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ノン国 ⑤

ノン国の現状はこうだ。

6地区の内、砂漠に面しているタブレ地区にバジリスクの大群が押し寄せて来た。

住民は一斉に避難したが、突然の事態に多くの人々が取り残されたらしい。

タブレ地区に隣接するナーコード地区とベック地区の住民も危険が及ぶ可能性がある為、別地区への避難を余儀なくされた。

現在、ナーコードとベック地区は防衛拠点となっている。

国中の魔導士を集め結界を張り、なんとかバジリスクの進行を食い止めているが、先程のイシャルティが言っていた通り、結界が数分ともたないため、常に張り続けなくてはならない状態だ。

そんな時、イシャルティの部隊の隊長であるダングレンが仲間を引き連れて結界内へ突入したと言う。

タブレ地区に取り残された人々、そして自らの妻と娘を助けに入ったのだ。


俺達は場所をベック地区に移し、タブレ地区への門近くに建てられたテントの中で話し合っていた。


「取り残された人々の生存の可能性は・・・。」


そう言うとイシャルティが俯く。


「結界内はバジリスクの猛毒で充満しています。救出に向かった隊長達は小さな結界を張りながら中を移動しているはずです。ですが、長時間はもたないでしょう。いや、それどころか短時間だって難しい。」


テント内に集められたのは、イシャルティ副隊長を含めノン国兵団5部隊の部隊長と副隊長ら9人に、ノン国王であり軍総司令官のポレー・ゼイオと上官3人。

そして俺達、討伐軍特務部隊の8人だ。

国王ポレー・ゼイオは土の大魔導士で年齢はすでに100歳を超えている。


「メイアス・ヴァンドゥース。まさかお主が隊長補佐などとはな。」


ポレーの鋭い目が俺を見詰める。

実はこのポレー・ゼイオとは、数回共闘作戦を行った事があるのだ。


「お久しぶりです。ポレー国王。」


俺は深々と頭を下げた。


「勇者御一行にメイアス・ヴァンドゥースか。実に頼もしい。勇者アーデ、光の巫女リテル、賢者リリ、魔剣士ミシェル、それに、あのアイリアスの娘クリア。あの問題児に娘とはな、いやはや懐かしい。」ポレーが笑みを浮かべる。


「父をご存じなんですか?」


クリアが尋ねるとポレーは小さく頷いた。


「知っているとも、お前の父親には散々やられたからな。多くの貴族が落ちぶれて行ったよ。まぁおかげで国は豊かになったがね。」


ポレーがそう言って微笑むとクリアは少し恥ずかしそうに笑った。


「王。今は昔話に花を咲かせている場合ではありません。」


上官の一人が総司令に釘を刺す。


「分かっておるは、ラーリよ。話を進めよ。」


上官の名前はラーリ・ゼイオ。ポレー国王の長男だ。


「それでは、イシャルティ。ダングレンが結界内に入ってすでに30分を過ぎようとしている。小結界は正確に何時間もつのだ?」


ラーリの問い掛けに、イシャルティは頭を振る。


「わかりません。タブレ地区を覆う結界が約10分程度で消え始め2分後には消滅する速さです。小結界は密度が濃いので20分はもつかと・・・。」


テント内がざわつく。


「それじゃ救出に向かった人達は・・・。」


グリムがそう言うとテント内が静まった。

そこでアーデが勢い良く立ち上がる。


「まだ分からない!救出に向かったんだ。死にに行った訳じゃない。」


その言葉に部隊長の一人が答える。


「勇者様。我々も生きている事を願っています。ですが、バジリスクの猛毒の恐ろしさは我々が一番良くわかっています。ダングレンもそれを承知で中へ入ったのでしょう。部下達も彼を慕っていますから共に命を落とす覚悟でしょう。残された我々のやるべき事はこの事態を打開し、生き残った人々を安全な暮らしに戻す事です。」


ノン国の一団は、ダングレン達を見捨てる決断をした。

賢明な判断だろう。

バジリスクに占拠された地区をどうしたら取り戻せるかも分からない中、単独行動を起こしたダングレン達の救出に時間も人員も割く訳にいかない。

結界を張っている魔導士の消耗も考えれば、とにかく時間が無いのだ。


「すでに隣国へ救援を求めていますが、到着までには早くともまだ2日はかかるかと。今は、とにかく耐え忍ぶ事が最善と判断します。以上、皆持ち場へ戻り警戒を怠らない様に。」


上官の一人がそう告げると、ノン国の一団は重い腰を上げテントを出て行った。

残されたのは俺達とイシャルティのみ。


「何か方法は無いのかな・・・。」


ミシェルがリリに言う。

さすがにリリも我関せずとはいかない様で暗い表情で俯いている。


「ねぇ。」


そう言ってクリアが顔を上げる。


「城壁の上から中の様子って分からないの?」


確かに、上からなら救出に向かったダングレンの様子が見えるはず。


「イシャルティさん。どうなんですか?」


俺が尋ねるとイシャルティは頭を振って答える。


「すでに監視はしているのですが。タブレ地区は入り組んだ街並みで、しかも、広さも5キロほどあります。中心部まで望遠鏡を使っても生存者を見つけるのは難しいです。ダングレン隊長の自宅も中心に近い場所にあります。」

「そうですか・・・。ところで小結界をかけられるのは魔導士一人に付き一人だけですか?」


俺がまた尋ねるとまた頭を振って答える。


「いえ、十数人は可能です。魔導士一人で約5メートルの結界が張れますから。」


5メートル・・・。移動するには申し分ないが、襲われた場合には狭すぎるな。


「ねぇメイアス。もしかして中に入るつもり?」


グリムが困惑した顔で訊いてきた。

正直迷っている。

今から行ったところで生存者がいるとは思えない。

タブレ地区を結界で覆うために魔導士は出払っているだろうし。

ただ・・・。


「見過ごせねぇだろ。」


俺は頭をバリバリ掻いた。

格好つけたい訳じゃないが、何もしないでいるのはモヤモヤする。

とにかく、何か方法を見付けないと。


「イシャルティさん。魔導士を二人お願い出来ませんか?」


イシャルティは、俺達の厚意に一瞬笑顔を見せたが、すぐに悲しそうに俯いた。


「魔導士の人員は割けないと思います。それに、あの結界内に入ってくれる人なんていませんよ。」

「そうです・・よね。」


やはり無理か。

バジリスクの猛毒を防ぐ手段がない限り、結界内に入る事すら出来ない。

俺達が一様に暗い顔で考え込んでいると、テントの入口から男が覗き込んできた。

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