赤い集団 ④
勇者一行の着替えが終えると俺達はそれぞれ武器や装備と重い荷物を背負い歩き始めた。
大半はバッガスの引く荷車に乗せているが、私物は基本的に自ら持つのだ。
それにしても、女はどうしてあんなに荷物があるんだ。
しかも、結局男が持つはめになる。
アーデが背負う荷物の大半はリテルの私物、ミシェルも当然リリの私物を背負っている。
クリアはバッガスに頼み荷車に乗せてもらっている様だ。
「もう疲れた~。」
覚悟をしていたリリのこの言葉は予想以上に早い段階で発せられた。
先頭を歩いていた俺は、振り返るとしんがりのバッガスまで届くように声を張り上げる。
「まだ一時間も歩いていないぞ!結界外はいつ敵が現れるかわからない!気を抜かずにしっかり歩け!」俺は必要以上に力強く一歩踏み出した。
その後、レルケの街までの道のりは順調だった。
問題があったとすれば、リリの文句が煩わしく、やむを得ず休憩を数回とったせいで、レルケの街に到着した頃にはとうに正午を回り、日がだいぶ傾いてしまっていた事くらいだ。
アーデ達は、慣れない旅ですでに疲労困憊、夕飯を済ますとすぐにベッドへ潜り込んだ。
俺とグリムとバッガスは、明日に備えて宿の食堂に集まっていた。
「あの調子じゃ明日の夕刻までに到着するなんて無理そうだな。」
俺は、紅茶をすすると大きくため息をついた。
「馬車でも借りる?」
とグリム。
「我は乗れない。」
とバッガス。
「そうだったぁ~。」
グリムは机に突っ伏した。
「とにかく、明日も日の出前に出発しよう。」
それしか方法は無い。
レルケからノン国までの距離は今日の2倍はある。
しかも、結界エリアが無いため、常に周囲を警戒しなくてはならないのだ。
やはり馬車が必要か。
バッガスが乗れるような何かを考えなくては・・・。
その時、食堂のドアが勢い良く開いた。
俺達が一斉に向くと、そこには血相を変えたクリアが立っていた。
「いない・・・やっぱりあの二人・・・。」
クリアが小声で言う。
「どうした?」
俺が持っていたティーカップを置き近付くと、クリアは珍しく助けを求める目で俺の顔を見上げた。
「あの子・・・リテルが居なくなっちゃった!」
「居なくなった?何があった!?」
俺はグールの事件を思い出した。
あれが勇者一行を狙ったものだとしたら・・・。
「落ち着いて。クリア、何があったか教えて。」
グリムはクリアの手を引き、椅子に座らせた。
「私、夕食の時、リテルに鎌鼬の事話したんだ。バジリスク退治に使う事、鎌鼬も死んじゃうって事も・・・。あの子があんな鎌鼬なんて可愛がってるとは思わないからさ。そしたら、あの子真っ青になって・・・。」
「鎌鼬?」
「うん。あの子夕飯食べ終わったら何も言わないで、すぐにベッドに入ってたから、ショック受けちゃったのかなって思って。気になって、さっき部屋を覗いて見たら居なくなっちゃってて。もしかしたらって思って鎌鼬見に行ったら籠ごと無くなってて。」
「とりあえず落ち着け。リテルがイタチを逃がしに行ったって事か?」
「うん。たぶんアーデも一緒に・・・。あの二人結構頑固で、思い立ったらすぐ行動しちゃうって言うか、いつも先走っちゃうのよ。」
これはまいった。
クリア同様、俺もリテルがそこまでイタチに執着してるとは思わなかった。
まぁ危険がある訳じゃなさそうだから一安心だが、さっさと見付けて、ガッツリ叱らせてもらおう。
「ったく。何やってんだ。グリム、バッガス探しに行くぞ!」
「うん!」
グリムが答え、バッガスは頷いた。
「ねぇ!私も・・・。」
クリアが言う。
「お前はバッガスと一緒に探せ。単独行動はするな。いいな?」
クリアは頷くとバッガスに付いて宿を出ていった。
獣人のグリムとバッガスは鼻が利く。
「グリム。どうだ?」
鼻を四方へ向け匂いを嗅いでいるグリムが首を捻る。
「うーん。たぶんこっち!」
走り出したグリムの後を追い、俺達は街の中心を流れる川辺へとたどり着いた。
草が生い茂る川辺ならイタチを逃がす場所に最適だろう。
「近いなぁ~・・・。」
グリムが言う。
反対の川辺へ向かおうと橋を渡り始めると、反対からバッガスとクリアが走って来た。
「この付近だ。」
バッガスもグリムと同意見の様だ。
俺達はぞれぞれ橋の欄干から身を乗り出すと注意深く辺りを見回した。
最初に二人を見付けたのはクリアだった。
「ほら!あそこ!」
精一杯伸ばした指の先を俺達は食い入るように見る。
月明かりが照らす川の浅瀬に、脛まで水に浸かった二人が居た。
「あいつら!まったく、こんな―。」
言い掛けたところで俺は妙な気配を感じた。
「様子がおかしいぞ。」
バッガスの低い声。
「囲まれてる!」
グリムが真っ先に駆け出した。
俺達もそれに続く。
夜目が利くグリムには何かが見えている様だ。
囲まれている?一体何に囲まれているんだ。
近付くにつれ、それが何なのか良く見えてきた。
「レッドキャップだ!」




