大捕物 ⑧
俺を救ったのは、朝から買い出しに出掛けていたバッガスだった。
回りを見れば、クリアが引率し建物の消火が行われていた。
なかなか行動力も判断力良さそうだ。
さすが・・・というのはしゃくに触るが、まぁさすがアイリアスの娘だな。
なんとか九死に一生を得たと思った矢先、引き摺り出された穴がグチャグチャと蠢く。
「やべぇぞバッガス!離れろ!」
俺はそう叫ぶと、バッガスと共にグールから飛び降りた。
転がるように離れた俺達の元にミシェルとリリも駆け付ける。
「なんだあれは・・・。」
バッガスが牙を剥いて唸る。
「メイアスさん。寄生体は?」
ミシェルは寄生体を倒せたのか聞きたい様だが、俺が答えるまでもなく、グールのぽっかり空いたどてっ腹から蠢く肉片がボトボトと溢れ出してきた。
「いやぁ!気持ち悪いぃぃ!」
リリが悲鳴を上げミシェルの背に隠れた。
「寄生体が1匹じゃなかった。」
俺が言う。
「1匹じゃなかった?ありえん・・・。」
バッガスは信じられないと眉間にしわを入れた。
バッガスがそう思うのも無理がない。
俺だって当然1匹だろうと思いヤツの体内へ飛び込んだんだ。
普通というか今まで1つの死体には1匹の寄生体というのが当たり前で、複数が同居しているなんて1度も聞いたことがない。
理由はなんなのか知らないが、それがグールに対する一般常識なのだ。
「メ、メイアスさん・・・。」
ミシェルの顔が青冷めている。
リリも目を瞑りミシェルの背にしがみ付いている。
俺も吐き気をもよおすくらいに、死臭がジワジワと周囲に広まり始めた。
死臭を放っているのは、どてっ腹から溢れ出した肉片。
それらが徐々に形を変え、2本足で立ち上がった時には、リリだけじゃなくミシェルも悲鳴を上げた。
「こりゃ・・・結構な共同住宅だったみたいだな。」
俺がそう言うと、バッガスが苦笑いした。
「もうすぐ軍が動くはずだ。それまで持ち堪えれば・・・。」
バッガスが言う。
「おいおいバッガスよ。お前いつからそんな弱腰になったんだ?十分だろ?俺達だけで。」
俺はニヤリとする。
確かに溢れ出したグールは結構な数だ。
おそらく30匹はいるだろう。
商店街の人々は、肉片が溢れ出した時点で、クリアに先導され避難している。
建物の消火もほぼ終わっている様で、少しまだ燻っている程度だ。
「ミシェル。リリ。お前らは二人で一つだ。背中合わせで戦え。絶対に離れるんじゃないぞ!」
ミシェルが俺の目を真っ直ぐ見詰めると力強く頷いた。
まぁほっといてもこいつ等は離れる事は無さそうだな。
「さぁバッガスよ!久しぶりに暴れるぜぇ!」
俺は拳を握りしめ構える。
「おお!どっちが多く仕留めるから勝負といこうか!」
バッガスは吠えると見る見るうちに巨大な熊へと変わっていく。
こりゃ本気モードだな。
獣人は、人と獣の両方に変身出来る。
ワーベアのバッガスは獣化すれば攻撃力、防御力、速度も格段にあがるのだ。
「メイアスさん!武器は!?」
ミシェルが叫ぶ。
「鍛えりゃ拳だって十分武器になるんだよ!よーく見とけ!」
格好つけて言ったが、素手なんてグールの様な柔肌の相手だから出来るだけ。
後は殴った時の感触と纏わりつく肉片を我慢するのみ。
「いくぞ!」
俺は掛声と同時に飛び出した。
まずは、加速をつけて手前のグールの頭を思いっきり殴り付け、飛び散る肉片を物ともせずに、勢いのまま次のグールに回し蹴りを食らわした。
「見たか俺のパワーを!」
ガッツポーズをする俺の横を巨大な影が風圧を纏わせ通り過ぎると、5匹のグールがミンチになった。
「ひぇ・・・ひでぇなバッガス。向こうのヤツやれよ。獲物無くなるだろ。」
巨大な影は牙を剥きだし笑うバッガスだ。
「すまない。お前がもたもたしているもんでな。ほれ見ろ、寄生体を殺さなくてはすぐに再生するぞ!」
バッガスはそう言い残し、次の獲物目掛けて突進していった。
言うとおり、俺がぶっ飛ばしたグールの頭があっという間に再生していく。
「うあ、治るの早。こんにゃろ!」
俺は大きく踏み込むと、グールの腹部に下からえぐり込む様に思い切り拳をめり込ませた。
そのまま寄生体を引き摺り出し踏み潰した。
その時、後からリリの悲鳴が聞こえ、振り返るとリリが一人でグール2匹に囲まれている。
アイツ等離れるなって言ったのに!
