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鍛冶屋の爺様  作者: 隼人
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女子中学生の依頼

 嘘とは、単なる道具でしかありません。人生を生きる為、自分を守る為、他人を守る為、その他にもいろんな使い道があるものです。ハサミ一本にしても、使い方によっては幸せにもなりますし、他人を傷つけ不幸にさせます。この世のすべての物には、何も意味はありません。人がそれに意味を付けているのです。


 昔に比べますと、戦死する人数はかなり減ってきております。魔物の数が減ってきている事も、要因の一つではございますが、やはり餅は餅屋に任せた方がよろしいのです。勤め人でも戦士は戦士。その道のプロというのはやはり、いい加減な仕事はなさいません。それこそ、会社が潰れてしまいます。

 そんな中ではありますが、時たま民間人にも不幸が訪れる事がございます。先日も町中に突如魔物が出現し、何人かが犠牲になったと聞いております。その時に、父を亡くされた中学生のお嬢さんが、遺骨を持って私の店にいらっしゃいました。


「父の遺骨を精製してください。そして、指輪を作っていただけませんか?」


遺骨を精製し、鉱石を作ることはよくあることでございます。大抵の場合、遺骨はタダの骨であります。そこには思念などこれっぽちも残ってはおりません。ですので、骨から鉱石を作り出すことは容易いのでございます。


「わかりました。それでは、お預かりしましょう。料金は気持ち程度で構いません。出来上がりましたらその時に、お持ちください。」


 私は遺骨を受け取り、カウンターの上に置きました。


「あの。どれぐらいで出来上がりますか?」


「そうですね。一週間後にまたお越しください。」


 私が答えますと、お嬢さんは少し困った顔を致しました。本来なら、遺骨から鉱石を作るのは小一時間で出来る作業です。また、このような商売をを行っている企業も多くございます。しかし、なぜこのような小さな店に依頼をしてくるのか、それは、特殊な事情があるからでございます。


「もう少し、早くできませんか?出来れば今日中に作っていただきたいのですが・・・」


 お嬢さんは、少し慌てたご様子でございます。


「うちの店ではそんなに速くできませんよ。それに、お父様の魂の事もございますので・・・。どうなさいますか?」


 このような嘘を付きますのは、遺骨鉱石の精製を依頼するのは転売目的が多いからでございます。このお嬢さんの服の上からでございますが、右腕に巻かれた包帯、中学生には不必要な化粧、その下からうっすら見える隅。麻薬の類を摂取しているのは明白でございます。


「わかりました。一週間後にまた来ます・・・」


 お嬢さんは、少しがっかりしながら帰っていきました。

 それから一週間後、店にやってきたのは母親でございました。お嬢さんは、当局に逮捕されたとの事でした。また、遺骨も勝手に持ち出してこの店に持って来たそうです。


「そうでしたか。しかしながら遺骨の方はもう精製して、指輪に致しました。お代は結構ですのでお持ちください。あと、お嬢さんが出てきましたら、その指輪をお渡しください。お父様の魂が入っておりますので、必ずやお嬢さんの道を照らしてくれるでしょう。」


 母親は、泣きながら僅かばかりの代金を置いて店を後に致しました。魂なんぞ入ってはおりませんが、人の想いとは、時として大きな力になります。故人の力ではありません、今を生きている人の力でございます。生きている人間ほど強い物はこの世に存在致しません。その人生の使い方も想いによって光にも闇にもなるのでございます。

 私が使った嘘のように。 


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