大捕物 ⑥
俺は、その後飲食店街へとやって来た。
神経の図太いアイツらならコソコソせずに堂々とサボるだろう。
買い物をしたなら次は腹ごしらえだ。
アイツらが入りそうな店は・・・様々な飲食店が並ぶ通りをグルリと見回す。
「人が多いな。もう昼飯時か。」
腹がグーと鳴る。腹減った。
その時、耳元で誰かが囁いた。
「―ケタ。ミツケタ。」
「なんだ!?」
俺はすぐに振り返り辺りを見回す。
近くにいる人物は誰もいない。
なんなんだ?空耳?いや・・・確かに聞こえた。
俺は、怪しいやつがいないか目を凝らして見回す。
すると、思いがけず一軒の飲食店に入ろうとしているクリアとリリが目に飛び込んできた。
そこにはミシェルもいて、どうやら二人を引き留めようと口論している様だ。
「やっと見つ―。」
「―ケタ。ミツケタ。」
俺の言葉に合わせる様に、また誰かが囁く。
「誰だ!?」
回りの人々が俺の声に驚き振り返る。
チリチリとした緊張感が身体を包み込む。この感覚、なにかヤバい感じがする。
心臓が胸をドンドンと叩く、感じたことの無い違和感が俺の感覚を研ぎ澄ませ、目に映る全ての色を消すと、一つだけ鮮やかに映る物を浮かび上がらせた。
それは、ミシェルの少し後ろ、露店が目玉商品としてぶら下げているこんがり美味しそうな牛の丸焼きだ。
丸焼きはいきなりビクビク動き出すとボトリと地面に落ち、慌てて駆け寄る店主の目の前で、さらに激しく震え出す。
「ひぃぃぃぃぃぃぃ!」
店主の悲鳴に周りの人々が一斉に振り返る。
注目を浴びる牛の丸焼きは、ゆっくりと起き上った。
「グールだぁぁぁぁぁ!」
誰かが叫ぶと、賑やかだった飲食店街は一変、修羅場と化した。
王都の街中でグールだと!
人々が叫び逃げ惑う。
有り得ない。今まで一度だって魔族の侵入を許した事が無い。
グールは死体を好んで寄生する魔族の下っ端だ。
王都は強力な結界に守られており、魔族はおろか魔人さえ入ることを許さない。
なのにグールごときの侵入を許すだって・・・。
もしかしたら、誰かが誘い入れた・・・。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
絶叫が響く。
見る間に巨大化したグールに一人の少女が捕まっている。
俺は駆け出した。
「あああ!ネネェェェェェェ!」
娘の腕を掴もうと父親が必死に追いすがるが、悲しく空を掴んだ。
まずい!グールは少女を殺し、取り込もうとしている。
グールの頭部が糸を引きながら大きく開いた。
もう駄目だ。誰もがそう思った次の瞬間。
「フレイムアロー!」
誰かが火魔法を唱えた。
グール目掛けて青い炎を纏った矢が放たれた。唱えたのはリリだ。
矢に貫かれた触手は千切れ飛び、少女を空中へと放り投げた。
「よくやった!」
俺は駆けるスピードに乗ったままリリの横をそう言い残し通り過ぎた。
投げ出された少女はすでに意識を失い人形の様に空中を舞い落ちてくる。
「間に合えぇぇぇぇぇぇぇ!」
俺は気合と共に、さらに前傾姿勢となりスピードを上げる。
近づく俺に気付いたグールが触手を振り回してきた。
右に左、触手を避けながらもスピードを落とさない。
そこへ目の前に振り下ろされた触手が地面にめり込む。
俺はそれを踏み台にして渾身の力でジャンプした。
「ぜぇぇぇぇぇぇい!」
俺は空中で少女の腕を掴むと、胸へと引き込み腕で覆う様に抱き締めた。
そしてそのまま、果物屋に並ぶ色とりどりのフルーツの中へ落ちた。
幸いにもフルーツがクッションになり大した痛みも無かった。
抱き締めていた少女の顔を見ると血色も良く、息もしている。
怪我も無くて良かった。
「ネネェェェ!」
そこへ少女の父親が駆け寄ってきた。
「大丈夫ですよ。お嬢さんを連れてすぐに離れてください。」
そう言って少女をそっと父親へ抱き渡した。
言葉にならない感謝の涙が父親の目から止めどなく流れ、何度も頭を下げ離れて行った。
「さて、問題はこっちか。」
俺は改めてグールと対峙する。武器も無いこの状況ではリリの魔法だけが頼りか。
「リリ!」
俺が叫ぶと返事の代わり再びグール目掛けて魔法の矢を放った。
どうやら役目は分かっている様だ。意外と冷静に判断しているんだな。
俺がリリの元へ駆け寄ると、ミシェルが俺の前へ飛び出してきた。
「メイアス隊長補佐!」
真っ直ぐに俺を見詰めてくる。
「長い!メイアスで良い!」
いちいち隊長補佐を付けられるとまどろっこしい。
「は、はい!メイアスさん!私は何をすれば良いでしょうか!」
なかなか良い目している。だが、今の状況では足手まといだ。
「お前はクリアと一緒に人々を避難させてくれ。」
俺がそう言うと、ミシェルは少し不満そうに目を伏せた。
悪いが構ってる時間はない。
「あれ?クリアはどこ行った?」
辺りを見回すが、いつの間にかクリアの姿が見えない。
「え?あれ?わかりません・・・。」
ミシェルも不思議そうに辺りを見回す。
「もう駄目!追いつかないぃぃ!」
突然リリが悲痛な叫びを上げた。
見ればグールはさらに肥大化し、立ち並ぶ飲食店の屋根を遥かに超えていた。
「な、なんじゃこりゃ!」
俺は思わず声を上げる。
ここまで肥大化したグールを見るのは初めてだ。
このままでは街が呑み込まれてしまう。
その時、飲食店の屋根に人影が現れた。




