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赤い集団 ②

翌朝、早速マリウスへ手紙を書いた。

勇者一行については一切語らず、新人研修の講師を頼みたいという事にした。

俺は、朝一に手紙を出し、その足で特務部隊本部へ向かう。

今日は、ミーティング後、依頼準備の予定だ。

シユウから渡された資料に必要な物が事細かに書かれていた。

アーデ達にはこれらを街で買い集めて来てもらう。

やはり、どんな依頼も準備が一番重要だと俺は思う。

余計な物を持てば邪魔になり、怠ればいざという時に取り返しのつかない事態を招くのだ。

バランスをしっかり考える事を彼らには学んでもらわなくてはならない。

そんな使命感に燃える俺の出鼻はミーティングで挫かれる事となった。

それは、シユウが新しく持ってきた日程のせいだ。


「明日は、朝、日の出前に出発。ヤママ街道を通り正午にはレルケの街へ入ります。初日はここで一泊します。翌朝、日の出前に出発。夕刻までにノン国へ到着予定となっています。依頼達成までの期限は移動を含めて四日間です。」


シユウは相変わらず淀み無くスラスラと説明した。


「四日間!?そんな無理だろ!」


俺が言うとシユウはチラリとだけこちらを見て、すぐに資料へ目を落とした。

だが、俺はなおも食い下がる。


「二日移動で潰れて残り二日しかないじゃないか。バジリスクの棲家までの移動もあるし、退治がすんなり行くとは限らないだろ。余裕を持って行動しなきゃ。」


シユウが俺の顔の前に人差し指をサッとかざす。


「分かっています。ですが、予定は大変詰まっております。」


そう言うと俺に資料を一部差し出した。


「日程表・・・。」


そこにはそう大きく書かれていた。


「それでは続けます。」


シユウは再び資料へ目を落とした。

俺は、焦って資料の文字を追う。

確かバジリスク退治依頼達成の後だ。


「五日目の朝、日の出前にノン国を出発。そこで二手に分かれ、アーデ隊長とメイアス隊長補佐はワイズランドへ。残りはフィザリ王国のトンカン祭り参加の為、先に向かいリハーサル等に参加していただきます。祭りはノン国出発から五日後です。」

「ちょっと待ってくれ。俺とアーデだけワイズランドって、もしかしてあの依頼を受けるのか?」


俺がまた話に割り込むと、シユウはまたチラリとだけ見て、すぐに資料へ目を落とした。


「当然です。この依頼の対応によっては外交問題に発展する恐れがあります。」

「いやいや、そこまでの問題かよ。第一まだアーデ達にも話してないだろう?」

「これから説明するところでしたが?」


シユウが横目で睨む。

俺が邪魔したとでも言いたいのか。


「あ、あの。」


アーデが口を開いた。

当然、自分の話題だ。気になるのだろう。


「アーデ隊長。先日ワイズランドの使者が参りました。レーデ王女の婿候補として招待したいとのことです。」


シユウがサラリと言う。

この女の事務的で抑揚の無い感じ、誰かに似ている。


「え?俺が何です?」


アーデが訊く。


「あなたをレーデ王女の婿候補として招待したいとのことです。」


シユウがもう一度はっきりと言うと、アーデ当人よりも驚いた人物が思わず立ち上がった。


「そ、そんなの!だ、駄目ですよ!」


リテルが声を荒げる。

大人しいリテルが立ち上がり大声を出すと室内にいた全員が一斉に注目する。


「あ・・・あの・・・私・・・すいません!」


リテルは、顔を真っ赤にして部屋を飛び出してしまった。


「リテル!」


追おうとしてアーデが立ち上がり、俺の顔色を伺う。

俺は、言葉には出さず「行って来いと」とアゴで指示した。


「ふぅ・・・とりあず続けてくれ。」


俺が続きを促すと、シユウは何事もなかった様に話を続けた。


「ノン国からワイズランドへは飛行船を利用していただきます。隣国ですので約3時間程度で到着する予定です。私は、皆さんがバジリスク退治依頼中に、先にワイズランドへ向かいますので、宿で合流しましょう。フェザリ王国へはアレル街道を馬車で向かってください。アレル街道は随所に警備が整っておりますので比較的安全に移動出来るはずです。移動には三日かかります。途中、宿が数か所ありますので利用してください。」


