷な表現がありますので、苦手な方はご注意ください。
「バッガス!カエルだよ!カエルの!」
俺がそう言うと、グリムとバッガスが息を飲んだ。
「カエルの・・・?」
イシャルティが眉間にシワを寄せる。
「なるほど!その手があった!」
バジリスクから視線を逸らさずグリムが言う。
「カエルってなんですか?」
アーデも不安そうに俺を見詰める。
「なんでも良いから早くどうにかしてよぉ~。」
リリが泣き出しそうな声を上げる。
「子持ガエルの干物・・・。」
クリアが呟く。
ご名答。さすがアイリアスの娘だな。
「干物!そうか!持ってるんですか?」
イシャルティが目を見開く。
「バッガス!干物をくれ!」
俺は得意気に胸を張るとバッガスに手を差し出した。
「・・・すまん。カバンを落とした。」
バッガスが言う。
「な・・・どこに!?」
俺が言う。
「あそこ・・・。」
バッガスが指差す。
全員が見るその場所は、コカトリスと対峙した時にいた場所。
40メートルくらい離れている。
「行けなくもないか・・・。」
俺のスピードならなんとか行ける。
「水なら用水路がある!」
クリアが指差す。
イタチの死骸が浮いていた用水路だ。
よし・・・カバンを拾って、そのままの勢いで用水路まで走るか。
俺は大剣をしまうと深呼吸をした。
「メイアスさん、こちらで注意を引きます!その間に干物を用水路へ!」
イシャルティはそう言うと剣を強く握り締めバジリスクを睨み付けた。
「メイアス!早く行って!」
グリムは叫ぶと弓を放った。
俺はそれを合図に駆け出した。
同時に、リリの魔法が放たれ、バッガスが吼えた。
バジリスクの大群は駆け出した俺には目もくれず皆へと襲いかかる。
俺は、勢いを殺さずに落ちているカバンを掴むとそのまま用水路へ向けて走った。
あと20メートル。
何匹かのバジリスクが俺の行動に気付き向かって来た。
あと10メートル。
バジリスクが俺のすぐ後ろまで追いついて来た。
あと5メートル。
俺はカバンを右手で用水路へ目掛け思い切り投げると同時に左手で大剣を抜き、飛び掛かってきたバジリスクを切り裂いた。
「どうだ!」
耳を澄ませばカバンが用水路に落ちる音が聴こえた。
あとは干物が水を吸い込めば・・・。
まず最初に変化があったのは、俺を追ってきた数匹。
威嚇を止めるとキョロキョロと見回し、匂いを嗅いでいる。
俺はその隙にそっと離れた。
1匹が用水路へ向かい駆け出すと大群が一斉に後を追掛ける。
俺は皆を建物の影へ誘導すると無事を確かめた。
「怪我は無いか?」
どうやら外傷は無いようだ。だが、アーデ達の精神的疲労は結構有りそうだ。
「まだ入り口付近だって言うのに・・・。」
そう言ってミシェルが座り込もうとする。
「座っている暇は無い。すぐに街の中心に向かうぞ。」
俺の言葉に、リリが信じられないという顔をする。
「あたし、もう無理~。」
リリが駄々をこねる。
「メイアスさん。こんなんで救出なんて出来るんですか?あれじゃ他の部隊も入ってこれませんし・・・。」
ミシェルが不安そうに門の方を見る。
門の横の用水路にバジリスクが群がり、バシャバシャと大きな音を立てている。
「あそこの奴らは外の部隊に任せる。それに今救出に向かえるのは俺達だけだ。大群が干物に気を取られているのもチャンスだ。おそらく数分も経たないうちに奴らも正気に戻るだろうしな。さぁ立て。行くぞ。」
俺と案内役にイシャルティが先頭に立ち、勇者一行を挟んでグリムとバッガスがしんがりに付いた。
中心へと向かう俺達の目に入るのは街の酷い有り様だった。
商店に並んでいる果物は腐敗し泡をブクブクと噴いている。
草花は枯れ果て、存在する全ての物に精霊を感じる事もない。
「怖い・・・。」
リテルが呟く。
「大丈夫だよ。俺が付いてるから。」
アーデはリテルの手を握り離さなかった。
俺達は周囲に神経を張り巡らせながら先を急いだ。
そのうち、俺は一つの疑問を感じる様になった。
この腐敗した街に無いものがある。
当然無ければ無い方が良い物。
そうだイシャルティは多くの人々が逃げ遅れたと言っていた。
俺は周囲を注意深く見る。
やはり、人の死体が一つも無いんだ。
どこかに逃げ延びているのか。
だが、これだけの事態にその希望は薄いだろう。
ただ運良く腐敗した死体を見付けていないだけなのか・・・。
それともバジリスクやコカトリスに食い尽くされたのか・・・。
この答えは程無くして分かった。
それは、立派なアーチを抜け居住区へ入ったところだった。
「教会はこの居住区の外れに有ります!」
先導するイシャルティが遠くを指差す。
まだここからでは教会は見えない。
「リテル、大丈夫?」
そう言うアーデ自身も息を切らし苦しそうだ。
一刻の猶予も無い俺達はそこそこのスピードで移動していた。
体力の無い彼らにはキツイだろうがスピードを落とす訳にはいかない。
むしろもっと急ぎたいところだ。
「バッガス。リテルを背負えないか?」
俺は一度歩みを止めバッガスに訊いた。
「まったく問題ない。」
そう言うとバッガスが大熊に変身した。
「毛に掴まるんだ。振り落とされないようにしっかりとな。」
バッガスが背を向けると、リテルは一礼して背によじ登った。
巨体のバッガスの背に小さなリテル。
背負うと言うよりも、くっ付いていると言う方が正しい。
「よし、もっとスピードを上げるぞ。しっかり付いて来い。」
一気に走り出そうとしたところで俺達の目に意外な物が飛び込んできた。
通りをゆっくりと横切る人。
「人が・・・歩いてる。」
ミシェルが見たままを口にする。
「・・・なんで?」
リリが当然の疑問を口にする。
良く見ると歩いているのは一人ではない。
それに正確には横切っているのではなく、ふらつきながらこちらへ向かって来ている。
嫌な予感しかしない。
「大丈夫ですか!?」
アーデが大声で呼び掛ける。
返事は無い。
ただゆっくりとこちらへ向かってくる。
人数はいつの間にか増え30人以上はいるだろうか。
「アーデ。下がれ。」
俺はアーデに命じると大剣を抜いた。
「メイアスさん?」
アーデが戸惑う。
「メイアス!後ろからも!」
グリムはそう言うと弓を構えた。
「・・・匂うな。腐った匂いだ。」
バッガスが牙を剥く。
読んでいただき有難う御座いました。良かったら続きも読んでやってください。