「ミシェル!」
俺は、無我夢中で剣を振り回しているミシェルに叫んだ。
それに気付いたミシェルが慌ててリリの元へ戻り事なきを得た。
ミシェルは、どうもテンパる癖がある様だな。精神面を鍛えないと。
それからグールを殲滅するのに時間はかからなかった。
そりゃ、バッガスが一振りで5匹近く倒すもんだ。
俺が5匹倒している間に、片付いていた。
ミシェルとリリはなんとか2匹倒した。
まぁこんなもんだろう。
軍も到着し、肥大化した肉の塊の撤去作業が始まった。
あれを片付ける彼らが気の毒だ。
そのまま後始末は任せ、俺達は、軍本部へ戻ることにした。
ミシェル、リリ、クリアの三人はバッガスに連れられアーデ達のいる特務部隊本部へ向かい、俺は事態の報告のため総司令室へ向かった。
総司令室に入ると、総司令の他に3人の人物が立っている。
「失礼しました!」
来客中だった様なので、俺は出直そうと扉を静かに閉めようとした。
すると、中から「入りたまえ。」と総司令が言う。
「え?は、はい!」
他の3人を注意深く眺めながら、ゆっくりと中に入る。
その3人は深緑色のローブを羽織っている。
その背中には良く知っている紋章が刺繍されていた。
隣国ワイズランドの使者だ。
「君。こちらへ来なさい。」
入口付近でまごまごしていた俺を総司令が手招きしている。
「はい!」
近寄ると3人の様子が良く見えてきた。
一人は、立派な髭を綺麗に整えた初老の人間。
おそらくこの中で一番偉いと思われる。
もう一人は、中年の人間。ローブの下には甲冑を着込んでいる。騎士だろうか。
そして、もう一人は女性。尖った耳に整った顔立ち。俺と同じエルフだ。
彼らも俺をじっと観察する様に見詰めてくる。
「ご紹介しましょう。彼がメイアス・ヴァンドゥースです。」
総司令がそう言うので、とりあえず敬礼をした。
「メイアス。こちらはワイズランドの国衛軍副総司令フィスエル殿、騎士団長ジニアス殿、そして、レーデ王女の侍女イルテート殿だ。」
各々が一礼する。
錚々たるのメンバーだ。
しかし、副総司令に騎士団長・・・まぁ分からなくもない。侍女・・・?
「貴方がメイアス殿ですか!いやはや、御目に掛かれて光栄でございます!」
騎士団長ジニアスが大声でガハハと笑う。豪快を絵に描いたような人物だ。
「いえ、こちらこそワイズランドの騎士団長とお会いできるとは光栄です。」
俺は軽く頭を下げた。
向こうは俺の事を知っている様だが、俺は知らない。
「メイアス。ちょうどお前を呼びに行かせるところだったのだ。」
総司令が言う。
「私をですか?」
俺に用事・・・また面倒事か。
「詳しくは、私からお話し致しましょう。」
副総司令フィスエルがゆっくりと話し始めた。
「実は、勇者御一行、いや、特務部隊でございましたか。内密にお願いがあってまいりました。」
フィスエルの目がジッと俺を見詰める。
やはり嫌な予感しかしないな・・・。