シユウの淡々とした説明が一瞬息継ぎしたところを見計らい、グリムがそっと手を上げた。


「あのさ。リテルちゃんもワイズランドの方へってのは駄目かな?」

「何故ですか?」


シユウの眉間に珍しく小さなシワが入っている。


「いやぁ~、あの子達。結構いい感じって言うかな。その・・・好き同士って感じで。」


何故かグリムが照れ臭そうに言う。

てか、まだ恋愛どうのって言ってるのか。


「グリム。そういう話は後にしてくれ。別にアーデがレーデ王女と結婚するって決まってる訳じゃないだろ。」


俺が釘をさすとグリムが睨み返してきた。


「あんたさ。リテルちゃんの気持ち考えてる?あの子、訓練の時もずっとアーデくんの事を気にしてるんだよ。自分も訓練一生懸命やりながら、アーデくんが疲れてそうならお水持って来たり、怪我したらすぐに治療道具持って来たり。もう、ホントいじらしくて可愛いの!あたし、あんな妹欲しいなぁ~って思って―。」


完全に話が逸れた所で、アーデがリテルを連れて部屋へ戻って来た。


「すいません。もう大丈夫です。」


アーデが言う。

リテルは無言で頭を深々と下げた。まだ納得がいかない顔をしている。


「ねぇ。駄目かな?」


グリムが、俺とシユウに向かって言う。


「俺は別に良―。」

「分かりました。」


俺が言い切る前にシユウが承諾した。

意外とあっさり承諾したものだから、俺もグリムも思わずポカンとしてしまった。


「え?いいの?」


とグリム。


「はい。問題は特に無いでしょう。」


無表情のシユウが答える。


「それでは、ワイズランドへはアーデ隊長、メイアス隊長補佐、リテルさんに行ってもらいます。」


その言葉にリテルがパッと顔を上げる。

だが、すぐにまた暗い顔に戻る。

婿候補が無くなる訳じゃないからな。


「話を続けます。ワイズランドの滞在は二日です。三日目にはフェザリ王国へ向かわなくてはトンカン祭りに間に合いません。話は以上です。何かご質問は?」


黙って聞いていたバッガスがゆっくり手を上げる。


「はい。何でしょうか?」

「我は、普通の馬車には乗れん。」


確かに、巨体のバッガスが普通の馬車に乗れるとは思えない。


「それについてはすでに考えておりますのでご心配なさらずに。」


シユウが手短に答えると、バッガスは静かに手を下した。


「他には?」


シユウが目だけで見回す。

一番文句の言いそうだと思っていたクリアとリリは大人しくしている。

まぁ大人しいだけで話を真面目に聞いている様子じゃない。

髪をいじったり、小声で話すとクスクス笑ったり。

グールの時は、意外な一面を見れた気がしたが、やっぱり問題児共だ。

ミシェルは真剣に聞いている。特に疑問は無いようだ。

アーデとリテルは婿問題で頭いっぱいだな。


「私からは以上です。それでは明日からのバジリスク退治、ご武運をお祈りしています。」


シユウはキッチリとお辞儀をすると部屋を出て行った。


「それじゃ小休止して、街へ買い出しに出るぞ。後で渡すメモの通り買って来てもらう。では、30分後に城門前に集合だ。」


俺とグリムとバッガスが部屋を出て扉を閉めた途端に室内が騒がしくなる。

うっすら聞こえてくるのはリリの愚痴とクリアの罵詈雑言。

まったく言いたいことがあるならその場で言えないのか。


30分後、城門前に集合した俺達は、それぞれにメモを渡すと街へ散った。

バッガスは昨日の買い出しの続きがあると別行動となり、俺とグリムは、遠巻きにアーデ達を見守りながら買い出しをしていた。


「ねぇ。弟さんはいつ来るの?」


グリムが訊いてきた。

まだ言ってるのか。


「今朝手紙書いたばかりで分かる訳無いだろう。」

「ま、そっか。どんな顔か楽しみ~。」


グリムはそう言いながらクルクルと踊るように回って見せた。


「楽しみにするほどじゃないと思うぞ。魔術馬鹿の堅物だからな。」

「ほー筋肉馬鹿と魔術馬鹿の双子なんて、面白そう。」


グリムは、目を輝かせ尻尾を振る。

いい歳して子供みたいなヤツだな。


「あんまりはしゃぐとコケるぞ。」


俺が冗談で言うと、グリムは振り返り「イー」と歯を剥き出した。

全員が買い出しを終え、本部へ戻る頃には空が良い感じにオレンジに色付いていた。

それから、俺達はアーデ達を宿へ返し、合流したバッガスと共に荷物のチェックをしていた。


「ふむ、イタチは5匹か。まぁ十分かな。そっちはどうだ?」


俺は、イタチの籠を閉めると食材のチェックをしているグリムに声をかけた。


「ねぇ~。二日分の食事にしちゃ多くない?」


固いパンを摘み上げ名からグリムが言う。


「二日でなんとかなればの話だろ。何が起こるか分からないのに二日きっちりの食材だけ持って行くなんて自殺行為だ。」


俺は、シユウの予定なんてどうでも良いと思っている。

何よりも全員が無事に帰る事が最優先だからだ。

依頼達成も重要だが、ぎりぎりの時間を焦ってやる必要は無い。


「シユウさんに文句言われそう。」


グリムがボソッと言う。


「構うもんか。」


俺は、転がっている芋を拾い上げポーンとグリムへ投げ渡した。


「わっ!危ないなぁ~急に投げないでよ。まったくもう。」


グリムはぶつぶつ言いながら芋を麻袋に詰め込んだ。


「なぁバッガス。この二日間なにを買い出しに行ってたんだ?」


黙々と何かを袋詰めしているバッガスに声をかける。


「これだ。」


そう言ってポーンと何かを投げてよこした。

受け取ったそれは、何か乾燥した物が丸められた干物のような物体。


「なんだこれ?」


俺がしげしげ眺めているとグリムが鼻を近づけクンクンと嗅いだ。


「変な匂い・・・。」


グリムは吸い込んだ匂いを体外に出そうと大きく息を吐き出した。


「それは、子持ガエルの干物だ。使いやすい様に丸めてある。」


バッガスの言葉にグリムは素早く飛び退き俺は即それを投げ返した。


「何に使うんだよ。まさか食用・・・?」


俺は想像しただけで吐き気がする。


「子持ガエルの干物は、水で戻すと強烈な匂いを放つ。その匂いはバジリスクの繁殖時に出す匂いと似ているのだ。いざという時に、おびき寄せたり囮に使ったり出来るぞ。」


バッガスは干物を鞄に仕舞い込んだ。

チラと見えた鞄の中には同じ物が数個入っていた。

荷物チェックも終わり、粗方準備も終わった頃にはすっかり日は落ちていた。


「そんじゃ明日も早い事だし帰るとすっか。」


俺は大きく伸びをした。


「えーお腹空いたー。なんか食べてかない?」


グリムがお腹を大げさにさすって見せた。


「まぁそうだな。バッガスもどうだ?まだおごってないしな。」


そう言うとバッガスはニヤリとして頷いた。


「そんじゃ明日に備えてガッツリ食うかな!」


俺達はいつもの酒場へと向かった。

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